ドリーム小説

どれほどそうしていたのか。

互いの存在を確かめ合っていたと幸村はそっと腕を緩めてようやく向き合って顔を見た。

見知っているはずの顔がどこか大人びていているように見えて二人は自然に照れを含んで笑い合った。

笑いが自然と治まった時、幸村は不意に真剣な表情でを見た。




殿、今まで一体どちらに?某が最後に見た殿は・・・・っ」




勢いで話し出した言葉も徐々に勢いを失くし、末尾は小さく消え失せた。

顔色を悪くした幸村の手が僅かに震えている。

戦いが終わったはずの戦場で見たのは、己を庇って被弾する最愛の女性。

そして後日、彼女は姿を晦ました。

目も開けぬままに。

今も治らぬ心の傷となった出来事に幸村が気に病まぬはずがなかった。

目の前の小さくなった男を見て、はそのことを悟った。

はそっと幸村の手を取って自分の手で包み込む。

そしてゆっくりと目を伏せた。


あの時、幸村を庇ったことをは後悔していない。

例え幸村がこんな風に傷付くと分かっていても、は何度でも彼を助けるだろう。

確かにそれは自己満足なのかもしれない。

だけど、愛する人のために動いてしまうのが人間というものだと思う。

残される者の痛みや悲しみを考えなかった罰も、あちらの世界に戻されて嫌というほど思い知った。

だからこの件はもうの中では終わったことだった。

・・・貴方が傷付くことはもうないんですよ。

己を許せない幸村の心を救いたくて、は幸村に小さな神算を施した。




「全くです!真田幸村は日本一の兵なのだから不意を衝かれるなんて以ての外!」

「っ・・・、やはり恨んでおられるか・・・」




傷口に塩を捻じ込んだのだった。

この悪魔のようなの所業に幸村は確証を得てさらに落ち込んだ。

の華々しい未来を奪ったのだから恨まれて当然だと、自分のせいだと幸村は俯いた。

しかし、は俯くのは許さないとばかりに幸村の頬を掴んで無理やり顔を上げさせる。




「えぇ!恨んでいますとも!貴方をこんな腑抜けにした私をね!」

殿・・・?」

「これは勝手をした罰ね。幸村さんのこんな弱った所を見せられるなんて」




こんなことならあと二三発銃で撃たれていればよかったかしらと、目に見えて落ち込むに慌てたのは幸村である。

何を馬鹿なことをとあたふたし始めた幸村は自分の方がどれだけ悪いのかと釈明し出す。

少し顔色が戻った幸村の頬にもう一度手を添えるとは静かに願う。




「私も傷付き、貴方も傷付いた。もうこれで終わりにしませんか?」

「・・・殿、」

「もしそれでも駄目なら、私と約束して下さい・・・。もう二度とあんな不意打ちを受けないと」




見上げるの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

ポロポロと止まる気配のない涙を隠すようには顔を覆った。

泣くつもりはなかった。

けれど、だって怖かったのだ。

幸村に銃口が向いていると知った瞬間、彼を失う恐ろしさに身が凍った。

あの恐怖を思い出すだけで身体に震えが走る。

だからあの時、命の危険を顧みず幸村の元に駆けたのは間違いでなかったのだ。

の涙でその切々たる想いを理解した幸村は込み上げてくる激情のままにを抱き締めた。




「もう二度とッ、もう二度とあのような恥は晒しませぬ!天地天命に誓って日の本一の兵になってみせまする!!」

「・・・はいっ」




愛する者に生きて欲しいと思う心はどちらも同じであったことにようやく気付いた幸村は、

信念を持って前向きに生きていくことこそ彼女に報いることなのだと覚った。

を泣かさねば気付かなかった自分の鈍さに心底情けなくなった幸村は項垂れた。




「・・・はぁ、某は不甲斐無い男でござるな。殿を泣かせるなんて」

「そうですよ。もう謝ったって許してあげませんから」

「えぇ?!」




抱き締めていたを引き離して心底困った顔でオロオロする幸村と対称的に、は満面の笑顔であった。

困惑する幸村を尻目には綺麗に微笑んだ。




「泣かしたお詫びに、私を愛して下さい」




の突然の言葉に血が沸騰して思考が切れていた幸村は夜風が頬を撫でて現実に戻る。

嬉しくて愛しくてどうにかなってしまいそうだった。

今の言葉が嘘や冗談になる前に捕まえておこうと幸村はすぐさまを抱き締めて幸せを噛み締める。




「・・・困りましたなぁ。某はすでに殿への想いに溺れているのですが」

「もっとです」

「承知」




込み上げる嬉しさに堪らなくなった幸村はの脇に両手を通して持ち上げて嬉しげに笑った。

身体が急に宙に浮いて驚いたものの、も眼下に綻ぶ幸村の頬を撫でて笑ったのだった。

幸村の罪悪感を詫びに結び付け、停滞していた彼の視線を未来へ向けさせたの神算は二人の心を暖かく灯した。

そこに自分への感情を入れる辺り、らしい貪欲さが見え隠れするが、

ニコニコと二人は幸せを噛み締め合っていたのであった。


* ひとやすみ *
・面白いことにこの二人、自身の愛情を訴えることはしていますが、
 何の約束もしていないのですよ。だから不確定な所をふわふわしています。
 強気なと幸村を描くのは面白いのですが、見てて少々ヤキモキします。笑
 佐助も二人を見ててこんな気持ちなのでしょうねぇ・・・。
 それでもやっと幸せいっぱいの所が書けて嬉しかったです!さてこの後が問題だ・・・。                 (16/01/02)