ドリーム小説

たゆたう、たゆたう、緩やかに、密やかに――――。



そこにはまるで母の腕の中のような安心感があった。

暖かい何かに包まれ、酷く心地良いこの場所には自分を害するものは何もない。

この世にそんな理想郷など在りはしないと知っているからこそ、この優しい空気に抗えなかった。

だって、あそこは怖くて辛くて恐ろしいところ。

一気に走馬灯のように甦ってくる記憶を辿れば苦いものがある。





だけど――。












「( だけど、行かなきゃよかったとは思えない )」




苦い記憶と同じくらいそこには優しい記憶もあった。

浮かんでは消える顔。

慶ちゃん、政宗さん、洛兎さん、虎珀さん、小太郎、かすが姉さん、お館様、勘助様、靭太、己鉄、お蘭さん、

小十郎さん、綱元さん、成実さん、佐助、そして・・・。




「( 幸村さん )」




そう呟いた途端、郷愁に苛まれた。

最後に見た彼の顔はくしゃくしゃに歪んだ泣き顔だった。

まだあの人はあんな顔をしているのだろうか。




「( 帰らなきゃ )」




そう思ったら暖かく心地良かった空間が急に重さを増したような気がした。

まるで拒むように辺りが急に闇に包まれ、所々でキラキラと光る何かが見える。

優しかった空間はすでにそこにはなく、もがけばもがくほど身体に何かが纏わりついてくる。

私はそれに必死に抗いながら、一際輝く光を目指して歩き始めた。




「( 帰らなきゃ )」




祈るように何度も呟きながら、当てもなく歩き続ける。




帰らなきゃ。




帰らなきゃ。




闇の中で煌々と光るそれらに、私はふと懐かしいことを思い出した。

――まるで、あの時見た満点の星空みたい。

そう思った瞬間、私の意識は闇に瞬く無数の光に呑み込まれた。





* ひとやすみ *
・あれ?気が付けば一年近く更新してないパノラマ。ようやくです!おまたせです!
 そして初っ端から超短いっていうね!バランス考えてぶった切ったらこんなことに。
 さぁ最終章です!編はまだいくつかあるかもだけど、とにかく最終章です!
 更新はやっぱり不定期でしょうが頑張りますので、お暇な時にでもお付き合いいただけたら
 とても嬉しいです。さすがに短すぎるので近い内に続きを上げれたらと思っています。     (13/04/02)