ドリーム小説
目を覚ましてが最初に思ったことは「何だか違う」だった。
枕元に手をついて深く沈み込む感覚や、見覚えのある室内を見て、「いいや、何も違わない」とは思い直した。
これが当たり前だったはずだ。
ふかふかすぎるベッドに、カラー印刷の綺麗な本、スイッチ一つで点灯する室内灯。
何て便利な世界なんだろう。
あちらに渡る前は気にもしなかったことが、真新しい感動を呼ぶ。
落ち着かず、フローリングに座り込んでぼんやりと部屋を眺めていると、不意にドアが叩かれた。
返事を返してドアを見れば、母がひょっこりと顔を出した。
「、そろそろ起きないと・・・って、床に座り込んでどうしたの?」
「お母さん・・・!」
「あら?」
母の顔を見たら何だか酷く安堵して、は飛び上がって母に抱き着いた。
ギュウギュウと縋り付いてくる娘に、違和感を覚えながらも母は苦笑して抱き締め返した。
普段から誰かに甘えることを良しとしないだから、純粋に抱き着いてきたことが嬉しかったが、
どうしたのだと聞いても、やはりは何でもないと答えるだけだった。
「さぁ、そろそろ準備しないと遅刻するわよ」
「・・・遅刻?」
「学校、行ける?」
母が心配そうにの顔を覗き込んでいたが、当の本人は全く別のことを考えていた。
遅刻って今日は軍議か招集あったっけ、と首を傾げていたのだが、
母の言葉に自分は学生だったと思い出して、思わず溜め息が出た。
きっとこれからもこんな風に習慣の違いに戸惑い、その度に胸に重いものを抱えて生きていくのだろう。
それほどまでにあちらで過ごした三年以上もの年月は、に大きな影響を与えていた。
は母に力なく頷いて、掛けてあった制服に手を伸ばした。
***
久しぶりの制服は足元がスースーして落ち着かない。
女の子ってこんな頼りない格好で動いてたんだね。
ヒラヒラと揺れる裾を気にしながら歩いていくと、が通っていた高校に着いた。
学校に着くまでに何だか気疲れしてしまって、深く溜め息を吐くと後ろから足音が聞こえてきては振り返った。
「うわっ?!驚かす前に振り向かないでよ、!」
「・・・普通に挨拶出来ないわけ?」
「それじゃつまんないじゃん!おかしいなぁ。靴音立てないようにしてたのに」
首を傾げる友人に小さく溜め息を吐いた。
あんなつま先だけの軽い足音させて、怪しんで下さいって言ってるようなものじゃない。
足音だけで相手の様子が大体分かるようになっているはすでに一般人の枠を大きく外れているのだが、
そんなことも露知らずは友人に呆れながらおはようと声を掛けた。
の様子に友人はコロッと態度を変えて挨拶を返してきて、二人は他の生徒の波に呑まれながら教室へと向かった。
「あの子、推薦組だから受験早いでしょー?だから、最近ピリピリしちゃってさぁ」
友人と教室に上がり、ホームルームまで取り留めのない話をしていると、そんな話が出ては目を瞬いた。
そう、達三年生は今、受験戦争の真っ只中だった。
もう何度目かになるビックリにはまた深く溜め息を吐いた。
午前中の授業は懐かしいながらも特に変わったこともなくすぎ、五時間目の時、それは起こった。
奇しくもその時間は日本史の授業であった。
雄弁に歴史を語る教師の話をぼんやりと聞いていたは思わぬ不意打ちを食らうことになる。
「というわけで技術が発展していったのだが、元々日本で初めてこの技術を使ったのはあの武田信玄だと言われている」
その名を聞いた瞬間、ゾクリと背筋を何かが這い上がり、は肩を震わせた。
単元が違うこともあり、はかなり油断していたのだ。
自慢気に武田信玄の凄い所について語る教師に茫然としていると、話は非難に飛び火した。
「大体、三段撃ち効果で信長最強となったのだって相手が勝頼だったからで、もし信玄が亡くなってなけりゃ信長だって
底辺で終わってたかもしれんぞ。そしたら真田も回り回って豊臣なんぞにつかず、徳川の天下もどうなってたことか」
ぶつくさ文句を言っていた教師は一つ溜め息を吐いてから、仮定で話をしたってしょうがないと零した。
何だかぐわんぐわんと音がする。
歪んだ音の中、興が乗ったのか、誰かが楽しげに質問をした。
「じゃあ先生は信玄が生きてたら天下取ってたと思ってるんですか?」
「おいおい、あの先生、信玄フリークなんだから当たり前なこと聞くなよー」
「であるな」
「ぶっ!何それ!信長の真似ー?」
酷く騒がしい空気に包まれたが、再び誰かが教師に最初の質問を投げかけているのが聞こえた。
はくらくらとする頭を抱えながら教師に視線を向けた。
「当然だろって、言いたいところだが、案外餅をついたり捏ねたり食う奴よりも、餅粉用意した奴がひょいひょいと
奪っていきそうな気がするんだよな」
「はぁ?」
「それってつまり、織田や豊臣、徳川ではなく、それを支えた大名が天下取るってことですか?」
生徒の質問にニヤリと笑っただけで教師は答えなかった。
再びざわつく室内にぼんやりと目をやっていたは、近くから上がった鋭い声にゆるゆると視線を上げた。
「先生!ちょっとコイツ保健室に連れて行きます」
の隣で急に立ち上がった男子を見上げると、彼はを指差していた。
彼が言うコイツが自分だと遅れ馳せながら理解したは驚いて声を上げた。
「え、私、大丈夫だけど・・・」
「お前、自分の顔見て物言えよ。ひでぇから」
余程、の顔色は悪かったらしく、周囲も教師も即答で保健室を勧めた。
断れる空気でもなかったので渋々立ち上がったら、目の前が一瞬真っ暗になった。
点滅する視界を堪えたが、急に肘を掴まれたので、隠しきれずにふら付いていたのだろう。
同級生に引っ張り出される形で保健室へ連れて来られて、はベッドに身を投げ出した。
どうやらあちらを思い出すのは自分が思った以上に、辛いらしい・・・。
は閉じた瞳から一滴の何かが零れ落ちたのを感じながら、眠りについた。
* ひとやすみ *
・ぐらぐらしてます。あちらの世界の人が見たら誰?って言いたくなるほど揺らいでます。
辛いことや、悲しいことがあると、親しい人を見るだけで込み上げてきます。
現代版は何だか切なくてあんまり進まないんですが、かといってあっちの話をぶち込むと
何だか大変なことになりそうで、うーんってなってます。笑
ちんたらした歩みになりそうですが、もう少し一緒に焦れ焦れして下さると有難いです! (13/05/20)