ドリーム小説


幸村が花を摘んでいる頃、室内では政宗が一組の布団の前に佇んでいた。

布団にはまるで人形のように青白い顔をしたが眠っており、

僅かに上下する胸元だけが彼女が生きていることを示していた。

手を尽くしたが彼女が目覚めるかどうかまでは分からないと、言った侍医が幸村にぶっ飛ばされたのは記憶に新しい。

別に侍医を庇うつもりはないが、こうも動かないと本当に生きているのかと不安になる。




「おい」




呼びかけても返事はないが、身体が上下してるのを見て安堵する。

一体、これを何度繰り返しただろう。

こいつはどれだけ人を心配させたら気が済むのか。




「おい」




銃声が聞こえた時、政宗は恐怖で全身の血の気が引いた。

の白い装束がじわじわと赤く染まって行くのを見て、心が哭いた。

俺はまた、こいつを失うのか・・・!!

一発の銃弾がまるで嘲笑うかのように簡単に人を連れ去るのを政宗は知っていた。

政宗はただ茫然と赤子が駄々を捏ねるように首を振り、の意識が落ちるのを見ていた。

もうあんな凄惨な思いはしたくない。




「Wake up. いつまで寝てんだ、・・・」




枕元で胡坐を掻いて小さく呟いた政宗は目を細めた。

だが、は微塵も動く気配すらなく、沈黙を貫いたままだった。

政宗は気にすることなく、言葉を続ける。




「お前に言いたいことがあんだよ」




そう言って思い出すのは、が撃たれて幸村の腕の中で弱っていく姿だった。

を失う恐怖に固まる最中、酷く衝撃を受けたのを覚えている。

幸村を庇ったことは然程気にはならない。

なら誰であろうと飛び出していたであろう。

だが、あの顔は、あの愛しいものを見る眼差しだけは、誰にでも向けられるものではなかった。

血に塗れながら震える手で優しく頬に触れ、唇は弧を描き、そして何より漆黒の瞳が幸村が好きだと語っていた。

それこそ政宗が入る隙間などないくらい、全身で愛を訴えるは美しかった。




「・・・くそっ、なんでよりによって、あんな時に」




言い逃げはずるいだろーが。

そんな言葉を呑み込んで、政宗は溜め息を一つ零した。

翌朝にはここを発つから、その前にの口から気持ちを知りたかったのだ。

政宗は物言わぬをジッと見つめた。




「・・・今なら触れられるのにな」




政宗の伸ばした指先はの髪を滑り落とし、額に触れ、頬を撫でて、唇で止まった。

何度もそこを撫でたかと思うと、政宗はグッと屈み込んで顔を近付けた。




「文句はあとで聞いてやる」




政宗の唇がの耳元でそう呟くと、政宗は遠慮なくの青白い頬を、指で抓んで引っ張った。

伸びる頬に小さく笑うと、政宗は逃げないお前が悪いと意地悪く笑った。

政宗が手を放す頃には、の頬は赤くなっていた。




「文句は聞いてやるから、早く起きろよ、・・・」




まだ赤い頬のを一瞥し、立ち上がった政宗はじゃあなと呟いて部屋を出た。

次に会う時は彼女が笑っているといい。

政宗は祈るように目を瞑り、襖を閉めた。











のいる部屋を出てすぐの角を曲がると、政宗は幸村と佐助の主従に鉢合わせた。

探るように見つめてくる主従に、政宗は変化なしと肩を竦めて見せた。

悄然と見るからに落胆した幸村に、政宗は思わず口を開いてしまった。




「気負うんじゃねーぞ、真田。あいつはお前じゃなくてもああしてた。自惚れんな」




別に慰めたわけでも虚勢を張ったわけでもなかったが、政宗は何となく面白くなく気が付けばそう言っていた。

チクリとした仕返しに幸村は気付くことなく、薄い笑いを浮かべて政宗の気遣いに感謝を述べた。

それに政宗が舌打ちすると、幸村は角を曲がっての部屋へと向かった。

残された政宗に佐助がすれ違い様に囁く。




「そういうの負け犬の遠吠えって言うんだよ?」




政宗は一瞬カッとなったが、その反面、やはりあれは見る人が見れば分かるものだったかと思った。

この様子では、おそらく前田もの気持ちに気付いているな。

気付いてないのは、取り乱していた本人だけ、か。

政宗がそんなことを思った瞬間だった。




殿!!」




幸村の天を裂くような叫び声に政宗と佐助はすぐさま床を蹴った。

三秒もかからず飛び込んだ部屋には、半狂乱の幸村と、一組の布団。

しかし、布団はもぬけの殻だった。

佐助はすぐに布団を調べ、その暖かさを確認した後、政宗を一瞥した。




「・・・あんた、な、わけないか。旦那を頼むよ」




返事も聞かずに佐助は消え、部屋に残されたのは、今にも飛び出して行きそうな幸村と政宗の二人。

この部屋に出入り出来るのは先程まで政宗がいたあの廊下だけだ。

それが分かっているからこそ、佐助は屋根裏へと消えた。

政宗が部屋を出てからまだ数十秒しか経っていない。

なのにが忽然と消えた。

焦燥が胸を焦がすが、自分以上に慌てている奴がいるので不思議と冷静だった。

ついに走り出した幸村の首根っこを政宗は掴むと、そのまま手刀を叩き込んだ。

意識を落とした幸村を転がして、政宗は手で顔を覆った。




「・・・ったく、お前はどんだけ周りを心配させれば気が済むんだ」




深く溜め息を吐いた政宗は捜索に手を貸すべく、その部屋を出た。

真田は放っときゃ猿が何とかするだろ。

その後、多くの人員を投入しての捜索がなされたが、が見付かることはなかった。

佐助達忍の見解では、あの場から意識のないを連れ出すことは不可能ということだった。

なら、は一体どこに行ってしまったのだろう。

不可解な事態に姫軍師の神隠しとまことしやかに囁かれるようになる。


* ひとやすみ *
・さすがに政宗様も常識人でした。怪我人に触れるべからずです!笑
 政宗は虚勢じゃないと言い張ってますが、あれはどう聞いても虚勢。
 佐助にズバッと言われちゃってます。わんわん!笑
 勝者の主人を誇りながらも、佐助自身ほんのり胸を痛めてたらいい。
 そんで、手の掛かる主の春に少し寂しいだけだと言い訳とかするんだぜ、と
 一人楽しく妄想してる今日この頃・・・。笑                                (13/07/05)