ドリーム小説

「つまり何だぁ?お前は斡祇の人間で、織田との戦に身を置いていたと?」

「はい。織田分断戦の折は中心地にいました。まぁあれから六月も経っているので私は亡くなったことになってるでしょうが」




落ち着いた所では元親と膝を突き合わせて話をしていた。

現状の情報を仕入れ、何とか斡祇へと連絡を取るためである。

緊張を孕む会話を聞きながら可之助[べくのすけ]がお茶を入れる音だけが部屋を支配する。


腕を組み黙り込む元親を見て、は膝に置いた拳を握り込む。

とにかく斡祇の現状を確認しないことには動けない。

戦に向かう今回は命を落とすことも考慮して、全権を一時的に屋代に預けてその後の当主選定まで組んできたから、

が半年居ない間も何とかなっているとは思う。

だが、がこうして生きてここに帰って来た以上、斡祇に何の報告もなしに好き勝手は出来なかった。

やりたいことをするためには、身辺を片付けなくてはならない。

すると息が詰まったのか可之助が小さく吐いた溜め息がやたらと大きく響いた。

二人の視線が自然と可之助に向くと、彼は慌てて口を開いた。




「い、いや!あの、戦場に出る女の噂はいろいろ聞きますが、女のさんが戦場に出るとか、嫌な世の中だなーって」

「あぁ。私も一応刀は持ちますが、軍師なのでほとんど頭脳戦ですよ。私のような凡人は勇猛な武将には力では敵いません」

「軍師・・・?」




不思議そうに首を傾げる可之助には苦笑で返した。

確かに武功が物をいうこの時代、軍師なんてものは口達者の胡散臭い奴というのが一般的なのかもしれない。

だからこそ軍師は信頼第一で、成果を出さなければただの嘘吐きになる。

頼れる仲間が近くにいない今、かつて自分がどれだけ恵まれた環境に居たのかと実感した。

そんな中、今まで黙っていた元親が視線を上げた。




「俺はよ、あんま賢くないから女だてらに軍師してる奴なんて一人しか知らねぇんだが、あんた、甲斐の姫軍師か?」

「・・・気恥ずかしいのであまり好きじゃないんですがね、その名前」

「え?うえぇ?!」




可之助の悲鳴の中、動いたのは元親だった。

短刀を引っこ抜くと畳に片足を立て、その切っ先をの鼻先に突き付けた。

一瞬の出来事であったが、は元親の眼前で正座のままピクリとも動いていなかった。

一気に緊迫した室内に可之助はオロオロと両者の顔を見つめるしか出来ない。




「斡祇が武田と手を組んだなんぞ俺は聞いてねぇぞ!!!」

「当方もそのような話は聞いておりません」

「あぁ?!しらばっくれる気か?!どうして斡祇の人間が甲斐で軍師なんかやってんだ?!」

「言葉が足りなかったようですね。私は元甲斐の姫軍師で、元斡祇家当主だった、というだけですよ」

「はぁ?!」




の言葉が頭に届くと、元親は突き付けていた刀を思わず落とした。

不可侵の斡祇が武田と癒着関係にあるのなら見逃せないと切り込んだはずが、

元親はもっと大きな事件を掘り返してしまったと素っ頓狂な声を上げた。

秘密主義の斡祇が出て来たと思ったら、何と目の前の女は元当主だったという。

御伽話のような一族が急に現実味を帯びてきて元親は大混乱を起こしていた。

は面倒臭いことを言ってしまったと内心舌打ちをしていたが、すぐに開き直った。

むしろこの方が話が進みやすい。




「私が当主云々はどうでもいいのですよ。理解してほしいのは、姫軍師時代の私は斡祇の人間ではなかったということです」

「はぁ?」

「詳しくは省きますが記憶喪失だったんです。自分が斡祇だと知ったのは甲斐を抜けてから、当主にはその頃なりました」

「つまり、よく分かんないすけど、裏切りはないってことですよね?」

「・・・誇り高き斡祇一族にそのような卑下た人間がいるとでも?」




に恐ろしいほど鋭い眼光で睨まれた可之助は飛び跳ねて後ろに下がった。

しばらくを観察してみて逆に元親は安心していた。

この馬鹿みたいに一族に対する高い誇りと自信は間違いなく本物だと感じ取った。

落とした刀を拾い上げて鞘に納めると、元の席に戻って元親は口端を上げた。




「分からんことだらけだが、お前は斡祇だよ、。・・・で?アンタを船で運ぶとして、俺に何の利益がある?」




俺達を使うならそれ相応の見返りを求める。

むしろ手緩いのならそれ以上に搾り取ってやる。

それが海賊ってもんじゃねぇのか?

元親の獰猛な笑みがにそう語っていた。

久々に肌で感じるビリビリとした臨場感にの中の血が騒いだ。

一度手をグッと握り締めると、は笑みを浮かべて元親を見た。

ここが正念場だ!




「この軍師が長宗我部にさらなる力を授けましょう」

「へぇ?言うじゃねぇか」

「えぇ。軍師[わたし]の言うことは絶対です」




の力ある視線に元親は堪え切れずに笑った。

こんなに根拠も何もなく自信過剰な啖呵は聞いたことが無い。

なのに何でだろうか。

こいつならやってしまうような気がするのだ。

なら、お手並み拝見といくか。

元親はの爛々と輝く瞳に応えるように、内に抱える炎を隠さず猛獣のような笑みを見せた。


* ひとやすみ *
・久しぶりすぎて謝り方が分からん。面目ない!申し訳ござらん!
 海賊との取引でピリピリしてる臨場感が伝わるといいなぁと思ってた記憶があります。
 いやぁ、結構前にこれを書いていたようで若干忘れてるテイタラク。ダメダメもいい所。
 ぼちぼち仕上げていくので、どうぞ暇な時にでも読んで下されば幸いです。                 (14/06/15)