ドリーム小説

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「かすが姉さん!!」




懐かしい声とその姿を目にした瞬間、は飛び上がってその懐に飛び込んだ。

柔らかい身体にヒシリと抱き着くと力強く抱き締められた。

耳元で何やら怒られていたが、そんなことは気にならず、ただただ心配の色を滲ませるかすがの声音が嬉しかった。

二人で再会を一頻り喜んでいると、ズズズと茶を啜る音がして二人はハッとした。

景勝だった。

すっかりその存在を忘れていたは頬を掻く。




「これは景勝様。失礼をいたしました」

「かすが、か。問題ない」




淡々と返す景勝を見てはここ数日の出来事を振り返る。

あれから景勝は毎日忙しい合間を縫っての元を訪れた。

とくに何を話すわけでもなく、ただその場で他愛無い話をして立ち去って行く。

嬉しそうでも楽しそうでもなく、嫌なら来なきゃいいのにとも思うのだが、何故か彼はの元へ足を運ぶ。

何がしたいのかさっぱり分からなかったのだが、さすがに毎日顔を突き合わせれば何となく見えてくる。

この人、ただの口下手だ!!


最初はその物言いに思う所があったのだが、その内会話が噛み合わないことにアレっ?と思い、

時々起こす奇妙な振る舞いに困惑し、ここ数日で景勝の不器用ぶりを悟った。

空いた皿に延々と団子を足してくれるのは多分優しさで、無表情で見下ろされ頭を撫で繰り回されるのも多分優しさで、

案内中に厠や湯殿までひたすら付いて来ようとするのも多分優しさ・・・なのだと思う。

普通に止めろと言えば素直に聞いてくれるから多分嫌がらせではないと思う。

少々扱いに困ることもあるが、多分を嫌っておらず、むしろ気を遣ってくれているのだろう、多分。

多分と付く事ばかりだが、次第には景勝に慣れてきていた。

お茶を啜りながら縁側の隣りの席を叩く景勝に頷いて、かすがを引っ張って座った。

最初は恐縮していたかすがだったが、諦めたのか隣りのに口を開いた。




「なぜ越後に来た、?真田幸村はどうしたのだ?」

「どうしたも何も謙信公の相談事とやらを解決しに来たのですって。何で幸村さんの話がここで出るんです?」

「何でってお前、あの暑苦しい男を好いていたのではないのか?」

「なっ・・・!」




心底不思議そうにしているかすがには顔を赤くして喘いだ。

一目瞭然のにかすがは顔を顰め、景勝は首を傾げた。




「其の方、頭が少々弱っているのではないか?」

「はぁ?!」




景勝のあんまりな言い様には声を荒げたが、心配そうな顔つきの景勝を見て黙った。

言い方はアレだが、多分これは本気で心配している・・・。

必死に我慢しているにかすがは溜め息を吐いて景勝に言う。




「謙信様曰く、は何も知らされていないようです」

「何も?まさか当事者だろう?」

「反応を見る限り間違いないかと」




何やら困惑している二人だったが、置いてけぼりのはもっと困っていた。

自分の話をしているようだが、知らない知らないと連呼されている。

一体、何の話だと怪訝そうにしているに、景勝がようやく向き直った。




「父上が武田家に頼んだことは信玄公が快く引き受けて下さった」

「え、ではすでに解決しているのですか?」

「八割方はな」




まさかこういう展開になるとは思ってなかった。

相談に乗りに来たのにすでに解決済みとはこれ如何に。

では、一体自分はここに何しに来たのだろう?

どういうことだと焦るを窺いながら、かすがが景勝の言葉を引き継ぐ。




「あとは武田の姫が上杉にやって来たら話は終わるはずだったのだが・・・」

「来たのが武田の姫でなく私だった・・・?」




それは上杉が困るのも訳ないな。

武田の権力者が来るはずがこんなどっち付かずの小娘が来たら誰だって困る。

何の手違いか知らないが、どうやらここでが出来ることはなさそうだ。

だが、それならなぜ信玄はあのような条件を出したのか?

胸をチリチリとした焦燥感が焼いており、は深く溜め息を吐いた。

しかし、上杉側二人の反応を見ていなかったは気付けなかった。

話がまだ終わっていないことに。




、お前、まさか自分のことも知らないのか・・・?」

「はい?」

「織田戦以後、其の方は斡祇を離れ、武田に引き取られたはずだ」

「は、い・・・?」

「つまり、お前は今、武田信玄の養女ということになっている」

「はぁぁぁぁぁぁ?!」




全力で叫んだは悪くない。

どう考えてもそれを伝えていない義理の親が悪い。

そしてはその悪い親によってここにいる。

酷く混乱しているはいろいろなことに頭を働かせて、顔色を悪くする。

何だろうこの気持ち悪さ・・・。

良いことが起こる気がしない。

不憫そうに見てくる上杉の二人に警鐘が鳴るが、は聞かずにはいれなかった。




「・・・あの、謙信公が武田に頼んだことって、」




聞きたくないが、聞かないと不安で仕方なかった。

恐る恐る二人を覗き込みつつ、震える手を握り締める。

目を伏せるかすがの隣りで景勝が淡々と告げる。




「私の嫁取りだ」




つまりは上杉景勝の嫁として越後に来たことになる。

驚愕の事実に目の前が真っ暗になった。


* ひとやすみ *
・つまりそういうこと。八方塞がりの困った状態。
 BSRだからこそできる時代無視の滅茶苦茶を楽しんでる私がいます。笑
 頑張る系ヒロインだからこそ苛めたくなる碌でもない私ですが、
 ここからどうなるのか一緒に楽しんでいただけたら幸いであります!                 (16/02/28)