ドリーム小説

三河に偵察に来て本田忠勝に連れ去られた時はどうなることかと焦ったが、家康本人に出会えたことは幸運だった。

どう考えても今回の件は何かがおかしい。

長宗我部と徳川の争いの裏には何かある。

と家康は毛利が漁夫の利を狙っているのではないかと読んだが、どこか釈然としないものが胸中を渦巻いていた。

毛利が瀬戸内の覇権争いをしていた長宗我部を狙う意味は分かる。

だが、なぜ相手が徳川である必要があったのか。

誰でもよかったと言われてしまえばそれまでだが、あの毛利がそんな安易な発想をするだろうか。

本州のほぼ中心部に位置する三河は誰でも欲しい。

天下を獲る足がかりに相応しい場所である故に、あの近辺には名高い大名がひしめき合っており、

よほどしっかりした統治をしない限り、奪ってもすぐに奪い返されてしまうのが関の山である。

それは安芸を治める毛利とて同じこと。

しかし、そもそも徳川を視野に入れていない可能性も無きにしも非ずである。

だが、そんなことがあり得るのか。

相手はあの毛利元就なのだ。

鬱々とした感情を持て余しながらも、は最悪を想定して最善を尽くすことにした。

そのためには少し徳川の力を借りなければならない。




「徳川殿、少々お願いしたいことがあるのですが・・・」




不思議そうに見つめ返してくる家康には頼みを口にするのだった。



















四国の長宗我部と合流するべく、は家康の元を離れ、ひたすら街道を歩いている。

できれば途中、斡祇の隠れ村に寄ることができればいいなぁと考えたりもしたが、状況はそんなに甘くはないだろう。

何となく落ち着かない心地がして馬を諦めて歩いているのだが、必然的に足早になる。

女の一人旅など物騒極まりないが、そこらの暴漢程度になら勝てる自信はあった。

だが、この焦燥感は何だろう。

事の重大さに緊迫感はあれど、ここまで慌てる必要はないはずである。

は自分でもよく分からない感情を持て余しながら、ひたすら街道を歩き続けた。


とにかく徳川と自分の見解である毛利の策略の可能性を元親に伝えなければならない。

あのイノシシのような頭領が突っ走らないように止めてさえおけば、毛利対策は後でも何とかなる。

本来なら伝言だけなら文で事足りる。

だが一応今回、文は出したものの、不安要素があった。

思考に耽っていたが不意に何かの気配に気付き、視線を上げた。

炉端の石にぐったりと座り込む旅装の女が一人座り込んでいた。

ずいぶんと顔色が悪く、身体も小刻みに震えているように見える。

は周囲に視線をやってから、小走りで彼女に近寄った。




「大丈夫ですか?」

「ッ・・・は、はい」




ビクリと身体を跳ねさせての顔を見上げた女は余程無理をしているのか薄らと目尻に涙さえ見える。

は腰元に携えていた竹筒から水を取り出すと、女の口元に差し出した。

震える手で水を飲んだ女は小さな声で礼を述べて、顔を歪めて涙を溢した。




「・・・お、お許し、下さいッ」




急に女がに縋り付いたため、驚いて竹筒を落とした瞬間、山手の木々の合間から人相の悪い男達が飛び出してきた。

その数は八を超える。

明らかな殺気を向けられて身構えたを投げ捨てるように、女は足をもつれさせながら一心不乱に駆け出した。

同じように山手の方から転がり来た少年が泣きながら女に抱き着いている様子を見ては事情を察した。




「随分と悪どいことをするものですね」




男達は何も答えないが、怯える女と少年がすぐさま逃げ出したのを見送りながら溜め息を吐いた。

周囲からおかしな気配がするとは思っていたが、非道なことをする。

どうやらを確実に捕らえるために、あの親子を囮に利用したらしい。

なぜそこまでしてを狙うのか、その理由には心当たりがあった。




「・・・余程、長宗我部と接触させたくないと見える」




の放った言葉に誰も表情が変わらなかったが、指がピクリと動いた者がいた。

図星のようだ。

家康は放った間者が次々に消されていて情報に疎くなったと言っていた。

三河の周囲は強敵だらけなのでその存在がはっきりとしなかったが、これで分かった。

こいつらは黒幕に繋がっている。

ただの盗賊にしては小奇麗すぎるし、殺気が洗練されすぎている。

おまけにこの三河の地で長宗我部に反応するなら、まず間違いない。

こうなることは予想していたが、実際目の当たりにすると辛いものがある。

普通よりは強いとは言え、もただの女なのだ。




「一応、頑張るけどさ」




泡沫を抜いたに男達も一斉に刃物を構えた。

その構え方はどう見ても侍ではなく、忍のものだ。

自分の不運さを嘆きながら、斬りかかって来た男達を黒刀飛沫で捌く。

闇属性の力を発動させながら男共を刀で殴り、刀を避けてと動き回っていたが、武器の特性上、長期戦となる。

汗が流れるのを感じながらひたすら致命傷を避けるように戦っているが、体力には限界がある。

いくつかの髪が切られ、腕を掠り、疲れから重くなった足がの不利を語っていた。

本職八人はキツすぎると愚痴を零しそうになった時、自分の足に躓いてヒヤリとした。




「(しまったッ・・・・・!)」




バランスを崩したが見たのは、自分に向かって飛ぶ鋭い吹き矢が残した軌跡であった。

どこに刺さったか理解する前に、後頭部に大きな衝撃を感じて視界が暗転した。


* ひとやすみ *
・久しぶりの更新で面目ない。少し展開に迷いました。
 そしてヒロイン、ブラックアウトっていうね!強い子ではあるのですが、
 政宗や幸村のような化け物染みた強さは持ち合わせていません。笑
 あと少しで帰蜻蛉編も終了です!もうしばらくお付き合い願います!                 (15/04/05)