ドリーム小説

一生懸命に生きる。そう自分の名に誓った。

もうあっちだのこっちだのグダグダ言うのはなし。

どうせ言った所でどうにもならないのだから。

若干やけくそともいう開き直りで、気分を一転させたは部屋の片付けと受験勉強を始めた。

歴史本や時代劇も解禁されたが、この時代にこれはない、あれは無理と容赦なく突っ込み、

以前よりパワーアップしてるに家族がドン引きしていることを彼女は知らない。

夕食後、リビングで最近話題の歴史ドラマを皆で見ながらまったりと過ごしていた時、は不意に呟いていた。




「ねぇお母さん。この人みたいにタイムスリップして、そこで好きな人出来たら元の時代に帰りたい?」




現代の若者が過去にタイムスリップして元の時代に帰ろうとすったもんだする、どこかで聞いたようなドラマである。

ダイニングからテレビを見ながらポツリと呟いたのだが、皆集中して見ていたからかその声は案外大きく響いた。

リビングのソファーでピクリと反応した父と息子を余所に、母は即答した。




「私なら好きな人を取るわね」

「なんで?家族はいいの?」

「だって戻っても結局後悔するもの。ならいずれ離れていく家族より、一緒に生きていける人を選んで家族の幸せを祈るわ」




母のキッパリした物言いには目を瞬いて驚いた。

逆に恋人や子供を残して来たなら別だけど、と言った母に、なぜかソファーにいた父とが嬉しそうにしていた。

何だか目から鱗が落ちた気分だった。

そんな考え方もあるんだなぁと頬杖をついた時、母は面白そうな顔をして言った。




ならどうするの?」

「私は・・・」




まさかこんな話をするなんて思ってもみなかった。

帰りたいのか。

そんな考えは落ち込むくらい散々した。

あの時は全く先が見えなくて、悩みばかりがグルグルしてたけど、今はほんの少し自分の心が見える。




「私は・・・残れるなら、残りたい」




口に出してみて分かったことがある。

あぁ、そっか。

私は残りたかったんだ、あの場所に。

帰りたかったはずの現代は、いつの間にか帰らなければいけない場所という観念にすり替わっていた。

帰って来てみてよく分かる。

もう二度とここに戻れなくてもいいから、あの人に会いたい。

だって二度と家族と会えなくても、家族は死んだわけじゃないのだ。

家族に囲まれながら後悔するより、好きな人と幸せになって家族のことを想いたい。

スッキリした顔でそう言ったに、なぜか父とが目に見えて落ち込んだ。

え、お母さんと同じ答えなのに、何で?

変な家族に首を傾げながらも、はあんなに悩んだ問の答えがあっさり出て来て何だかおかしくなった。

じゃあ私のあのどん底時代は何だったのよ?

込み上げてくる笑いが抑えられず、ケラケラと笑い転げるに家族は不思議そうな目を向けた。











***








学校から帰り、は久々に紺色の袴に袖を通した。

傍には研ぎ直されたいろは包丁と、祖父が泡沫を造ろうとして失敗して出来た懐刀がある。

ついでに兄が無断で持ち出した家系図もの部屋に置いてあった。

広げられた家譜の最後尾にの名前が並んで書かれているのが見え、は小さく笑った。

祖父や兄にここまでされて、落ち込んでなんかいられない。

家族にここまで思われるなんて、無敵じゃない、私。

いろは包丁と懐刀を身に着け、纏めた髪の根元にハガネを突き刺し、

はずっと部屋に置いていた泡沫を掴むと、数ヵ月ぶりに道場へと向かった。

祖父の神棚に戻しておけという言いつけを守るためだ。

入り口で一礼して道場に足を踏み入れると、独特な空気がを迎えた。

はいつもの瞑想を始める前に、奥にある小さな神棚の前まで歩く。

僅かに手入れされたものの相変わらずボロボロの泡沫をそっと神棚に置いて、何となく手を合わせた。

心の中でそこで見ていて下さいと呟くと、は所定の位置で正座をして目を閉じた。

何もせず、何も考えない時間がただただ過ぎる。

道場の空気と一体になる感覚を味わい始めた時、空気がキーンと張り詰めた。



――― 



肌を圧迫するような冷えた空気の中、確かに名を呼ばれた。

思わず目を開けたは、周囲におかしな靄が立ち込めていることに気付いた。

何、これ・・・?

道場を漂う靄を気にしながらも、は声の主を探した。

けれど、どこにも誰もいる気配はなく、何となく気になっては泡沫の元へと向かった。

手を伸ばして泡沫に触れた途端、空気が揺れて誰かが笑った気がした。



――― そ な た に 祝 福 を



その声が届く前に、の世界は暗転していた。


* ひとやすみ *
・ようやく!!!ようやっと!!よっこいしょ!(え
 何とかここまで来ました。現代の書き難かったこと・・・!
 ヒロインはしっかりしてる子ですが、一度ドツボにハマるとグルグルしちゃいます。
 けど、ようやく、まぁ力技ですが、抜け出してくれました。私も一安心です。
 さて、舞台は再び変わります。さて、祝福された彼女はどうなるのか。のんびりお待ちを!     (13/08/25)