ドリーム小説

半兵衛と別れてから楽な旅路だったかと聞かれると、そんなわけがなかった。

あの男がが話した内容を鵜呑みにするはずがなく、例え事実であってもを止めることに意義はあると

追っ手を次から次へと差し向けてくれた。

ただ、今回のは追われる側であり、待ち伏せ、罠、陽動、使える手は何でも使って逃げた。

途中途中で馬を変え、街中を走り、遠回りをしてでも、は土佐を目指した。

追っ手の追及は土佐に近付くにつれて緩み、あまり精鋭は向かわせて来ないようになった。

半兵衛に同盟軍の存在をチラつかせておいてよかった。

は心底そう感じながら、足早に土佐の街を歩く。




「やっとここまで来た」




ボロボロになりながらも五体満足で辿り着いたことにはホッとしていた。

賑やかに行き交う人々の合間を抜けて、眼前の城を見上げた。

門番に声を掛けようとした時、背中にゾクリとした悪寒が走った。

安心した気の緩みから周囲の気配に気を配るのを忘れていたのだ。

ふり返って敵の存在を確認したと同時に、は覚悟をした。




「ここまで頑張った女の子にそれはねーんじゃねぇの?」




敵との間に何かが降ってきて、あらよっと軽い掛け声の後にブンと何かが振るわれる音がして、

気が付けば敵は遥か遠くに吹き飛ばされていた。

愛用の超刀を肩に担ぎ、呻きながら立ち上がる敵を見据えてその人物は羽根飾りを揺らして笑う。




「一昨日きやがれってアイツに言っといてくんな!」

「慶ちゃんッ!!」




見慣れたそのド派手な羽根男には満面の笑みで声を上げた。

慶次の登場で不利を覚った敵は悔しそうにしながらも、すぐさま撤退し姿を隠した。

その気配を感じなくなった頃、慶次は刀を納めてを見て微笑んだ。




「よく頑張ったな、

「慶ちゃんッ!慶ちゃん!慶ちゃん!!」




久々に見たその優しい顔には顔をくしゃくしゃにして抱き着いた。

すると縋り付いた慶次の胸元からゴソゴソ出てきた夢吉がの涙を拭ってくれた。

やっとここに帰って来た。

それを今ほど感じることはない。

は暖かい慶次の腕を感じながら、夢吉を見て泣き笑う。




「おかえり、

「ただいま!」




顔を上げて真っ赤な目を細めて笑うに、慶次は嬉しくなって抱き上げてクルクル回り出した。

驚いて声を上げるに笑いながら、慶次はその存在を確かめるように見つめる。

が、帰って来た。

ここに帰って来た。




「ほら、よーく顔を見せてくれ!」

「ヤダ!今、顔ぐちゃぐちゃなの!」

「いーじゃねぇかよー」

「 ヤ ダ 」




キャッキャウフフと門前で楽しげにしていると慶次は全く気付いていない。

岡豊城前で一悶着やらかした上、大人がいちゃいちゃしていれば、目立つということを。

すでに門が開かれ、部下を引き連れた元親は多くのギャラリーを背負ってそれを呆然と見ていた。




「テメェらよ、人が心配して来てみれば・・・」

「「 え 」」

「ひゅーひゅー!もっとやれやれ!」

「口吸っちゃえよ!」




元親の声を皮切りにドッと二人に声が飛んできて、当の二人は目を丸くした。

何これ?!何でこんなに人がいるの?!

顔を真っ赤にして慶次に隠れたは大混乱を引き起こしていた。




「お前ら、女の子は繊細なんだからな!ほら散れ散れ!」




慶次に促され見物人と化していた部下達はブーブー言いながらも、危険はないと知ると去って行った。

恥ずかしい思いをしたは顔を押さえて思わず溜め息を吐いた。

すると黙り込んでいた元親がをチラリと見て呟いた。




「・・・おい、風来坊。がお前のいういい人ってやつなのか?」

「・・・そうだったらよかったんだけどねぇ」




声質の落ちた慶次の声にが見上げると、切なく笑う男の顔があった。

今でも慶次が真摯にに訴えた愛の言葉が耳に残っている。

忘れていたわけじゃないけれど、慶次の陽だまりのような優しさについ甘えてしまっていたのだ。

心を温かくするのは同じだけれど、この感情はあの湧き立つようなあの想いとは似て非なるものだ。

それでも、この関係を捨てたくないと願ってしまうはきっとズルいのだろう。

唇を噛みしめて俯こうとするの肩に手を置いた慶次は力強く言い切った。




「俯くな、前を向け。お前はアイツに会うために帰って来たんだろう?」




脳裏を過った紅にハッとして慶次を見上げる。

その顔は全てを悟っている顔で、を見て優しく微笑んでいた。

何と言っていいか分からず声を出せずにいると、慶次はニッカリ笑って元親に言った。




「残念なことに、のいい人は別にいるんだよ」

「そうなのか」




何やら楽しそうに話し出した男二人に促され、も共に城へと入る。

大きな慶次の背中を見ながら、はつい謝りそうになったが、すぐに口を噤んだ。

そうじゃない。

そうじゃないでしょ、私。




「ありがとう、慶ちゃん・・・」




聞こえるか聞こえないか分からないほど、か細い声で呟いたに、

慶次は何も言わずただひらりと手を挙げた。










***









「此度のこと、礼を言うぜ、

「いいえ。私は何もしていませんよ」




事件の真相を知り、長宗我部は徳川との戦を考え直すことになった。

三河を出る際、忠勝に頼んだ文は徳川配下の者に渡り、一つは毛利へ届けられ、もう一つは慶次へと届けられた。

慶次宛の文は実はかなりの大博打で、彼が京に居なければ意味のない物になっていた。

だが、この時期に彼が京で花見や祭りに勤しんでいるのを知っていたはその賭けに出た。

もしこれを幸村や政宗宛にしていればこれほどまで早く対処は出来なかっただろう。

距離的な問題もあるが、第一あの二人は城持ちな上、気楽に出て来れない立場の人間だ。

元親は同盟加入に関しての書状を書いている最中だと述べた。


こうしてが長宗我部にしてあげられることは全て完了した。

同盟加入への言も取り、一件落着したのであった。




「じゃあ、帰るか」

「うん!」




と慶次は土佐を出て、ようやく二人はあるべき場所へと歩き出したのだった。


* ひとやすみ *
・これにて帰蜻蛉編終了です!お付き合いいただきありがとうございました!
 いやー!現代に戻ってからが長かった!必要な話だとは分かっていながら、
 赤の人やら蒼の人やら、オカンやらが書きたくて仕方なかった!笑
 そしていよいよパノラマな私たちも終盤です。一応、次編で終了かなと思いますが、
 相変わらず横道スキーなのでどうなることやら…。とにもかくにも、次編でいろいろ
 決着つけますよ!アレとかコレとか!どうか最後まで応援よろしくお願いします!!                  (15/04/19)