ドリーム小説

信玄一同を城の外に出て見送ったと幸村であったが、どうやらまだは機嫌が悪いらしい。

膨れっ面で遠くを睨むに幸村はそっと手を差し出した。

突然のそれに目を瞬いたは幸村を見上げる。




「少し歩きませぬか?」




少々驚いたものの、はその手の意味を理解して喜んで手を乗せた。

嬉しそうに頷いたの手を引いて、長閑な田舎道を歩く。

城下を逸れればすぐに田園風景が広がり、静けさがやって来る。

幸村は時折田畑の人々から声を掛けられ、楽しげに返事を返している。

出会う人々は皆、一様に笑顔で幸村が好かれていることがすぐに分かった。

二人が手を繋いでいることをあちこちでからかわれ、何度も顔を赤くしていたが、

幸村がその手を離すことはなかった。


二人が歩き出してしばらく、幸村は山に踏み入った。

少し坂になってきて歩きにくいが、幸村の大きな手は力強くを支えていた。

木陰を潜り抜けるように歩き広い場所に出ると、日が周囲を照らして上田の田園風景を輝かせていた。




「うわぁ」

「ここは某が昔よく遊んでいた場所でござる」




そこまで高い位置にあるわけではないが、山の側面に当る場所のようで、木々が視界の邪魔をせず一望できる。

城も城下も田畑も何もかもが目の前に見える。

距離がそんなになく高度もないため、少しごちゃごちゃして見えるが、

それがただの風景でなく生きている景色なのだと思えた。




「某の生まれ育った場所を知って欲しかったのだ」




ヘラリと笑う幸村は何だか幼い少年のように見えて微笑ましかった。

好きなものを好きな人と共有したい気持ちは分かるので、も嬉しそうに微笑んだ。




「某はこの地で育ち、武田の将として槍を振るいまする」

「幸村さん・・・?」

「甘味好きの軟弱者ですし、いつも佐助に怒られてばかりで、不出来な男だと思います」




難しい顔をして小さく息を吐いた幸村はの手を引いて向き合った。

何だか真剣な空気感を醸し出す幸村に、はぼんやりと既視感を感じた。

いつか同じような光景を見たような気がする。

悩むの脳裏に浮かんだのは甲斐の風景だった。

そういえば初めてが甲斐に着いた時も確かこんなことがあった。

以前と同じように真剣な表情で言葉を紡ぐ幸村をぼんやりと見上げる。

この人は昔と少しも変わらず真っ直ぐだ。




「それでもっ、殿を思う気持ちは誰にも負けませぬし、生涯食うには困らせませぬ!」




必死に訴える幸村を見上げるは反対に昔を振り返られるほどに冷静だった。

懸命に言葉を絞り出す姿を見ていると、途端に幸村の手に籠る力や眉間の皺が愛しく見えてくる。

くすぐったい気持ちを抑えながら幸村を見ていると、急に瞳が揺れて不安の色を映し出した。




「・・・だから、某と共にこの地で生きてくれませぬか?」




この人は信濃の地が大好きで、きっと私にも好きになってもらおうとこの光景を見せたのだろう。

二人でここまで歩いて来て、緑の豊かさと人の温かさを直に感じて嫌いになれるはずもない。

おまけに、ここに至るまで私は苦労に苦労を重ねてようやく辿り着いたのだ。

手放せと言われて素直に頷けるほど、私は優しい女じゃない。

幸村さんはそんな私の気持ちをこれっぽっちも知らないからそんな不安そうな顔が出来るのだろう。

は少し強めに繋いだ両手を引いて、前のめりになった幸村の額に自分の額を合わせた。

その際に、ゴツと鈍い音が聞こえたのはご愛嬌である。




「少々複雑ですが生まれは斡祇で、姫軍師として戦場を駆けて参りました。けれど私は戦人である前に貴方の妻です」




目を白黒させる幸村に少し満足したはもう一度優しく額を合わせた。

この人は全く分かっていない。

ならば教えてあげないと。


世界を越えて、時代を越えて、家族とずっと離れたとしても、

この人の側で生きていくと決めたのだ。

こんなこと生半可な気持ちで決断できることではない。

この世界は戦うことが身近であり、命がとても儚いものだと身を以て実感させられた。

だからこそ、精一杯生き切って悔いのない人生にしないといけないと思ったのだ。

私は幸村さんが好きだ。

そこに諦めや妥協を挟むつもりはないし、元の世界の家族にそう誓った。

多分、ここでは女の私が生きにくい環境もあると思う。

だけど、幸村さんと一緒なら大丈夫な気がする。

は額を合わせながら目を泳がせる幸村を見てクスリと小さく笑う。

普段はこんなだけど、大事な所でいつも頼りになる男なのだとは知っている。




「私は、命ある限り、幸村さんと共に生きてきたいと思っています」




微笑んでそう言ったに幸村は息を呑んで目を瞑った。

本当に某は幸せ者だ・・・。

祈るように繋いだ両手に力を込めて、向かい合ったに笑いかける。




「必ずや日の本一の幸せな妻にしてみせまする」

「ふふ、一緒に幸せになりましょうね」




ニッコリ笑うにそう返されて幸村は困ったように笑った。

やはり殿には敵いませぬ。

愛しい人が笑いかけてくれるだけで、十分に幸村は幸せだった。

手に入れた幸せを生涯かけて守り抜いてみせると幸村は眼前に広がる上田の地に誓った。




「さぁ、そろそろ帰りましょう、幸村さん」

「はいっ」




帰ると表現した自分には小さく笑った。

もう十分にこの人がいる場所が自分の居場所だと思っていることに気付く。

ずっと帰りたい場所があった。

帰りたい場所というのは心の居場所のことであり、こうして移ろい居着くことができるのだ。

思えば遠くに来たものだが、ここに来たのは間違いじゃなかった。

幸村が繋いだ手を優しく引いて先を歩く。

こうして二人、ずっと仲良く共に歩いて行こう。

を気遣う優しい旦那様を見上げては幸せそうに微笑んだ。


* ひとやすみ *
・いろいろ確かめ合った二人。いやはや昔の人は祝言で顔合わせとか珍しくなかったと言いますが
 一体どうやって生活してたんでしょうね?仕事みたいな感覚だったのでしょうか?
 これから先の在り方を相手に誓うに私の方が胸が熱くなりました。よかったね!!
 さて、パノラマも次で最終話です。どうぞ最後までよろしくお願いします!                 (16/06/05)