ドリーム小説
「は?名前の由来?」
「うん。知ってる?」
「あれだろ?ご先祖様の名前を貰ったって奴?」
当然と言わんばかりに答えたには眉を寄せた。
何で兄が知ってて自分が知らないのか。
不貞腐れるには慌てて言った。
「だってお前、意味がない名前を付けるなんて酷いって大騒ぎしてて、ちゃんと最後まで聞かなかっただろ」
「だからってこの年まで私だけ知らなかったとかもっと酷いよ」
むすっとした顔で小さくぼやいたに、は冷や汗を掻いて手元にあったジュースを一気飲みした。
はローテーブルに叩き付けるようにグラスを置くと、口元を拭いながらソファーから立ち上がった。
足早にの前を通りすぎると、戸棚の引き出しを片っ端から開け出した。
「兄ちゃん、何してるの?」
「鍵探してんだよ、鍵!」
「何の?」
「蔵!」
見付けた南京錠の鍵を揺らしてはニカリと笑った。
あちこちリフォームをしているものの、ほぼ昔ながらの家である斡祇家にはいろいろな建物がある。
蔵はその内の一つで、小さな物ではあるが所有している。
いろいろ改修していてもはや蔵というよりただの物置なのだが、便宜上そう呼んでいるのだ。
に付いて来いと言われ、わけが分からないままは蔵へ向かった。
開かれた蔵は黴臭さと埃を巻き上げており、二人は同時に咳き込んだ。
無意味にも手で顔付近の埃を払いながら、は物おじせずに蔵へと入って行った。
あっちをがさごそ、こっちをがさごそと、手当たり次第に箱を開けるをポカンと眺めていると
埃だらけのが細長い箱を片手に戻ってきた。
「うわー、俺、埃まみれ。ほれ、これ見てみろ」
「え、何これ。筆頭分家斡祇家系図・・・?」
「嘘っ、お前、このミミズがのたくった字読めるの?!」
「あ、うん。何となく」
埃を払った箱の表に薄ら見える字は家系図と記されてあった。
石段に座り箱を開けて巻物を取り出しているの隣には埃を払って腰掛けた。
巻物はかなり太く重い物で、何重にも巻かれた系図に歴史を感じさせた。
書かれている一番古い家譜は別家と判が押され、と示されている所だった。
そしてから二重横線が不明という字と繋がり、その線の間から再び縦線が伸び、その家譜は下へ下へと伸びていた。
幾重にも渡る時代の中で、何度か父の名前ややという名前が出て来ている。
「何だか不明が多いし、霞んで読めない所もあるね」
「まぁ古い物だしな」
祖父が言っていた通り、はこの系譜のてっぺんの人物から名付けられたのだろう。
一体どんな人だったのだろうか。
時代的にはおそらく戦国時代末期を生きた人だ。
が成り代わった斡祇当主は本家筋だったし、ここには兄のの名前もないので、別人だろう。
何より若くして亡くなった当主のが子孫を残しているはずがない。
「俺もお前も親父も爺ちゃんも、ここから名前を取った。長く逞しく脈々と繋がっていけるようにってさ」
ルーツを教えることでを慰めようとしたのだろう。
はジッと系図を見るの頭をポンポンと叩いた。
その時、が胸に抱いていたものは、痛みでも切なさでもない感情だった。
私は、ご先祖様に恥じない人間でいたい。
ずっと燻っていたの瞳に光が戻った瞬間だった。
***
「お母さーん。私のいろは包丁知らない?」
「あら?やっと手入れする気になったの?」
髪を高く結いながらキッチンに入って来た娘に、母は呆れたように声を掛けた。
キョロキョロと辺りを見渡すに、母は肩を竦めて言った。
「そんなのとっくにお爺ちゃんが手入れしてるわよ」
「あー・・・」
「・・・全く。しっかりしてるようで爪が甘いんだから」
母は濡れた手をタオルで拭きながら困ったように笑った。
冷蔵庫から食材を出して並べながら、背後に立つ娘がようやく復活したことにホッとしていた。
どうせ何もしないといいながら、誰も彼もがに声を掛けたに違いない。
「は打たれ弱い所もあるけど強い子だもの。だから何かに悩んで困っても、貴方が選んだ道ならばそれが正解よ。
貴方が一生懸命考えたことならお母さんも皆も応援するわ」
一体、何に躓いて悩んでいたのか母は知らない。
けれど、そこから這い上がってきた娘に掛ける言葉はこれしかなかった。
きっとは何かを吹っ切り、何かを決めた。
ならば、周囲はただ見守るだけでいい。
は芯が強い。
だって、私の娘ですもの。
微笑む母が何を考えてそう言ったのか知らないが、は心に大きな支えが出来たような気がした。
泣きそうになりながらも、涙は見せまいとは皺くちゃの顔で母に微笑んだ。
「お母さん、ありがとう」
* ひとやすみ *
・何かちょっと元気出てきたみたい!おかげで私の執筆速度も元気出てきた!
前々から名前の由来について書くつもりだったんですけど、もしかして
どこかで先走って名前の話書いてませんかね?自分でも覚えてなくて。汗
頭の中で書いたり消したりしてると、実際上げた話とたまに筋が違ったりして
良く焦ります。でもようやく笑ってくれました!もう少しお付き合い下さいませ! (13/07/27)