ドリーム小説
本田忠勝と言えば、榊原、井伊、酒井の三人と並んで徳川四天王と呼ばれる戦国武将である。
大きな鹿の角の兜が有名で、生涯、傷一つ負わなかったと言われた勇将であったことが現代まで語り継がれている。
確かに戦国最強と謳われた本田忠勝だが、強いからってこんなことになっちゃうものなの?
は隣りにいる戦闘ロボットのような忠勝を見上げて、口元を引き攣らせた。
家康が忠勝の言葉を訳すに、どうやら不審な動きをしているを見付け、監視していた所、
家康を調べていたこともあり連れてきたとのことである。
一体、今の機械音からどうやってその話を聞き出したのかは謎であるが。
そこで直接、主君の元へ連れて来るのはまずいんじゃないのかと思いながらも、
それが当たり前のように過ごしている家康には生唾を飲む。
今更そんなことをどうこう言う間柄じゃないんだ・・・。
絆や信頼という言葉では生温いかもしない。
そんな空気が二人の間にはあった。
特に咎める様子もない家康には意を決して口を開いた。
「私は長曾我部元親殿に少々縁ある者でと申します。元親殿にいろいろ話を聞いて三河まで来た所存であります」
言葉を濁しながら家康の様子を窺う。
すると、一瞬キョトンとしたものの、家康は表情明るくどこか楽しそうに返答してきた。
「そうか!元親の!アイツは元気かっ?」
思いもよらぬ返答にの方が驚いた。
もしやわざとかと疑りながら探り見るも、どうも純粋に共通の友人の話が出来ることを喜んでいるようにしか見えない。
もしこれが演技でなく家康が実際に四国奇襲の件を知らないのであれば、第三者の介入の線が強くなる。
それが徳川内部か外部かは分からないが。
家康が例え黒だとしても間違いなく第三者である共犯者がいるはずだ。
の勘では第三者だと感じているが、家康が白か黒かはまだ確定ではない。
素早く脳内で家康が例の事件を知らない場合と知っている場合とで仮定を立てて、は慎重に手札を切った。
「長曾我部は先頃、元親殿の留守を受け、奇襲を受け敗れています」
「何っ?!元親の奴がこのまま終わるはずがない!忠勝、援軍の準備だ!それでとやら敵は誰だ?」
「・・・敵は徳川です」
「はぁっ?!」
これが演技だとしたら家康を褒めねばならないとは冷静に眼前の男を見上げた。
驚いて立ち上がった家康は呆然と声を失っており、隣りの忠勝も分かり憎いが動作を止めている。
先程まで楽しげに何やらギャーギャー言っていた家康はどこへ行ったのか。
表情を失って口を引き結んだ家康は腕を組んで円座に静かに座り込んだ。
「・・・先に言っておくが徳川ではないぞ。草を放っておるが周囲は敵ばかりでなぁ。四国の現状まで手が回らんかった」
西への偵察もしてはいるものの現状周辺諸国を掻い潜れず、放った忍も消されるか邪魔されるかで情報はほぼない。
家康は四国の事件すら知らなかったと述べながらも、三河武士に性根の腐った奴はいないと裏切りを断固否定した。
確かに忠勝の目を掻い潜りそんなことが出来る奴などいないと言われれば、も妙に納得出来る。
何かいろいろセンサーとか付いてそうだしなぁ・・・。
悔しそうに眉間に皺を寄せて爪を噛む家康を見ながら、はさらに仮定を絞り込む。
家康を白と仮定したら、徳川もしくは長曾我部を潰したい第三者の存在が浮き彫りになる。
「・・・ワシは毛利だと思っておる」
「奇遇ですね。私も同意見です」
家康は閉じていた目蓋を微かに開けてを見た。
をただの不審者か間者の類だと思っていた家康はここまで話に付いてくる女に少し興味を抱いた。
自分と同じく毛利の線を疑っているようだが、の表情は険しくまだ何か考えているようだった。
世の中には面白い女がいるもんだ。
家康が興味深々でを観察してた頃、は咽喉に引っ掛かる魚の小骨のような違和感にイライラしていた。
多分、仕掛けたのは毛利で合ってる。
初手の奇襲で長曾我部に痛手を負わした上で、徳川との戦で消耗させて四国を叩くことが目的だろう。
徳川と長曾我部、どちらがより損をするかと言えば、一度奇襲を受けてさらに出兵する長曾我部に他ならない。
四国を狙っててここまで知謀を巡らせられる人物など知れている。
だけど、まだ何かが足りないとの勘が警鐘を鳴らす。
自分の考えに穴がないか不安になるだったが、家康からどうやって元親との衝突を避けるかという話題を振られ、
まず目の前の問題の対処法について向き合うことにした。
気の回しすぎ、か・・・。
は強引に気持ちを切り替えて家康と今後の話をするのだった。
* ひとやすみ *
・何度も言いますが、この先ストーリー捻じ曲がってます。苦手な方はご注意を!
忠勝忠勝叫んでる割にいろいろ考えてる家康。頭はそれなりに賢いのです。
さてようやくここまで来ました!帰蜻蛉編もあと少し!
もうしばらくお付き合いいただけると有難いです!いつも見に来て下さって感謝です! (14/08/17)