ドリーム小説
「今までごめんね、ー!」
「は・・?」
今まで嫌われていたはずの菊華屋の姐さん達が急に抱き着いてきた。
代わる代わるに姐さん達に豊満な胸を押し付けられて苦しいせいか、思考が停止した。
大きな溜め息を吐いたかすが姉さんに困惑の視線を向けた。
え?私、嫌われてたんじゃないんですか?
***
いつものように菊華屋で舞妓修行に勤しんでいた私は、急に姐さんから初舞台を言い渡された。
あまりに急な話で驚いている暇もなく、あれよあれよと準備が進んでいった。
不安そうに姐さん達を窺い見ていたら、おまけとばかりにかすが姉さんも一緒に舞台に立つ事になった。
相変わらず冷たい姐さん達からの催促を受けて、この、舞台にいざ出陣。
女は度胸だ、やけくそだ。
そんな訳で舞台に飛び出した訳ですが、案外、肝が据わってるらしく、いつも以上に楽しく舞えました。
あっけらかんとして戻ってきたらこんな事になったんです。
「かすが姉さーん!!これどういう事ですかー!!」
「・・だから言っただろうが、その内わかる、と」
「え?えぇ?」
の動揺っぷりに姐さん達は今まで見せた事もないような笑顔で答えていった。
その間も楽しそうにをぎゅうぎゅうに抱き締めてはいたが。
「演技・・?」
「店の決まりでねぇ。舞台上がるまでは厳しく冷たく接しないとダメなんだよ」
「ようするに上がってこれる子を振り分けてるんだと思うよ」
「みたいな真面目で可愛い子、誰が嫌うんだい?」
「ごめんねぇ!」
頬ずりされながら、離れた所で腕を組んでいるかすがには知っていたのかと視線を投げ付けた。
それに答えたのはベッタリくっ付いている姐さんで。
「ふふ。決まりだったから、かすがも言えなかったんだよ」
「かすがにも冷たくしたんだけどねぇ、この子はあのまんま。それが可愛いんだけどさ」
「なーんで、そのかすがにが懐いてたのか、それが不思議でねぇ」
今までの氷点下ブリザードから一転した今の方がには不思議だった。
姐さん達の細腕のどこにそんな力があるのか、めちゃくちゃ苦しかったけど、
仲良くなれた今の方がは嬉しかった。
***
初めてのおつかい。
そういうには簡単すぎた気もしないでもないが、初めはそんなものだった。
洛兎から小十郎の屋敷に手紙を届けて欲しいと頼まれて、述べなく頷いたは屋敷と寺を往復した。
初めこそ小十郎にも驚かれもしたが、気付けばちょうどいい小間使いのように使われる事になっていた。
役に立てるのは嬉しいからいいんだけど、と思いながら屋敷を訪ねたらタイミングが悪かったらしくからぶった。
「様が折角来て下さったのに申し訳ありません」
「いえ。出直しますから」
申し訳なさそうに謝る家人に微笑み返して寺に帰ろうとすると、呼び止められた。
目を瞬かせて話を伺うと何だか大ごとになってきた。
「様でしたらお城を直接訪ねても問題はないと思います」
「え?いや、私は・・」
「ご主人様の名前をお出しになれば大丈夫でしょう」
「え・・?」
そんなこんなで渋々ながら米沢城に向う事になりました。
確かに洛兎さんから早めの返事を、と言われてはいたが、まさかこんな事になるとは思ってもいなかった。
大体、お城ってどこから入るんですか・・・?
怪しい人そのまんまにウロウロしたあげく、ドギマギしながら門を通らせて貰った。
案外普通に門兵に声を掛けられて、普通に廊下を案内され、普通に部屋に通された。
女中さんが言うには小十郎さんは今忙しく何時になるか分からないと言う事だった。
それでもいいと伝えると彼女は一礼して部屋を出て行った。
することなく外に目をやると、寺の自室を思い出した。
部屋の中は、畳と掛け軸ぐらいしかなく、縁側の向こうは庭だった。
庭といっても寺の物と比べようもなく広く、どのくらい広いのか見当もつかない。
「少しくらい庭に出てもいいかな」
は小さく呟いて、石段にあった草履を拝借して砂利に降りた。
今ではすっかり慣れた袴にぶら下がるいろは包丁がシャランと音を立てる。
として生活するためにが選んだスタイルが今ではすっかり定着してきている。
髪は後ろで高めに結い、その根元に簪のようにハガネを挿す。
なぜだか身に着けていないと不安になるため、いろは包丁は必ず腰にぶら下がっていた。
城の庭はきちんと手入れがされていて配置やバランスが絶妙だと感心した。
ふと振り返ると客間からかなり離れた事に気付いて戻ろうと踵を返した。
すると背後で木々が無造作に揺れ、不審に思って振り返ると
抜身の刀を片手に着物をだらしなく着る男が葉っぱまみれで出て来た。
* ひとやすみ *
・菊華屋が一気にはなやぎました。
氷点下ブリザードから豊満胸地獄へ。笑
かすが姉さんは典型的なツンデレな気がする(09/03/01)