ドリーム小説
「・・・い!・・・お、・・」
「・・き、・・・い!・・お・・!」
何か声がする・・・。
どこかで聞いたような声だ。
これは男の人の声だな・・・。
こんなに必死になって一体何を叫んでるのだろう。
すると突然激しく身体を揺さ振られた。
「 ! 」
名前を呼ばれてゆっくりと目蓋を開けると、誰かが私を抱えて顔を覗き込んでいた。
焦点の合わなかった目がその見慣れた顔を認識した途端、胸にストンと落ちた。
――あぁ、そうか・・・。
「兄ちゃん・・・」
そこには兄のが至極ホッとした顔でを見下ろしていた。
身体に力が入るようになり自分の力で床に座ると、が離れて辺りの状況が見えてくる。
ここは私が生まれ育った道場。
天井の木目も、壁の染みも、小さな神棚も、全て記憶にあったままだ。
「何かすげー音がしてさ、十分前にが道場に行ったって言うし、見に来てみたらお前がここに倒れてたんだよ」
「え」
さっき起きたことのように話すに、は思わず壁時計を見て絶句した。
あの日、あの時、道場に向かった時間から十分しか経っていない。
胸がドクドクと煩く鳴るのを聞きながら、自分の姿を見下ろしてさらに驚く。
が着ていたのはあの白い戦装束ではなく、紺色の袴だった。
慌てて所持品を確認してみると、携帯と財布、そしていろは包丁が出てきた。
全て、あの時持っていた物で、向こうの物は何もない。
まるで、全て夢だったと言いたげな状況に茫然とする。
「神棚からアレも落ちてるし、俺が知らない内に地震でもあったのか?」
が指差したのは古ぼけて傷付いた泡沫で、時間の経過を思わせる姿に胸がはち切れそうだった。
あれは全て夢だったのだろうか・・・。
あそこには確かに幸せも悲しみも希望も絶望もあった。
なのに、現実は私に目を覚ませと事実を突き付けてくる。
アンテナの立った携帯と寂びれた泡沫が使い慣れた道場にあり、傍には心配性の兄もいる。
欲しかったものは全てここにある。
なのに、
なのに・・・
「( 幸村さんがいない )」
が儚すぎる夢に恋しさを募らせ、堪えるように俯くとそれに気付いた。
きつく握り締めた手は赤く染まっており、はハッとして慌てて袴の袂を緩めた。
がそれを見てギョッとしていたが、は自分の腹を覗き見た後、力を失くしたように両手を落とした。
しばらくの間、沈黙が続き、ようやくが口を開いた。
「・・・・私ね、長い長い夢を見てたの」
の声には一瞬怪訝そうな顔をしたが、黙って話を聞いていた。
どこか懐かしむような表情で遠くを見つめる妹が、急に大人びて見えたのだ。
一方、は血がこびり付く手に、これはあの時の自分の血だと確信していた。
覗いた腹部には引き攣れたような古い大きな傷跡が残っていた。
あぁ、やっぱりあれは夢じゃなかった・・・!
真っ赤な手を胸に抱え込んで、大粒の涙を溢し始めた妹には酷く狼狽した。
「ど、どうした、?!どっか痛いのか?!」
痛い。痛い。胸が、痛い。
あんなにも切望した。
家族を思い、友達に焦がれ、日常を夢見た。
望んだのは自分だ。
帰りたかった。
帰りたかった。
――だけど、帰りたくなかった。
なんて矛盾した願い。
オロオロしていたが妹の肩に手を掛けると、は縋るように抱き着いて来た。
「帰って来ちゃった・・・!帰って来ちゃったよ・・・ッ!!」
意味が分からないながらも心を裂くような妹の啼泣に、兄は慰めるように背を優しく叩く。
零れ落ちる涙の意味を自身も分からぬまま、はの懐で泣き叫ぶのだった。
***
トントンとリズミカルに包丁がまな板に当たり、音を立てる。
サラダ用のきゅうりを切り終えたら、夕食が出来上がる。
あと少し・・・。
母が仕上げとばかりに気合を入れ直した所で、背後から息子であるの声がした。
「母さん・・・・」
「はぁい?」
「が・・・」
「んー?」
母は先にきゅうりを切ってしまいたくて、視線を向けずに生返事をした。
スピードを上げて切り終わると、母は包丁を置いて振り返ってギョッとした。
そこにはグッタリとしたを抱き上げて、立ち尽くすがいたのだから。
「どうしたの?!」
「分からん。でも・・・」
泣き出して寝てしまったと続けようとしたが、母がの赤くなった目元を撫でたので
言わなくても分かったのだとは言葉を飲み込んだ。
が人前で、例えそれが家族だとしても、泣くことはそうない。
許容出来ない何かがあったのだろうと推測出来たが、泣き疲れて寝てしまうほどのことは何も思い付かなかった。
母は乱れているの衿を直してやってからを見た。
何だかその視線が冷たくては嫌な予感がした。
「・・・、貴方、いくらモテないからって、
実の妹を襲うなんて・・・!」
「ち、ちげぇよッ!!」
「母さん、そんな子に育てた覚えはありません!」
「なった覚えもねぇよ!!大体、おおおお・・おそ、襲うなんてそんなハ、ハレンチなことする訳ねーだろ!!」
テンパってどもりまくるに母は噴き出した。
もちろんがそんなことをしたとは母は一ミリも思っていなかった。
大学生にもなって浮いた話の一つもなく、挙句に母親にハレンチとか言っちゃう男なのだから。
しかし、ここまで素直すぎるのもどうなのだろう。
母は若干の心配を残しながら、を部屋に寝かせてくるように息子に言った。
* ひとやすみ *
・そんなわけで帰還。あれ、おかしいな、シリアスになってない・・・?
噂の兄ちゃんはとんでもない雑穀系男子。つまり微妙。
さて、この予期せぬ帰還は主人公に何をもたらすのか。
相変わらず、オリキャラ出すとおかしなキャラになるっていうね。笑
さぁ!主人公!どうなる、どうする、乞うご期待! (13/04/04)