ドリーム小説

「なーんでこんなことに?」




蒸気蔓延する湯殿では身体を擦りながら首を傾げた。

全身海水やら何やらで濡れていたから風呂は正直助かる。

けれども、まさかいきなり岡豊城に来る羽目になるとは思ってもいなかったのだ。

弥三郎と名乗った男は「家に来いよ」と軽く言ったので、は状況を鑑みて「お邪魔します」と言った。

そしたらどうしたことだろう。

不思議なことに弥三郎はしばらく歩いて河口へと向かい、そこにあった馬鹿でかい碇を軽々と担ぎ上げるではないか。

いや、あれは碇槍という武器だったか。

まぁいろいろ思い出したくないのでどちらでもいいことにする。

とにかく弥三郎はそれを片手にニッコリ笑ってのたまった。



『ちっとばかし濡れるが、すぐ家に着くからな!』



何かいろいろ察して欲しい。

嫌だと首を振る私を弥三郎は担ぎ上げて、碇槍に乗って猛然と川を逆流し始めたのだ。

原理?そんなの婆娑羅技だからの一言だ。

弥三郎の属性は炎のようで、後方に物凄い勢いの炎を噴射することで水の上を跳ねるように進む。

この辺りで弥三郎の正体に気付けばよかったのだが、いつ沈むやもしれない碇の上での思考力は微塵も残ってなかった。

全身に遠慮なく川の水を浴びてぐったりしていたは、弥三郎に再び担がれて城に運び込まれたのだ。




「まさか弥三郎が、あの長宗我部元親だったとは・・・」




身形もいいし、斡祇のことを知ってるっぽいし、も薄々偉い人だとは気付いていたのだが、

どこぞの名のある武将くらいに思っていた。

なのに蓋を開けてみれば、まさか四国の首領とは・・・。

縁ってのは不思議だなとが冷めた湯で身体を流した時だった。

風呂の外が何やら騒がしく、しかもだんだん聞こえる声が近付いてくる気がする。

まさか・・・。




「ダメっすダメっす!アニキそれは絶対ダメっす!」

「あぁ?別にいいだろぉが、減るもんじゃなし」

「減る!だって、あのお客人は・・・っ」




ガラリと扉が遠慮なく開け放たれ、そこには素っ裸の元親が布を肩にぶら下げ立っていた。

風呂で腰に薄い布を巻き付け、腕で胸元を隠してしゃがみ込んでいるを見て元親は目が点になった。

あ、ぁ・・・?

兄貴の暴挙に子分は顔を覆ってか細く呟いた。




「あのお客人は、女子っすよぉ・・・」




シクシクと掌に顔を埋めて泣く子分に元親は怪訝そうに眉根を寄せた。

その瞬間、空だった桶が容赦なく元親の顔に投げ付けられ、元親は後ろにすっ転んだ。




「出て行けッ!不届き者!」




のあまりの剣幕に慄いた子分がすぐさま戸をぴしゃりと閉めた。

退治された鬼を見て子分は、いつの時代も女子は鬼より怖いと肩を震わせたのだった。












***











「すみません!すみません!すみません!すみませんっ!」

「もう分かりましたから、頭を上げて下さい、可之助[べくのすけ]さん」

「そうだぞ、可之助」

「もとはと言えば元親殿のせいでありましょうっ」




ひたすら頭を下げる可之助と名乗った部下にが声を掛けると、元親が飄々と相槌を打つ。

その態度にがキッと鋭い視線を向けると、可之助が小さく悲鳴を上げた。


湯殿から出たは綺麗な藤紫色の小袖に袖を通し、髪を下していた。

あんな袴を着ていたら誰だって男と間違うと、元親はブツブツ言っていたが、は聞く耳を持たなかった。

なぜなら、この小袖を用意した女中も可之助もきちんと性別が分かっていたからだ。

なのにこの男は・・・。

どいつもこいつも隻眼の男ってどうしてこうデリカシーに欠けるのかしら。

片目塞いでるから大事なことが見えてないんじゃないの?

は今まで出会った隻眼の男を思い出して、かなり失礼なことを考えていた。




「しかし、突然現れた私にこのような美しい小袖を貸し与えて、その方はよろしかったのでしょうか」

「あー、それなら問題ないっす!それ殿の小袖っすから!」

「バッ・・・、可之助ぇ!!」

「・・・・・・えっ」




何とも不思議で奇妙な沈黙が続き、三人は互いの顔を見ながら息を呑んでいた。

そりゃ殿様だし、どんなおかしな趣味があろうと、誰も口出しできないよね・・・。

は僅かなその間にそう自分を納得させたが、隠しきれない変な物を見る視線に元親の方が耐え切れなかった。




「いやっ!それには、じ、事情がだなっ」

「・・・・いえ、よろしいと思います。人それぞれですし、・・・私、黙っていますから」

「うがぁぁぁ!違ぇって言ってんだろーが!!」




一人でギャンギャンと文句を言い始めた元親を遠目に見ていたの傍に可之助が寄って来た。

元親を見ながらボソッと話し出した可之助には自然と耳を寄せた。




「アニキは昔は身体が弱かったんす。だからご母堂様が強い子にという願掛けで女子の着物を着せていて・・・。まぁ

 おかげで軟弱だと誹られて姫若子なんて呼ばれたりもしたんすけど、初陣の活躍以降、アニキはアニキになったんすよ」




苦笑いながらも楽しげに話す可之助には彼の過去に思いを馳せた。

小袖を着た小さな男の子、母の願い、部下の敬愛、そして今の長宗我部元親。

あの小袖は元はご母堂様の着ていた物で、アニキが着ていたわけではありませんがね、と

可之助が付け足してはふーんと呟いて元親を見た。




「なら母上様の願が効いたのね。今あんなに元気ですし。よかったですね」

「はいっ」




屈託のない笑顔でに返事をした可之助が眩しくてはほんの少し目を細めた。

長宗我部元親のことは四国の覇者としか知らないだったが、ここまで部下に好かれる大名ならば

そう悪い人じゃないだろうと、未だブツクサ言ってる元親を見て小さく笑った。


* ひとやすみ *
・最初に言っておきますが、史実や虚実が入り混じってます。混ぜてます。
 アニキのお世話係のべっくん。好きです。すぐにこういうキャラぶっこんじゃうんだよなー。笑
 定番のラッキースケベです。色気のないお銀さんイメージで書きました!え
 もう少し瀬戸内書いて、間もなく最終編です。もうしばらくお付き合い願います!                 (13/11/04)