ドリーム小説
あの日の悪夢は今もまだ続いている。
幸村を襲った凶弾はその身に届くことなく、最愛の人を撃ち抜いた。
今まで戦場を飛び交う銃弾を深く意識したことは無かった。
もちろん当たれば命を削ると分かってはいたが、当たるつもりは微塵もなかったし、
戦場という場所はいつも死と隣り合わせだと覚悟していたから、銃弾を避けるよりも槍働きに重きを置いていたのだ。
――なのに、今はこんなにも恐ろしい。
幸村は震える手を抑えるように握って俯いた。
火薬の焼ける臭いと、身体に響く耳障りな銃声が、脳にこびり付いて離れない。
むせ返るほどの鉄臭さをばら撒く血溜まりに横たわる。
抱き留めた腕は一瞬で紅に染まり、混乱する幸村には儚くも薄らと笑ったのだ。
「どうして・・・」
どうして、某なんかを庇ったのだ。
そう問い質したくても、彼女からの答えはない。
あの時、濃姫の存在にもっと早く気付いていれば。
この戦が始まる前に信長を倒せていれば。
そんな遅すぎる後悔ばかりが湧き上がってくる。
「旦那、こんな所にいたの?」
「・・・佐助か」
「花?」
「あぁ」
背後から近寄ってくる佐助との会話は簡素なもので、幸村は庭に咲いている名も知らぬ白い花を静かに手折った。
への見舞いの花だ。
陣を払った後にあのような事件が起きたので、はすぐさま近くの城に運ばれた。
陣営で言うならば、ここは前田領である。
戦は勝った。
なのにまるで火が消えたように城内は静まり返っていた。
姫軍師の不在。
そのことが皆の心に影を落としていた。
しばらく沈黙が続き、多くを語らない幸村の背中に佐助は呟いた。
「あんまり自分を責めないでよ・・・」
「分かっておる」
「全然分かってないでしょ」
俯いて花を見つめる幸村に佐助は深く溜め息を吐いたが、無理もないと感じていた。
不甲斐無いのは佐助も同じだった。
今回は気配に敏いの能力が仇となった。
があと数秒気付くのが遅かったら、銃弾は幸村を貫いていただろう。
佐助はが主君を守り倒れたことを悲しんだ反面、安堵もしていた。
倒れたのが幸村でなかったことにホッとしたのだ。
こんな時でも主君を優先させる自分には、彼女を守れなかったことを嘆く権利はない。
・・・権利はないが、どうして傷付いたのが自分ではなく彼女なのだろうかと思うと痛ましくてやりきれない。
できることなら代わってやりたいと、佐助はもう何度思ったことか。
そして何より主人の憔悴が激しい。
彼女に守られたことを酷く思いつめている。
一体いつの間に彼の中での存在が大きくなっていたのだろう。
こんな風になるのは、大将がどうにかなった時だけだと思ってたよ。
佐助の有り得ない想像が、違う形で実現して彼自身もどうしていいのか困惑していた。
「殿は?」
「変わらず」
「・・・三日になるか」
が凶弾に倒れてから早三日。
肩甲骨下部から腹部へと斜めに弾は貫通していたものの、何とか一命は取り留めた。
しかし未だ意識は戻っておらず、あの事件で出立を取り止めた幸村達がここに滞在する限度は今日までだった。
「今は竜の旦那がに出立の挨拶をしに行ってる。あとは前田と斡祇に任せよう、旦那」
「・・・・・あぁ。我らも挨拶へ参ろう」
「そうだね」
ゆっくりと歩き出した幸村の後ろを佐助が付いて行く。
幸村は花を握っていない方の手で自分の頬にそっと触れた。
――あの時、貴方は某に何を伝えようとしていたのだろうか。
早く目を開けて御答え下され・・・。
幸村は祈るように空を見上げた。
* ひとやすみ *
・こっちも超ナーバス。でも現代より書きやすい。伊達に長い付き合いしてないね、幸村さん。笑
少々時間軸がズレてます。日本一の兵も風前の灯火というか、瀕死間際というか。熱い男だからこそ
冷めた時の反動が半端ない。大事な人の危機に嘆き、守るべき人に守られ、見舞うことしかできず
現状に落ち込む。もう男の矜持やら武人の誇りやらいろいろズタズタです。そんなの見せられちゃ
周りは凹めないよねー。天邪鬼な私が調子に乗って書きすぎたのでぶった切りました。もう一話続きます。笑 (13/06/02)