ドリーム小説

ある日の晩、信玄と勘助はジリジリとした空気の中、顔を突き合わせていた。

柱に凭れかかり腕を組んで座り込む勘助に対して、信玄は口元を緩めて座していた。

勘助の空気感を諸共しない信玄をジトリと睨んだ勘助が口を開く。




「これでよかったのですか?真田殿この世の終わりのような顔をしていましたぞ?」

「よいよい。あやつも祝言を終えればこの儂に泣いて感謝するだろうよ」

「・・・ったく。泣いて恨まれないといいですね」




ブチブチと文句を言う勘助をニコニコと見つめる信玄。

やってられるかと深く息を吐いた勘助は可哀相なのことを思い出した。

何も知らぬ間に上杉へ嫁として送られ、気付かぬ内に好いた男が祝言をあげる。

これを不憫と言わず何と言えばよいのか。

全ては安請け合いした弟子の不徳と致す所ゆえ何とも言えないが、後味が良くないと勘助は舌を打つ。




「そもそも姫軍師を他家に取られていいのですか?」

「儂はを武田に縛る気は毛頭ないのだ」

「何を今更。全てお館様の描いた通りの結末でしょうに」




信玄の言葉は聞こえは良いが、要は幸村を餌にを動かし、を餌に上杉を動かしただけである。

これが甲斐の虎、武田信玄の侮れない所であるわけである。

はぐらかす狸親父にまんじりとした思いを抱える勘助だが、不意に戸板がカカッコンと音を立てた。

聞き慣れたその音に信玄がピクリと反応して、入れと声を掛けた。

スルリとその場に入り込んできたのは小太郎だった。

の子飼である小太郎が現れたことに険しい顔をしたのは勘助だけで、信玄は差し出された文に目を通した。

すると、途端に大笑いし始め、勘助は目を丸くした。

信玄が読めと勘助に渡した文にはこうあった。



―― 条件は満たしました。約束通り、菊姫の婚姻を考え直して下さい。



その内容に勘助は驚き、笑う信玄を見た。

これはつまり、自分を犠牲に景勝と契るから幸村を自由にしろということだろうか?

だがその条件では、例え信玄がの言葉通り菊姫の婚姻を考え直しても、

幸村の祝言を無かったことにするとは限らない。

微妙な言葉の言い回しではあるが、そういう所を信玄という男は見逃してくれない。

大笑いする信玄を不安げに見つめた勘助の予感通りそう甘くはなかった。




「よかろう。菊の嫁入り先についてもう一度検討しよう。だが、幸村の祝言は取り止めぬ!次の候補がおるでな!」




ほら見たことかと勘助は溜め息を吐いた。

この男はそれも見越して次の手を打っていたのだろう。

大笑いする信玄に小太郎はもう一通文を差し出した。

それを見た信玄はピタリと笑いを収めた。

空気感の変わった室内に勘助が不思議に思った瞬間、室内に飛び込んできた二人の人物。




「何を大笑いしておるのじゃ、父上!それで妾はいつ出立するのじゃ?」

「失礼仕る!お館様、実は姫軍師殿から文が参りまして・・・」




我先にと競うように入室して来たのは、何と菊姫と幸村の兄の信之だった。

それを横目に文に目を通した信玄はそこにあった言葉に額を押さえた。

勘助は黙り込んだ信玄と床に落ちた文を盗み見て息を呑んだ。



―― 上杉景勝様と武田家の姫・菊姫様の祝言の日取りをご相談したく存じます。



にしてやられた。

つまりそういうことであった。

確かに上杉には信玄の娘をやると伝えていたが、まさか自身ではなく菊で話を纏めてくるとは。

に出した条件は、上杉との相談事を解決すること。

つまり縁談を纏めてくることだったが、菊姫で話を進めれば、必然的に菊姫の真田家への嫁入り話はなくなる。

しかも日取りの話をするということはすでに上杉も了承済み、

おまけに菊姫がこの場に来たということは知らぬのは信玄だけのようだった。




「・・・やりよったな、め」




笑っているのか困っているのか何とも言えないような顔をした信玄に周囲は驚きの声を上げた。

どうやら信玄が負けを認めたらしい。

大きく溜め息を吐いた信玄は文台を頼み、への文を小太郎へ託した。




「だが、儂は幸村の祝言は取り止めぬと伝えておけ」




一先ずの勝利を噛み締めながら小太郎はコクリと頷いた。

喜ぶ者や驚く者など様々な反応を見せる中、信玄は小さく笑って息を吐いた。


* ひとやすみ *
・先が読めていた人はたくさんいたでしょうが、なるようになった感じです。
 まだ一件落着とはいきませんが、とりあえず菊姫回避ですよ、幸村さん!笑
 この件は個人的にvs信玄の構図で書いていたのですが、考えてみれば
 自分のことなのに全て後聞きの幸村とかどうなの?笑
 あと少しで完結まで漕ぎ着けると思いますので応援の程よろしく願います!!                 (16/04/02)