ドリーム小説
とても眠れなかった。
菊姫の婚姻を考え直す条件として上杉の相談事を解決することを挙げられたが、
どうやらその相談事が上杉景勝との婚姻であったらしい。
しかも武田上杉間の婚姻話はとうに決まっていたようで、信玄はすでに娘を送ると伝えていたそうだ。
そこに罠にかかったがのこのことやって来たわけである。
はっきり言って八方塞がりだった。
幸村と菊姫の婚姻を防ぐためには、は景勝と夫婦にならねばならないらしい。
断れば、菊姫と幸村はそのまま結婚してしまう。
これでは何のためにここまで来たのか分からない。
おそらくそれも含めて信玄の策略だったのだろう。
全て甲斐の虎の手の上だったことに驚愕しながらは深い溜め息を吐いた。
「これじゃ回避しようがないじゃない」
信玄の養女になっていた時点でに勝てる見込みはなかったに等しい。
出来レースであったとさえ言える。
どうして?
ツンとした鼻の痛みを堪えるようには空を仰いだ。
「このようなよふけに、うらわかきおとめがであるくのはかんしんしませんね」
柔らかい美声が耳を突き、ハッと視線を向けると柱に凭れてこちらを見ている謙信が佇んでいた。
夜風に当たりつつ、どことも言えず歩き回っていると、知らぬ間に奥へと進んでいたようだ。
迷子のは謙信の慈愛に満ちた微笑を見て何故だか無性に泣きたくなった。
謙信に招かれて部屋へ通されたは暖かい茶を与えられた。
同じように湯呑を手に向かい合う謙信はただただ暖かかった。
何も言わずそこに居てくれる優しさにはホッと息を吐いた。
だからなのか、ポロリと抱える本音が漏れた。
「どうしてお館様は私をここに送ったのでしょうか」
「さあ。わたくしにはわかりかねますが、いじのわるいとらのこと、そなたをためしたのでしょう」
「試す?」
試すも何も最初から全て信玄の思い通りだったはずだ。
試すことなど何もない。
浮き彫りになったのはの鈍さである。
まさかが右往左往するのを見て面白がっていたのだろうか。
ギシギシと心が悲鳴を上げて苦しかった。
「最初からお館様は約束を守る気などなかったのかもしれない」
騙されていたのでは・・・?
幸村を餌に武田の駒として政略結婚を仕向けられ、はなから幸村と菊の婚姻は止めるつもりはなかったのではないか。
そんな疑心暗鬼に襲われ、表情に影を落とすを見て謙信が湯呑を静かに置いた。
「ほんしんからそうおもっているのですか?」
謙信の曇りない眼がを射抜く。
謙信の問い掛けに肩を震わせたは迷子の心を探って俯く。
何一つ良いことなんて思いつかない。
はっきり言って不安しかない。
だけど・・・、
バッと顔を上げたは唇を噛み締めて険しい顔をしていたが、目が凛としていた。
それを見た謙信は満足そうに口角を上げて笑った。
「そなたがわかっているのならよいのです」
再び目に光が戻ったを見て謙信は安心した。
甲斐の虎は確かに意地は悪いけれど、そこまで卑怯者ではないと、謙信は知っていた。
何度も刀を交えた相手を知らぬはずがない。
ましてや虎の近くでずっと過ごしてきた彼女がそれを知らぬはずがなかった。
謙信は思考の海に沈むを見つめて小さく微笑む。
行き詰って不安で俯いていたようだが、もとより彼女は信玄を疑ってはいなかったのだろう。
ただ少し知恵の回る虎の愚痴を言いたかっただけなのだ。
子どもは親とやり合って大きくなるものなのだから。
もうしばらく現実に帰って来なさそうなを見て、謙信は暖かい茶を入れ直すのだった。
気が付けば夜が明けていた。
あれこれと考え出すときりがなく、おまけに対抗策は難航していてすっかり謙信の存在を忘れていた。
朝焼けの眩しい部屋には謙信の姿はなく、やってしまったと頭を抱えた。
すると見計らったように謙信が部屋へ入って来た。
「おや、おめざめですか」
「謙信公・・・!大変申し訳ありませんでした!」
「ふふ、いいえ。おもしろいものをみせていただきましたから」
どうやら昨夜はが動かなくなった後、謙信は別の部屋で休んだらしい。
クスクスと笑う謙信に何とも言えない心持になるが自業自得であるため何も言えない。
黙り込むに謙信は目を輝かせて聞く。
「それで、みちはみつかりましたか?」
落ち着いた声が響く中、朝焼けがさらに眩しく謙信の背を照らす。
確信を得ているような謙信の声音にははっきりと答える。
「はい」
狭く険しい道だけれども、何とかなるかもしれない道は見つかった。
あとはどれだけ上手くそこへ導けるか、の手腕が問われる。
そのために必要なことはあと一つ。
は謙信にもう一度最後の確認をするのだった。
* ひとやすみ *
・謙信様むずかしい。何度書いてもそう思う。笑
もやもやした気持ちをは謙信様と話すことで整理出来たようです!
気持ちがシャキッとした所で反撃に出ます!頑張れ!負けるな!
もうちょっとで終わりが見えます!ちまこら頑張るので応援よろしくです! (16/03/13)