ドリーム小説
「あっはははははは!!」
「笑いすぎですよ、お蘭さん!!」
反物を二巻抱えて城に帰れば、お蘭さんに爆笑された。
不幸にも私の案内役兼面倒見を引き受ける事になった篠さんに案内された部屋に着いた途端にこれだ。
「は客なんだから堂々としてりゃ良かったんだよ」
「そうは言いますけど、喜多様ホントに迫力あって断れませんよ」
「あぁ。まぁ喜多もあの片倉の倅の実姉だからねぇ」
「えぇ?!それは・・・迫力あるはずだ」
どんどん逸れていく話に釘を刺したのは篠さんだった。
ホントに綺麗で冷静な篠さんは女でも惚れそうな美人だった。
「そうだった。、アンタの秘密を守るのに必要だと判断したから、篠にもの事を話したよ」
「安心を。お蘭様の命ですので漏らしはいたしません」
「そう、ですか」
「さぁ。そうと決まればさっさと行くよ」
「い、行くってどこに・・・?」
「女の舞台だよ」
煙管を片手にニヤリと笑ったお蘭さんの顔は怖いほど似合っていて、綺麗だった。
***
そして事件は道のど真ん中で起こった。
日が沈み、闇夜が訪れかけている町の真ん中で急に篠さんが立ち止まった。
それに気付いた私が声を掛けようとした途端、物凄いスピードでお蘭さんの前に立ち塞がった。
「お蘭様!!お待ち下さい。まさかを菊華屋へ連れて行くおつもりですか?!」
「そのおつもりだけどねぇ」
「いくらなんでも危険すぎます!あそこは私達の・・」
「お黙り、篠」
篠さんの怒りをぴしゃりと押さえつけたお蘭さんは本当に怖かった。
「その私達がやってるんだ、大事無い」
「・・・・」
「ふふ。不満げだねぇ篠。だけどアンタもの秘密を知ったんだ、協力してくれるね?」
ホントにこの時のお蘭さんほど怖いものはなかった。
いつもの顔して楽しそうに言ってるけど、篠さんに拒否権なんてなかった。
「お蘭様が仰るなら・・」
ほぼ諦めた顔をして呟いた篠さんの頭をお蘭さんはいいこだ、と言って撫でた。
お蘭さんの常識は非常識である事をこの時ほど身に沁みて感じた事はなかった。
菊華屋は花街にある待合茶屋で綺麗な芸鼓さん達がいる格調高い店だった。
「ふふ。ここはアタシがやってる茶屋でね」
「まさか・・・」
「、ここで女を磨きな」
ははは。
お蘭さんの極端すぎる考え方に私は遠くに視線をやった。
いくら女らしくなって欲しかった虎珀さんもこれは吃驚だろうな、などと私は思わず場違いな事を考えていた。
***
「こう、ですか?」
「違う違うよ!もうアタシ嫌だよ、この子教えるの」
「いくら篠姉さんの言いつけでもここまで出来が悪いとねぇ」
こんな事言われるのもさすがに慣れた。
ここでは甘えも妥協も許されず、女のヒエラルキーが存在してる。
新人の私はいびられて当然、パシられて当然なのだ。
菊華屋で一番初めに学んだ事は教えてくれる人がいないなら盗めって事だ。
舞妓になるため、必死に見て、踊っても野次が飛んでくる。
それがすごく悔しい。
私は中途半端が嫌いなのだ。
「初めから完璧に出来る素人などいない」
「かすが姉さん・・・」
頭を冷やそうと庭に出ていると後ろに先輩舞妓のかすが姉さんが立っていた。
慰めに来てくれたのかと聞けば、の首根っこ掴んで連れ戻せと言われた、と淡々と答えてくれた。
相変わらずクールな人だ。
かすが姉さんも実は私の二ヶ月前に入った所謂、新人舞妓なのだ。
私と違う所はすでにデビューを飾った舞妓って所だ。
「気になどするな。言わせておけばよい。その内わかる」
「慰めてくれるんですか・・?」
「慰め?違う。事実を述べたまで。あの者達だってを嫌って言ってる訳ではない」
「でも・・・」
「悔しいなら見て覚えろ。が納得するまで舞ってやる」
さっきよりも憮然とした顔でかすが姉さんは闇夜の庭で舞い始めた。
暗闇に広がる金糸のような髪が幻想的で私はただ呆然とその姿に見惚れていた。
何だかんだと言っても、いつも私を探しに来てくれるかすが姉さんはやっぱり優しいと思う。
* ひとやすみ *
・はい。お蘭様が用意してたのは待合茶屋。
つまり舞妓修行でした。苦労しつつも頑張って欲しいものです!(09/01/27)