ドリーム小説

「おぉ!よ、よく顔を見せておくれ」




部屋に入って早々には信玄にそう言われた。

上座からドスドスと足音を立てて降りてきた信玄はの顔色を見た後、強く強く抱きしめた。

大きな腕に包まれては小さく謝ったが、信玄は聞こえなかったフリをして満面の笑みを見せた。

武田の重鎮も部屋に同席しており、は緊張していたが、気が付けば何故か皆男泣きしていた。

の生還を喜んでくれているのを全身で感じて、は泣き笑いの表情を見せた。




「・・・お館様、今、私が初めて甲斐に来た時のことを思い出しました」

「そうか」

「はい」

「儂はが無事なことを信じておったぞ」




ニコニコ笑う信玄と頷いて無事を祝ってくれる家臣のみんなには深く頭を下げた。

ここは変わらない。

本当に暖かい人達ばかりだ。

は泣きそうになるのをグッと堪えてニッコリと微笑んだ。


















それから、と信玄達は長宗我部のことやらいろいろと話したが話は尽きなかった。

町の様子から感じていたが、長宗我部とは上手く同盟を結べたようだ。

どうやらの話を元親はしていなかったようで、成り行きを話せば勘助が両手を叩いてを褒めた。

といっても、物凄く悪い顔で笑っていたので、良いことではなさそうだが。

どうせと同じように船が使えることの利点と益を考えたのだろう。

斡祇のこともチラリと話に出たので触りだけも話した。




「何と・・・。が当主だったことにも驚いたが、もう隠居したのか・・・」

「はい。今はもうただの小娘のです」

「ううむ」




顎に手を当てて唸る信玄には苦笑した。

こんなダメな当主ではすぐに潰れてしまうのが関の山だ。

だからこそ斡祇への未練と共に大事な宝刀泡沫を村に置いてきたのだ。

自分のこの後のことはあまり考えていなかったが、武田軍に戻れるなんて甘い考えは持っていない。

姫軍師の看板は下ろし、甲斐の近くでのんびり過ごすのもいいかもしれない。

いろんな選択肢にワクワクしては口端を上げた。

すると、信玄がを強い視線で見ていて驚いた。




「・・・のう、よ。お主、幸村をどう思う?」




突然のことでは質問の意味を測りかねた。

どう思うとは一体どういう意味なのだろう?

首を傾げながらも、私的な感情を抑えて一般的な彼の評価を述べる。




「お館様の後継者に相応しい雄々しく立派な方です。特に槍働きは並ぶ者がいないほどで逞しい若武者であります」




信玄は一つ頷いて溜め息を吐いた。

その様子には怪訝そうに眉根を上げ、家臣達は信玄の一挙一動に注目していた。

何やら空気が張り詰めた気がする。

のそりと膝に肘を付いた信玄はを見据えて言い放った。




「・・・儂は此度、幸村にの、祝言を挙げさせることにした」




その言葉にの心は凍り付いた。

祝言・・・?
















一方、が信玄と話している時、その外では小さな乱闘が起きていた。

大暴れしている清海を真田忍軍の一人である半蔵が淡々と説き伏せていたのだった。

もちろんそんな単純なものでなく、清海は帯紐で半蔵を絞めようとしていたし、

半蔵は面倒臭いので昏倒させるつもりで動いていた。




「納得出来ないのよー!何で頭領や幸村様にが戻ってきたこと伝えちゃダメなのー?!」

「お館様のお考えが俺に分かるわけなかろうが」

「だって!だってぇ!あんなに一生懸命探してたのに・・・」

「幸村様の主人であるお館様に、お前は逆らえるのか?」




うぐっと言葉を失くした清海に半蔵は溜め息を吐いて武器を下した。

それでもやっぱり嫌なものは嫌!と叫びながら鬱憤をぶつけるように殴りかかって来た清海に半蔵は溜め息を吐いた。




「お館様は本気ですよ、幸村様・・・」




半蔵は本調子には程遠い主人を想い天を仰ぎ、清海を避けた後、当初の予定通り昏倒させようと動き出したのだった。











***










「祝言ー?!」




佐助の素っ頓狂な声に幸村は神妙に頷いた。

前々から嫁を娶れと周りからせっつかれてはいたが、信玄から言われてしまえば無視は出来ない。

まさか幸村の気持ちを知っている信玄がそんなことを言い出すと思っていなかった佐助は顎が外れるほどに驚いた。

上田に戻るまでの間、何をうんうん悩んでいるのかと思えば、寝耳に水、青天の霹靂である。

しかし、この所の幸村の様子を見ていれば信玄の荒療治も分かる気がした。

生きているのかも、どこにいるのかも分からない女を追い掛けるのは不毛なことだ。

幸村はこんなのでも上田城主なのだ。

家臣団を背負う以上、家を潰すわけにはいかない。

正妻を迎えてしまえば諦めもつくだろう。

何とも言えない表情をした佐助を見て、その気持ちを理解している幸村は一つ頷いて天を仰いだ。




「・・・分かっておる。もう一度上田でよく考えろとお館様は仰られたが、某は断るつもりだ」

「時間稼ぎにしかならないかもだよ?」

「それでも・・・、それを受け入れられるような優しい心持ではないのだ」




この苦しい気持ちはどうすれば昇華出来るのか。

逢 い た い。

一目でいい。

もう一度貴方の笑顔が見たい。

鬱屈とした感情を追い出すように幸村はもう一度溜め息を吐いた。


* ひとやすみ *
・甲斐はすんなり帰還を受け入れてくれたものの、居ない間に
 幸村の婚姻話が進んでいた!困ったよどうする?!←今ここ!笑
 まだしばらくゴタゴタすると思いますが、ついて来て下さると
 嬉しく思います!頑張れ幸村ー!                    (15/07/29)