ドリーム小説
「なぜ其の方がここに来る?」
信玄のいう菊姫の婚姻を考え直す条件のため、決意を新たに大変な思いをしてやってきた春日山城にて、
着いて早々はそんな言葉を上杉景勝に浴びせられた。
どう見ても歓迎されていない。
困惑一色の上杉家御一行に首を傾げたいのはの方だった。
信玄の条件はただ一つ。
『謙信の相談事を解決してみせよ』の一言だった。
信玄からの文を片手に意気揚々と来てみれば、景勝だけでなく謙信も驚いているようだった。
一体何がどうなっているのだろう。
不安になってきた矢先、信玄からの文から顔を上げた謙信が小さく呟く。
「・・・なるほど。ひめ、そなたはとらになんといわれてえちごへきたのです?」
「謙信公の相談事を解決しろとだけ」
「・・・いじのわるいことを」
小さく溜め息を吐いた謙信に景勝がジッと視線を送る。
謙信はそれに一つ頷いて、一先ずあの話は忘れなさいと景勝に謎の言葉を添えた。
ホッとした様子で頷いた景勝にのために春日山城の案内役をしなさいと謙信は命じたのだった。
コクリと頷いた景勝に慌てたのはである。
そんなことで上杉家の跡継ぎ筆頭である景勝の手を煩わせるわけにはいかない。
「だ、大丈夫ですから!他の人に頼みますし!」
「いや、これは私がすべきことだ・・・。」
そんなわけあるかと内心悲鳴を上げていたが、黙々と進む景勝には付いて行くしか出来なかった。
混乱真っ只中のに景勝は淡々と随所の説明をするが、正直一切入ってこない。
何が一体どうなっているのだろう。
悶々として歩いていただったが自身の部屋に案内され感謝を述べた時、景勝にジッと見つめられて驚いた。
何か言いたげな表情をしていたが、多くの言葉を呑み込んで景勝は一言だけ溢した。
「其の方はここへ来るべきではなかった」
はぁぁぁぁ?!
呆然としているを残して彼は颯爽とその場を立ち去った。
腹に据えかねたものを抱えてはしばらくその場から動くことが出来なかった。
***
信玄の言葉が気になった佐助は落ち着かない気持ちで館内を歩き回っていた。
落ち込んでしまった幸村も心配ではあるが、それよりもあの時の勘助の反応の方が気になった。
あれは間違いなく何か知っている。
そして何かよくないことが起こったのだ。
嫌な予感をひしひしと感じながらそれを探るべく佐助は勘助を探し歩いていた。
すると部下に忙しなく指示を出している勘助を見付け、手薄になっている頃合いを見計らい近寄った。
「山本様」
「・・・まぁ来るとは思っておったわ」
うんざりと溜め息を吐いて歩き出した勘助に倣ってその少し後ろを付いて行く。
黙々と足を進めて人気がなくなって来た頃、佐助が静かに声を掛ける。
「大将がに頼んだ願い事、山本様ご存じですよね?」
話せとばかりに直球を投げ付けた佐助に勘助はチラリと視線を向けただけで口を開こうとはしなかった。
ただ黙々と歩き続ける勘助に付いて行く佐助。
しばらく無言が続き、どうしようかと佐助が焦り始めた頃、角を曲がった勘助はゆっくりと足を止めた。
勘助の様子を窺う佐助はその視線の先にあった部屋を見て立ち止った理由を知る。
あの部屋は以前が使用していた部屋だ。
織田戦以降あの部屋は引き払われ、が重傷で運び込まれた部屋や、現在の滞在場所はまた別の部屋であった。
勘助の弟子であった頃のが使っていた部屋をぼんやりと眺めていた勘助は静かに口を開いた。
「・・・あの馬鹿弟子の名を知っているか?」
「はい?」
佐助の予想の遥か上を往く質問に思わず素っ頓狂な声が出た。
知ってるも何も知らない人間などいないだろうとばかりの表情をしていたためか、勘助に睨まれる羽目になった。
なぜここでの名前を問われてるのかと首を傾げていると、勘助はわざとらしく溜め息を吐いた。
「斡祇。それがあれの名だが、それは昔のことだ。織田の戦の後、あれは当主を降りて斡祇からも外された」
もちろんそれはの意志であり、戦場で倒れた場合の混乱を避けるための手段であった。
だが、当然佐助もそのことは知っている。
が失踪した後も斡祇との対談は何度も行われたため知らぬはずがない。
勘助は一体何を言いたいのかと佐助は首を傾げた。
察しの悪い佐助に勘助は舌打ちをして頭を掻いた。
「お前は馬鹿か?つまり、今のあいつは何者なのかってことが重要なのだ!」
「え、何者って、元斡祇当主で、姫軍師で、大将の・・・・、あっ!」
急に大きな声を上げた佐助に遅いとばかりに眉根を寄せて勘助は大きな溜め息を吐く。
正直、上杉の相談事に関しては別の手を考えていたが、信玄の暴走で勘助の手に負えない状況になっていた。
それをに丸投げするなんて信玄は本当に底意地が悪すぎる。
「あの馬鹿が上杉の件を引き受けた理由は想像がつく。だが、重要な情報が抜けている状態で
引き受ける軍師がいるか!勝ち急いだな、あの馬鹿娘っ!」
「大将の願い事ってそんなにヤバいんですか?」
「最っ悪だ!」
苦虫を百匹は噛んだような渋い顔で唸る勘助に流石の佐助も冷や汗を掻く。
確かにあれは重要な情報であるが、まさか本人が知らないとは思ってもみなかったのだ。
織田戦以降、それを知らぬ者は武田にはいないからだ。
確かにそれを考えるとが不用意に越後へ行くのは危険すぎる。
「・・・、あの戦以降、大将の養女となってるもんなぁ」
そう。斡祇は織田戦の後、武田と名を変えていた。
当主として戻って来れない場合、は籍を抜くことを指示していたため、
怪我を負って運ばれたのは幸村を慮って武田であった。
その他いろいろ揉めに揉めたのだが、を武田に置く理由として信玄の養女となったのだが、
その数日後に彼女は姿を消したのだった。
すっかり忘れていた設定だったが、事実は事実である。
だが、元の世界に戻り、四国ですったもんだしていたには知ることの出来ない事実であった。
武田の養女が同盟国とはいえ、敵地へ赴くなど良い想像は出来ないと佐助は深く溜め息を吐いた。
* ひとやすみ *
・知らぬ間にとんでも話。気が付けばお館様の養女。大変な名誉ですが
今の彼女には困った状況であるわけで、佐助が心配しています。笑
ここからかなりゴタゴタしてくる上に分かり難いやもしれませんが、
何とか頑張りますのでついて来て下さると嬉しいです!最後まで突っ走ります! (16/02/07)