ドリーム小説
書き損じた紙を丸めて部屋に投げ捨て、着物に袖を通した。
部屋に閉じ込められて、溜まった仕事を頭抱えて片付けるなんて全然coolじゃねぇ。
「悪いな、小十郎。逃げるが勝ちだ」
小十郎の隙をついて城下に下りて、大きく息を吸い込んだ。
特に城下に用があった訳じゃねぇが、俺が納める町が賑わってるのをみるのは嫌いじゃなかった。
袖を合わせ腕を組みつつ歩いていると、贔屓にしている呉服屋が目に入った。
そういや、喜多が新しい帯を作ると言っていたな。
そんな事を朧に思い出していたら、藍染めの着物を着た女が反を持って出て来た。
面白い事にその後ろからぞろぞろと無粋な輩が女の後をつけていた。
まぁあんな着物を着て歩いてりゃ狙われんのもtake it as natural.
(当然)
藍染めに金をあしらえた着物は質素ではあるが、値が張るものだろう。
おいおい、lady、どんどん人気のない方へ行くんじゃねーよ。
ハッ。目に付いてしまったもんは仕方ねぇ。
I will help.
(助けてやるか)
***
つけてくる足音がだんだん大きくなってきた。
狭い小路にわざと入ってこっそり倒しちゃおう、て寸法だ。
そろそろ何とかしなきゃな、と思っていたら後ろで叫び声が上がった。
まだ何にもしてないけどー?!
振り返ると浅葱色の着物を崩して着た男の人が鞘のままの刀を振り回してごろつきを殴り倒していた。
呆気にとられてその顔をみると眼帯が目に入った。
眼帯をしていない左目がすごく嬉しそうに見えるのは何でだろう。
シャッという抜刀した鋭い音に意識を目の前に戻すと、やられていない数人が眼帯の人に刀を向けていた。
それを見た眼帯の人は眉尻を下げて悲しそうに呟いた。
「The time of death was rash」
(死期が早まったな)
今、この人英語を喋った?
驚いてる隙もなく、眼帯の人は表情を一転させて一瞬にして男達を斬り伏せた。
軽やかにかわして剣をふるう姿はすごくカッコ良かった。
急にガツっと音がして音の原因を見ると、狭い小路だったため、土壁に眼帯の人の刀が刺さっていた。
狭い道に長い獲物は動きにくく、その隙をついた攻撃を彼は間一髪で避けたが、代わりに眼帯が犠牲になった。
目から落ちた眼帯に舌打ちするとスピードを上げて一瞬にしてごろつきが地に伏せる。
手加減をしていたのが、すごくよくわかった瞬間だった。
すると最初に殴られて動けなかったはずの男が眼帯の人の背後から斬りかかろうと立ち上がった。
「あぶない!」
思わず叫んで手にしていたもので男の頭を思いっきり叩いた。
その後に響いた鈍い音に振り向いた眼帯の人も咄嗟に手が出た私も自分の手の物を見つめていた。
「Oh、反で殴るとはradical ladyだな」
(大胆な女だな)
キンと音を鳴らして刀を腰に差し直すと片目を手で隠して眼帯を拾い、私を見てきた。
私は馬鹿かー!!
おつかいの反物で殴った自分が居たたまれない。
罪の意識で目を彷徨わせると、男の眼帯の下が切れているのに気付いて慌てた。
人を巻き込まない様に人気を避けて小路に入ったのに、助けてもらって怪我させるなんて。
懐にあった布を取り出して私は彼に駆け寄った。
***
一気に距離を詰めて来た女は目を隠していた手を取り払い、布を傷に当ててきた。
まさかそんな事が起こると思っていなかったので混乱した末に、俺は思わず叫んでいた。
「触るなッ!!」
しまった。
自分の声が酷く煩く耳に残る。
本気で叫んでいた自分に悪態をついて女を見ると泣きそうな顔をしていた。
こんな物見せるもんじゃねぇよ、と情けなくも弁解して眼帯を付け直そうとすると腕を掴まれた。
「うるさい!勝手に助けて怪我なんてして!手当てくらい私にさせなさい!」
What happened?
(何が起こった?)
泣きそうだった女はどこへ消えた?
怒鳴られることなんて小十郎以外には経験がねぇから、思わず眼帯をしようとしていた腕を下ろしちまった。
それを見た女は再び傷口に布を当てた。
今更、目の前で傷の手当をしている女の手を振り払えなかった。
「・・・もう気は済んだか?」
「はい。怒鳴ってごめんなさい。助けてくれてありがとう」
一言文句を言ってやろうとしたらあっさり謝られてそんな気は失せた。
窪んで腐れ爛れたこの右目を見てもケロリとしている女に思わず聞いた自分をすぐ後悔した。
「俺が・・・怖くねぇのか?」
こんな事コイツに聞いても仕方ねぇ。
俺の右目が腐り落ちたのはとうの昔だし、醜いのは俺が一番よく知っている。
今更、こんな問答、馬鹿げた話だ。
そんな自分を鼻で笑うと女が声を上げて、女の存在を思い出した。
「え?何あなたもこの反物狙ってたの?」
「は・・?」
「あげないよ。これは大事な物なんだから」
・・・・馬鹿か、この女。
女は何か勘違いしているようで、落ちてた反を拾い上げ隠すように腕に抱えた。
No と小さく答えたら首を傾げて俺を見てくる。
変な女だ。調子が狂わされる。
「巻き込んでしまったお礼にしては安いものだけどお茶を奢るよ」
女は笑いながら俺の袖を掴んだ。
袖を引っ張って俺の前を歩く女は、あ、と呟いて振り返った。
「私は。あなたは?」
「・・・・藤次郎だ」
まさか城下で政宗だとは言えるわけがなかった。
に言われるがままに茶屋について行ったのは、少しの興味と暇つぶしのはずだった。
それが深みに嵌る道だとも知らず、俺は素直に歩き出した。
えらく反の傷みがないか気にするが話す理由に可笑しな巡り会わせがあるもんだと笑ってしまった。
どうやら城のつかいで買った反だったようだ。
帯を作ると笑った喜多の顔が思い出される。
それを読み取ったかのように気落ちしているは愚痴のように呟く。
「あの時の女中頭の顔ったら。あの怖さを知らないから笑っていられるんだ」
喜多の怖さを身を持って知ってる俺は違いないと心で頷き、声を上げて笑うとが恨みのこもった目で見ていた。
思った以上に面白い話が聞けたため、とは対称に機嫌よく茶屋を出た。
「面白い話が聞けた。Thank you、」
「You are welcome」
(どういたしまして)
不機嫌に答えたが異国語を話したのに驚いた。
そんな知識はあるのに、着物の価値が分からないとは・・。
「お前、一人で出歩く時にそんな値の張るもの着て歩けば襲ってくれと言ってるもんだぜ?You see?」
そうなのか、と袖を広げてしげしげとはにかむ様に着物を見ているは反省しているとは思えねぇ。
全く、変な奴だが面白い奴を見付けた。
小十郎に怒られるのを覚悟で出て来た甲斐があったってもんだ。
そして俺はに別れを告げて城に戻ることにした。
こんな愉快な気持ちは久しぶりだった。
土産はないが、面白い土産話が出来た。
何となく後ろを振り返ると、茶屋の前でがまだ俺に手を振っていた。
* ひとやすみ *
・出しちゃった!
ホントは違う出会い方の予定だったのですが、夜明の趣味です。笑(09/01/25)