ドリーム小説
目に留まった男の右目は黒の眼帯で隠されていた。
その見知った容貌はの記憶にも新しかった。
「(藤次郎さん?!)」
「あ?見みつからねーようにこんな所を通ってきたのに人がいるなんてな」
目の前で葉っぱを無造作に落としている男はどう見ても盗賊にしか見えない。
盗賊をここで見逃していいはずがない。
しかしあの時、確かにを助けてくれた人なのだ。
どうやらこの様子ではだと気付いてはいないようだった。
そう思いながらも藤次郎の手にする長刀に目が行くと、震える手がいろは包丁の紐を掴む。
いかに優しかった人でも、ここは米沢城なのだ。
盗賊なのであれば追い出さなければ。
は意を決して気合を入れ直した。
こういう場合に備えて洛兎さんと散々手合いをした。
洛兎さんが信じられないくらい強い事が、自分が強くなるにつれて分かった。
ここで怖じ気付いたら洛兎さんに申し訳が立たない。
「おい、それは暗器の類か」
抜身の刀でいろは包丁の革袋を指す藤次郎の目はどう見てもやる気満々だ。
は藤次郎から目を離さずに紐解くと、重力によって開いた袋の一番上から懐刀を抜いた。
「・・・包丁ですよ」
「そりゃ包丁には見えないが?」
「これはアナタみたいな人に対抗するために頂いた物です」
分かってんじゃねーか、と嬉しそうに呟いた藤次郎は一気に距離をつめて来た。
は刀を受けるべく小刀を掴んだ右腕にクロスさせるように左手を当てた。
激しく重なり合った刀からは鈍い音が響き、の腕は震える。
「(重い・・!)」
「細っこいBodyで結構やるじゃねーか!」
「その言葉そのまま返します!」
お互いに押し合ってから一度後ろに飛んで距離を作ると、藤次郎は手首を返して再びの元へ走り来る。
は剣先から目線を逸らさず、その場を動かなかった。
遊ぶかのように白刃を上に向けて縦横無尽に振り上げる腕をは反射神経のみで避けて思考する。
何でこの人、城なんかに潜り込んだのだろうか?
隠れるにしたってあんなに音を立てて動けば命取りなのに?
それに先程の英語にこの眼帯、城主の真似するにもこんな・・・。
あれ・・?
ガキン、と再び刀を合わせて推し測る。
ようやく視点の定まった目には上質の着物が目に留まる。
盗賊がこんな良い物を着てるだろうか。
はハッとして藤次郎の顔を見た。
「・・まさか、本物の伊達・・政宗・・公・・・?」
「ちっ」
カラン、と弾かれた小刀は砂利の上に落ち、藤次郎は片手で頭を掻いた。
呆然とするの前に取り損ねた葉が藤次郎の頭から舞い落ちてくる。
「申し訳ありません!知らぬ事とはいえ、政宗公に刃を向けるなど!」
「Ah、何者だお前?」
慌ててその場に膝を着いて頭を下げるとすごい威圧感を感じた。
さすがは奥州筆頭伊達政宗。
「私は覚範寺の洛兎和尚の使いで参りました、と申します」
「洛兎のねぇ。あいつといい、お前といい、可笑しな寺だな」
政宗はようやく刀を鞘に戻すと廊下に腰掛けた。
はちらりと政宗の様子を伺うと、何だかすごいニヒルな笑みを浮かべていた。
嫌な予感がする。
「この俺に刀を向けたんだ、責任取って貰うぜ」
「し・・死なぬ程度なら何なりと・・」
極悪な笑いを浮かべた城主は再び刀を抜いて立ち上がった。
「本気で手合わせしたら許してやる」
「・・・無理です」
冷や汗を掻きながらは、刀を持ってこっちに歩いてくる政宗に困っていた。
まさか再び刀を交える訳にもいかず、動けなかった。
政宗の刀がゆっくりと首に近づくにつれての身体は避けようと後ろに反っていった。
昔取った杵柄とはよく言ったもので、後ろに倒れそうになったは後手を着いて足を振り上げた。
驚いた政宗は瞬時に離れての身体が回転するのを見守った。
着地して目が合うとは頭を抱えたくなった。
勝手に動いた自分の身体に腹が立つ。
「お前、忍か?」
「・・・・・私のような忍がいればさぞ役に立たないでしょうね」
すると、ぐぅぅ、と音がして不審に思えば政宗が腹を押えて腹減った、と呟いた。
政宗の腹を見ていたはふと視線を感じ、顔を上げると嫌な笑いを浮かべる政宗と目が合ってしまった。
あぁ。今、心底、逃げたい・・・・。
* ひとやすみ *
・うぅ。動きを文章で表すのって難しい。
いろは包丁についてもう少し触れたかった!(09/03/01)