ドリーム小説
城に帰って案の定、小十郎にいつものように怒られた。
先代のって文句から始まってクドクドと説教をたれるのはいつもの事ながら
これ以上怒らせると身の危険を感じるため、素直に室に篭って溜まった仕事を片付ける。
黙々と仕事をすれば、小十郎が目を丸くしてお珍しいなんて言いやがるから視線で言い返して再び筆を動かす。
今日の分の仕事が片付くと軽く身体を捻って、コリを解す。
嬉しそうに去っていく小十郎と入れ違いのように、喜多が茶を持って入ってきた。
事務的な会話を多少した所で、喜多がいい帯の生地が手に入ったと嬉しそうに言うから、
茶屋で喜多に怯えていた女中を思い出した。
「Hey、喜多。女中にって名の女がいるか?」
喜多はなぜそんな事を聞くのかと思ったのだろう。
顔に疑問が映っている。
しかし、その表情はすぐに消えて困ったように袖元を口に当てる。
「そういえば、帯を頼んだ娘がそのような名でした。あのお蘭の所の子ですから覚えています」
「蘭の・・?」
これには正直驚いた。
蘭は目付女中と言う事もあるが、この城では別格の存在だ。
蘭はもちろん仕事はこなすが、女中の勧誘や指導などは自分から一切していなかった。
実際蘭の元にいる女中は数人しかいない。
あの蘭が推奨するだけのと言う女中は一体何者なのか、余計に気になった。
喜多が何か問題があったのか、と顔色を悪くして聞くから何もないと言ってやると小さく息をついていた。
喜多が室を出て行ってから、気まぐれで蘭の元に向かった。
室について不躾に襖を開けると、いつもの煙管を持ったまま、さして驚いた様子もなく首だけこちらを向いた。
「おや、これは珍しいお客だね」
「Sorry.欲しいものが出来た」
予想していたように蘭は切れ長の目をさらに細めてニヤリと妖しげに笑った。
***
「まさか我が殿からその名を聞くとは思わなかったよ」
蘭はさして驚いた様子も見せず、煙を吐いた。
部屋は香の匂いが充満していて煙は拡散して消え失せた。
政宗は蘭の向かいに座って眉根を寄せる。
蘭の全てを見越して高みの見物をしているような態度がどうも気に食わないのだ。
「で、どうなんだ」
「を侍女にだって?そりゃ無理ってもんだよ」
政宗はまさか断れると思って来た訳ではなかったので僅かばかり驚いた。
ただの気まぐれでを侍女にと言ったのだが、こうもあっさり断られるとつい食い下がりたくなる。
「Why?!理由は?」
「何故って、そりゃアンタ、なんて女中いないからさ」
「アァ?!」
「話が済んだなら戻りや。片倉の倅が探してるよ」
政宗が呆けていると蘭の世話係の篠がどこからか現れてパパッと政宗を部屋から追い出した。
廊下に突っ立ってる訳にも行かず、政宗は竜の右腕と言われる小十郎の声の方へ歩き出した。
「どうなってやがる・・・?」
は一体何者だ・・・?
***
「えぇ?!断っちゃったんですかー?!」
菊華屋から疲れて寺に帰ると虎珀がニッコリ笑って言ったので、は驚いて声を上げた。
寺から正式に使者が来て、を召抱えたいと言ってきたそうだ。
虎珀は目をパチクリさせて首を傾げた。
「断っちゃったも何も、まさか引き受けるつもりだったのですか?」
「・・・そういう訳ではないですが」
「なら問題はありませんね。が断ろうと、私が断ろうと、結局は同じですから」
「・・・はい」
何故かシュンとうな垂れてしまったに、虎珀は苦笑して答えた。
「微力ながら私の力が役立つのであれば、いつでもお力添えをさせて頂きたく、
お呼びであればいつでも馳せ参じたいと思います。
また、全ては私の意思であり、寺とは一切関わりない事ご理解下さい」
「え・・・?」
「と、貴方なら言うでしょうと思ってそのまま伝えておきました。
私は何か間違っていましたか?」
覗き込むように微笑んだ虎珀に、は瞬いた。
変わらずニコニコとしている虎珀にはくしゃりと笑って大きく首を振った。
「私の言いたかった事がどうして分かったんですか?」
「当然です。私はのお母さんですから」
「えぇ?お母さんですか?」
「えぇ。お母さんです」
悪戯っぽく笑った虎珀の表情に、溜まっていた疲れが解け出していくようだった。
* ひとやすみ *
・殿目線。謎のヒロインに悩みまくればイイと思う。笑
寺の人たちと話すとなごみます。 (09/02/26)