ドリーム小説

使者と斡祇当主としての話し合いは早々に終わった。

戦後処理に追われているのはどちらも同じなので、この場での話し合いは酷く簡単なものであった。

同盟軍側としては当主に会って次の確約さえ取られればそれでよかったのだ。




「こんな場所ですのでごゆるりとは言えませんが、今晩はこちらで休まれませ」

「心遣い、感謝する」




一先ず形だけでも会談を終えてホッとしたは、一言断りを入れてまだ落ち着かない陣内を見に行こうとした。

しかし、すぐさま腕を掴まれてそれは叶わなかった。

ハッとして掴まれた腕を見れば、酷くおっかない顔をした政宗がを見つめていた。




が止まれぬ事情で離れたことは分かったが、それと俺の感情はまた別の話だ」

「政宗さ、ん・・・」

「何で一言俺に言っていかねぇんだ。お前が居なくなったと聞いた時、心の臓が止まるかと思った・・・」




落とすように呟いた政宗の言葉には罪悪感を覚えた。

掴まれた腕の拘束は酷く緩いものであったが、なぜかその力ない手が振り払えない。

助けを求めようと視線を上げたは目に飛び込んできたそれに凍り付いた。

幸村が見たこともないほど暗く冷たい目でを睨み付けていたのだ。

思わず息を呑んで肩を震わせたは何か言おうと口を開いたが、身体が竦んで言葉が出ない。




!顔だけ片目男に何を呆けておる!この男にどれだけ傷付けられたか忘れたのか!」

「テメェ・・・!人が下手に出てりゃ好き放題言いやがって!関係ない奴はすっこんでろ!」

「ふん。俺はの片腕だ。負け犬の遠吠えなぞ痛くも痒くもないわ」

「あらあら・・・、さまを呼びにきたのですが、修羅場のようですね」




靭太に声を掛けられてはハッとしたが、政宗との言い争いが始まり、

挙句の果てにはまつまで現れての思考は大混乱を招いていた。

騒がしい最中、静かに動く影に視線をやると、何も言わず幸村が鋭い視線だけを残してその場を去って行くのが見えた。

共に消えた佐助の焦る声を聞きながら、はなぜか酷い焦燥感に駆られていた。









***








疲れた・・・。

疲労感に凝り固まった身体を軽くするように深く息を吐くと、クスクスと笑う声が聞こえる。

楽しそうなまつの表情にげんなりしながらもは案内されるままに足を動かした。

あの訳の分からない騒動の中、食事の準備を手伝ってほしいとまつに連れ出されたのだ。


本来なら多忙を理由に断っていたのだが、は混乱している頭を少し整理する時間が欲しかった。

けれどやるべきことは未だ山積みで素直に手伝いますとは言えず、そんなの迷いを感じ取った靭太は

後は自分がやるからまつを手伝って来いとを追い出したのだった。

まつに食事の差配を任され、あちこち指示を出しながらはぼんやりと物思いに耽る。


――幸村さん、怒ってた・・・。


あの突き刺さるような冷たい視線はやはり勝手に武田を出て行ったことを怒ってたのだろう。

武田を出たことに後悔はしていない。

していないが、今まで幸村にあのような視線を向けられたことのないにはあれは酷く堪えた。

おまけに政宗の力ない声まで聞かされては参るのも無理はない。




「ふふ、羨ましいわ。あれほど真剣に怒って下さる方がいて」

「え・・・」

「しばらく離れていたんですもの。きっとすごく心配だったのでしょう」




そう、なのだろうか・・・。

あの強い怒りの込められた瞳は本当に私を心配してのこと?

ほんの少し嬉しいと思う感情を押し込めながら、そう楽観的に考えるのはよくないと思い直す。

あれほど怖い顔で見られたことがない分、の心はマイナスへと傾いていく。




「でも、やっぱり何も言われずに行かれちゃうと不安になります」

「え?」

「え?」




何だか物凄く驚いて声を上げたまつの様子にも驚いて声を上げると、おかしな沈黙が続いた。

じとーっと何かを探るような目でを見てくるまつに、少し怯えていると急にまつは満面の笑みを見せた。

一体、なんなのだろう・・・。




さまの心にはもう誰かいらっしゃるのですね」

「はぁ?!」

「そうですか。そうですか」




うんうんと頷きながら嬉しそうに笑うまつの突拍子のない言葉にさすがのも唖然としていた。

何がどうなってそんな話になったのだろうか。

混乱して固まるに次の作業を指示して、まつはその場を去る前に大きな爆弾を落としていった。




「隠さずともよいのですよ。わたしくは靭太殿の話をしていたのですが、さまは一体どなたを思い浮かべたのでしょうね」

「・・・っ!!」




勘違い・・・?!

それをまつに知られたことが物凄く恥ずかしく、は真っ赤になって驚愕に目を見開いていた。

赤くなったを見て照れてるのだと思ったまつは、ころころと笑いながらその場を立ち去った。

取り残されたは、誰かが心にいるとかいないとかは一切頭になく、

とにかく自分の失態に打ちひしがれて恥ずかしさに悶えていた。


* ひとやすみ *
・自分に厳しくちょっとの見栄と意地で生きてきた主人公には、まつに指摘された勘違いが
 かなり効いています。若干「ん?」と思う所があると思いますが、主人公それ所じゃありません。笑
 まつと一緒にころころ笑いながら見守って下さると幸いに思います!!
 砂散華編、ラストスパートです!!                                      (12/04/15)