ドリーム小説

その日は朝から慌ただしかった。

この上田城に大勢の客がやって来る予定があり、上から下へと大騒ぎだった。

躑躅ヶ崎館から信玄と武田家臣がやって来るということで、次男幸村の祝言の準備に追われていた。

信玄がのあの程度の工作で幸村の祝言を取り止めるはずもなく、今日に至ってしまった次第である。

当の本人はどうにもならないと覚った時点で逃走を図ったが、

信玄には当然読まれていて現在城内の座敷牢に放り込まれていた。

おかげで今日まで逃げられず、困り果てていた。




「さ、さ、佐助ェ!何とかせい!」

「もう諦めなよ旦那ぁ。御家同士の婚姻なんて世の習いだし、だって分かってくれるよ」




女子に囲まれてあれやこれやと世話を焼かれている幸村は身動きが取れなかった。

男なら拳で退かせるが、普通の女子には手が出せない。

傍でその様子を見ていた佐助だが、実はこちらにも忍の監視が付いておりお手上げだった。




「それにさぁ。側室って手もあるでしょー?」

「お菊様と殿の義姉妹揃って娶るなど不可能に決まっておろう!」

「じゃあ妾?」

「馬鹿を申すなっ!!」




佐助はもう匙を投げているようだが、幸村は諦められなかった。

との約束もあるが、そんな簡単な想いだったのならばここまで引き摺ってこなかった。

政略結婚は世の常であるが、それでも一緒にいるなら彼女がいい。

諦めたくないが、最早どうすれば良いのか幸村には分からなかった。

幸村の身支度が終わり、座敷牢を出された直後に、信玄がやって来た。

あまりに用意周到な出現に逃走の目は無いことを幸村は覚った。




「おぉ!似合っているではないか、幸村」

「お館様・・・。某は・・・、」

「幸村よ。お前がを好いておるのは知っておる。だが、その腑抜けた顔は花嫁に失礼だとは思わぬか?」




幸村はぐうの音も出せず俯いた。

別に菊に不満があるわけではない。

むしろと出会う前の自分ならば、番う相手が誰であろうと信玄が決めたならそれが一番正しいのだと思っていた。

だからおそらく自分が間違っているのだろう。

幸村の震える拳が徐々に力が抜けて開いていく。



――・・・殿、某はお菊様を娶ります。

未練がないはずがないが、娶るからには不幸せにするわけにはいかぬ。

傍にはいられないが、貴方をずっと心で想うことをどうか許して下され。



幸村の苦しげな表情がストンと抜け落ちたのを見た信玄は目を細めた。

小さく息を吐いた幸村は視線を上げた。




「参るか」

「はい」




への想いに蓋をした瞬間を見た佐助は、主の胸中を思って目を伏せた。

仕方がないことだとは理解している。

理解はしているが、納得しているとは言えなかった。

・・・皆が幸せになれる道があればいいのに。

唐突にそんなことを考えながら、佐助は主の後を追った。









***









幸村が広間に到着するとすでに親族が勢揃いしていた。

だが、親族以外にもなぜか見知った顔が多々あって幸村は素っ頓狂な声を上げた。




「政宗殿?!それに慶次殿まで?!」

「うるせぇ!」

「うわー。やっぱ腹立つなー」

「なぜッ?!」




入るなり不機嫌そうな視線で迎えられて幸村は困惑していた。

どうも様子が変だ。

辺りを見回すと武田の家臣はいるものの、他領の人間も多くて意味が分からない。

促されるままに席に着くと、新婦が到着したことが告げられる。

期待が高まる中、視線を一身に集める襖が開かれた。

そこに楚々とした美しい白無垢姿の花嫁がおり、周囲から溜め息が漏れた。

頭を下げているので表情は分からないが、それでも清廉とした空気を纏う花嫁は美しかった。

すると間を置かずに、さめざめと客が泣き出して喜んでいた。




「うぅ゙。良かったなぁ!良かったなぁ!!」

「幸せになるのだぞ!」




あまりの事態にポカンと目を丸くする幸村。

しかもほとんど泣いているのは武田家臣である。

何が起こっているのか未だ理解出来ていない幸村の元に花嫁がやって来る。

花嫁というものは菊姫でもこんな淑やかに見えるものなのだなと、

失礼なことを思いながら目の前で三つ指つく花嫁を見ていた。

被衣で何も見えないが、その動きは洗練されていて優美である。




「末永くよろしくお願い致します」




その声を聞いてピクリと身体を震わせた幸村は目を見開いた。

見定めようと穴が開くほどの視線を浴びながら、花嫁が視線を上げて幸村を見て微笑んだ。




「あ、殿ぉ?!」




優しく微笑んだ目の前の花嫁はであった。

その場で卒倒しそうなほど驚いたのは幸村である。

自分は菊姫と結ばれるはずで来たのに、なぜかここにいるのはであった。

呆然として動けない幸村を余所に、は隣りの席に着いて信玄を見た。

ニンマリと楽しそうに何度も頷く信玄には溜め息を吐きたくなったが堪える。

一先ず、儀礼を済ませて宴を取り仕切らねば。

隣りで混乱しっ放しの幸村を見て小さく笑い、は客に向き合うことにした。


* ひとやすみ *
・連続投稿第一弾!急展開です!笑
 悲壮感漂う幸村に八つ当たりという名の嫉妬をぶつける青と黄色。笑
 幸村視点から見てると何が何だかの展開なのでしょうね・・・。
 あともう少しお付き合い下さると光栄です!!                 (16/06/01)