ドリーム小説
意識が浮上し薄ぼんやりと目を開けると、そこは薄暗い所だった。
何度か瞬いてじっとりと冷たい地面にうつ伏せで寝ていたことに気付いた。
一先ず起き上がろうと手を着こうとした瞬間、手が思うように動かず再び地面へと戻る羽目となった。
どうやら後ろ手に手首を縄で縛られているようだ。
よく見れば足も同様に縛られている。
はとりあえず縄抜けを試みるために仰向けになって起き上がり、腕を動かしながらその場を観察した。
どうやらここは厩を改造した牢屋と言った所らしい。
檻の向こうには馬草に埋もれるように小さな机が置いており、あとは扉だけの小さな小屋だった。
ご丁寧にも机には泡沫やいろは包丁などが並べられていた。
頭上には窓とも言えない小さな穴が一つ開いており、そこから差し込む光がまだ日中だと教えてくれていた。
擦り傷を作りながらも何とか縄を解いたは、唯一取り上げられなかったハガネを
転げ回って苦労して髪から落とし足縄を切った。
凝り固まった身体を解しながら立ち上がったは、窓から見えた木々と鳥の声から人気の少ない山中と予想する。
殺されなかったということは、まだ私に用があるということだ。
相手はのことを知っていて、尚且つ徳川を見張っていなければいけない奴。
徳川に接触した時から、こんなことになるんじゃないかとは思っていた。
家康本人が言っていたように情報に疎いということは、それだけ見張られて三河を出ることが難しいということだ。
直接家康に出会った謎の旅人Aが、厳重な監視の三河から無事に四国まで辿り着ける可能性はほぼ無いに等しい。
こうなることを見越して手は打ってあるが、一体どれくらい寝扱けていたのだろうか。
バキバキの身体と鈍く痛む後頭部には不満げに溜め息を吐いた。
すると、扉の閂が取られて、扉を軋ませて牢に光が差し込んだ。
「やっと起きたか」
入って来た野盗崩れの男をは黙って観察した。
見覚えのない顔の男を見ながらは高速で情報の取捨選択をして頭を回転させる。
この男は雇われたゴロツキといったところか。
ボロの着物に形のおかしい帯を締めた素足の細身の男、その喋り口調に開け放たれた扉から見える閂、外の風景。
そこから考えられる事態には心底嫌気がして、頭を抱えて深い溜め息を吐いた。
それに気付いた男はギョッとして走り来た。
「お前!縄どうやって抜けたんや!」
勢いよく檻を掴んで揺らす男を見ての目は怪しく光った。
素早く地面を蹴ったは男に近付き、檻の隙間から手を伸ばして男の襟を掴んで凄んだ。
「そんなもんここから出るために決まってるやろ!!」
「くっ、放さんかぁ!」
「い や」
互いに檻を挟んで掴み合い、足も使って取っ組み合った。
細身と言えども相手は男であり、そんなにこの体勢は持たない。
あと少し・・・!
激しい攻防の末、男がの顔を殴り、隙間から身体を蹴っ飛ばした。
その衝撃では牢の奥まですっ飛び背中から落ちた。
「調子に乗んなや、ボケぇ!」
息を切らした男が忌々しそうにそう喚き散らした。
咳き込むを一瞥した男は仲間を呼びに行くと言って、再び扉の外へ出て行った。
閂が掛けられる音がして、男の足音は右手に消えて行った。
静けさが戻ってきたと同時には口内の血を吐き出して、口元を拭った。
溜め息を吐いて怪我を確かめるように立ち上がったはおかしそうに笑った。
「罵倒なんてしたことないから、相手の口調が移っちゃった」
殴られた顔と腹以外は何ともないことを確認したは身体を伸ばす。
はぁー、一か八かすぎてドキドキした。
は檻の扉に近付いてクスリと小さく笑った。
「スリにご用心」
の手に握られているそれは錆びついた牢の錠であった。
***
泡沫を取り返し、慌てて逃げ出したはとにかく麓を目指した。
あの男はまだ錠が盗まれたことを知らないが、いつ仲間を連れて引き返してくるかは分からない。
それにあの程度のゴロツキなら何とでもなるが、最初に襲われた忍が来てしまえば一人ではどうにもならない。
短いとはいえあの男との会話で分かったことがいくつかある。
「やっぱり毛利じゃなかった・・・!」
始めからが生きていた時点で毛利の線は限りなく薄かった。
毛利元就という男は使える物なら何でも手駒にするだろうが、敵対する軍師を引き入れる危険をここで冒すだろうか。
私なら絶対しない。
時間があって戦力に余裕があるならじっくり策を弄して取り込むけど、今ここで賢い者を囲い込むのは厳しすぎる。
ならどうするか。
面倒事を解決するにはその根源を消してしまうのが手っ取り早い。
なのには生きてここにいる。
つまり時間と戦力に余裕のある第三者が黒幕である。
可能性として考えないわけではなかった。
ただ随分と面倒臭いことをしているのでその可能性を除外視していたのだ。
主犯は毛利であるが、唆したのはそいつである。
この所、毛利は奴らの勢いに圧力を掛けられていたという噂もある。
必死に走っていたは開けた視界から見えた城に苦々しい顔を作った。
「大坂城・・・」
大きく聳える城を見て、嫌な予感が的中したと深々と溜め息を吐いた。
すると、その直後、何かが抉るようにの背を刺した。
「あぁッ・・・!!」
背中から押され、山道を転げ落ちるように吹き飛ばされたは、視線を上げて渋面を作った。
どうやら背面からあの刺々しい鞭で叩かれたらしい。
ヒリヒリする背中を庇いながら立ち上がったは地を這うような声を出した。
「竹中半兵衛ぇ・・・!!」
儚くニコリと笑った男は間違いなく竹中半兵衛であった。
こうしてと半兵衛は再び出会うこととなった。
* ひとやすみ *
・敵が入って来た瞬間、洞察力を働かせて帯に挟んだ鍵を見付けておりました。
わざと怒らせてどさくさに紛れて鍵ゲット!何て手癖の悪い子なの!笑
強烈な方言を話す人が傍にいるとたまに真似がしたくなる。多分そういうのでしょう。笑
そして本人も移ったとか言ってるけど、地元民からすると大概言えてないんだよね。笑 (15/04/05)