ドリーム小説

ざざんとどこかで不思議な音がする。

それに何だか癖のある湿った匂いが満ちているが、嫌いな匂いではない。

時折、ゆらゆらと身体を揺らす生温い感覚に、ようやくここが水の中だと自覚した。

閉じていた目蓋を開けば、無数の宝石が夜空をまんべんなく彩り、キラキラと輝いていた。




「キレイ・・・」




遠いはずの星があまりにくっきりと見えるので、何だか近くにあるように感じる。

無意識にが星に手を伸ばした瞬間、ざばんと水が顔に襲い掛かった。

ぼんやりしており、不意打ちで掛かった水は容赦なく鼻と咽喉へと入り込んでいた。




「!げほっげほっ・・・・ごほっ、ん」




つーんと鼻を突き抜ける痛みを感じながら、咳き込むと目から自然と涙が零れ落ちる。

何度も打ち寄せてくる波から逃げようと身体を起して、下を向いて咽る。

口の中に広がる塩っ辛さと、一定間隔で身体が水に揺らされて、ここが海の浅瀬なのだと気付く。

何とか咳が止まり、重い身体を引き摺るように砂浜に上がれば、暗闇に慣れた目が自身を映し出した。

びしょ濡れの紺の袴の腰元にいろは包丁がぶら下がり、胸元から懐刀がほんの少し顔を出している。

右手にはしっかりと泡沫が握られており、手を伸ばせば髪の根元にはハガネがしっかり刺さっていた。

何だかよく分からない状況ながら、は以前にも同じような経験をしており落ち着いていた。




「今度は海かぁ」




以前目が覚めたのは川の中だった。

わけが分からないまま川の中で倒れていたは、濡れた袴を引き摺って歩き、森を抜けたらそこは異世界だったのだ。

さて今回は一体どこなのか。

昔家族と行った海水浴場なのか、それとも異世界の海なのか。

とりあえずまた盗賊に襲われなければいい。

はぼんやりとそんなことを考えて、薄ら暖かい砂浜に大の字で倒れ込んだ。




「これからどうしよう」




空には満点の星空、視界には見渡す限りの海。

こんな深夜じゃ動いてる電車も人もないだろう。

これからどうしようかともう一度呟いた時、は自分に物凄い勢いで何かが近付いてくるのにようやく気付いた。

しまったと思った時にはもう遅い。

地面に転がっていたは押さえつけられるかのように肩を掴まれ、誰かに覗き込まれていた。

暗闇にくっきりと浮かび上がる白い髪、体格のいい隻眼の男。

その瞬間、は速攻で敵と認識した。

こいつは盗賊、いや海賊に違いない。

もう怯えて逃げるしか出来なかったあの頃の私じゃない!

は唯一自由になる足を遠慮なく圧し掛かる男の振り上げた。

後にはこの時のことをこう言い訳している。



――いや、だってどこからどう見ても無法者だったし、何だか竹中半兵衛に色合が似てたから、つい・・・。



ついでもうっかりでも敵だと思った暁には、全く容赦のない

男が零した心配する声を聞くことなく足を急所に叩き込んだ。




「おい、生きてるか!だいじょう、ぶほっ・・・・!!」




真上から男がいなくなった隙には砂浜を転がり、体制を整えて男に向き直った。

その際に蹲って呻く男を注意深く観察する。

白く短い髪に先ほど見た目の色は紫苑、体格は慶次に似て筋肉質で、声質や見た目から齢は大体二十代くらいか・・・。

・・・ん?声?この男さっき大丈夫かと言わなかったか?




「うわー!!ごめんなさい!ごめんなさい!てっきり追剥か何かだと・・・!」

「うるせぇ・・・!これくらい平気だ。ぴいぴい喚くな!」

「でも、だって涙目・・・」

「これは心の汗だっ!西海の鬼がこれくらいで泣くか!」

「西海・・・?ここは一体どこ・・・?」




何だか内股でぐずぐず言ってる男を余所に、偶然知り得た情報には首を傾げた。

西海ということは九州地方だろうか?

いや、でも単に西の方の海ということも有り得る。

それにしても鬼?何で鬼?




「あぁ?ここは土佐だ。お前この辺りの人間じゃねーな?ったく、水死体が動いてたから見に来てみればよ」

「土佐?!時代はいつ?!織田信長はどうなった?!」

「まだ知らねぇ人間がいたとはな。信長は討たれたぜ、六月ほど前に前田・武田・上杉・伊達の連合軍にな。

 まぁ他にもその背後で奴らの橋渡しに暗躍したのもいるらしいが」

「・・・それってもしかして、斡祇?」




目を丸くして驚く男には安堵の息を吐いて微笑んだ。

どうやら自分はまたこの異世界に帰って来たらしい。

もう元の世界には戻れないかもしれない。いや、戻れない予感がする。

けれど、の心は凪いでいた。

以前とは全く違う心持ちで怯えや恐怖、悲壮感はなく、どこか成るべくしてそう成ったのだという納得があった。

寂しくないとは言わないが、それでも皆がいるこの世界に再び戻ってこれたのが嬉しかった。

先ほどとは違う警戒の色を見せ始めた男には微笑んだ。




「私は。以前その同盟に参加していたのですが、しばらく離れていて事情に疎いのです。どうかお話を聞かせて下さい」


* ひとやすみ *
・戻ってきました。そしてようこそ鬼ヶ島へ!
 言わなくても誰だか分かるでしょうが、ヒロインと絡ませると超楽しい!
 手の掛かるアニキとしっかり者の妹って感じです。
 何だかぐずぐず言ってた時を思うと、いろいろ経験して心が逞しくなったようです!            (13/11/04)