ドリーム小説

「「「「「 !! 」」」」」




地面に横たわるに駆け寄ろうとした幸村と政宗、慶次を押し退けて、靭太が一目散にの元へ駆け寄った。

カタカタと震えながら大量の汗を掻くを見て、靭太は素早く原因を探る。




「・・・ごめ、気が抜けたら、耐え・・・なくなっ・・・た・・・!」




不意に鞘にきちんと入りきっていない泡沫を目にして、靭太は無造作に引き抜き鞘を見た。

薄汚れた黒刀は見られるが、白刀は抜かれた様子すら見られない。

靭太は原因に思い至り、腕の中で苦しそうに喘ぐを怒鳴りつけた。




「この馬鹿者!飛沫しか抜かぬとは命知らずにも程があるわ!何のために泡沫が二本あると思ってる!」




靭太は素早く白刀泡雪を抜くとに握らせた。

すると手に触れるや否や、泡雪が発光し始めてが己が体を抱き締め呻いた。

身体の中で暴れ回っていた熱が急速に治まったかと思えば、光る刀が熱を発しては泡雪を地面に落としてしまった。

音もなく地面に突き刺さった泡雪を中心にして眩い光が弾ける様に広がり、暖かい光が陣一帯を包み込んだ。

緩やかに光が収束し、そっと目を開けたは変わりない風景に首を捻った後、自分を見下ろしてハッとした。

黒刀飛沫を振るえば振るうほどしんどかったあの苦しさが微塵もなくなっている。

むしろそれ所か身体が前より軽い。




「全く、これほどまでに力を溜めよって。おかげで怪我人はほぼ全員治癒されただろうがな」

「おぉ!某の受けた刀傷が消えておりますぞ!」

「光属性で治癒だと?おまけに疲労まで飛んでやがる」




あちこちで歓喜の声が上がる中、は不思議な現象に首を傾げて地面に刺さる泡雪を恐る恐る抜いた。

だが泡雪はもう発光することもなく、ひんやりとしたただの小刀のようになっていた。




「おいおい。は闇属性じゃなかったのか?属性を二つ持つなんて聞いたことないぞ」

「あぁ。慶次は飛沫を見てたのだったな。お前に説明してやる筋はないが、の馬鹿に話さねば俺が困るからな」




腕を組んで不機嫌そうに呟く靭太の視線を受けて、は顔を引き攣らせた。

何も聞かされていなかったのだから理不尽もいい所だが、キレてる靭太に黙り込むしかなかった。


簡単にいうと属性持ちなのは“泡沫”であり、は属性なしなのだそうだ。

例えに本来別の属性があったとしても、この刀を使っている間は属性は開花せず抑え込まれる。


二本で一本の泡沫は闇と光の属性を合わせ持ち、使用者の身体を鞘として力を蓄えたり開放したりすることが出来る。

属性なしのどんな人でも扱えるため万能のように思えるが、泡沫は良くも悪くも斡祇の武器であった。

どちらも刀として実際に斬れることはなく、どの能力を使っても殺すことや生き返らせることは出来ない。

そして何より“泡沫”自身が使う相手を選ぶ。

使う資格なしと見なされれば、鞘から抜けないことすらあるのだ。

どこまでも我が侭で斡祇らしい武器に代々当主が選ばれるのは当然と言えば当然なのかもしれない。




「だからこそお前は斡祇当主として泡沫に相応しいよう・・・」

「「「 えぇ?! 」」」

「え?」




くどくどと説教を始めた靭太の言葉に幸村と政宗と佐助が素っ頓狂な声を上げ、それに驚いたが目を瞬く。

同盟軍の存在をすっかり忘れていた靭太は三人を見て舌打ちをした。




「ふん。どうせ俺が当主だと勝手に思い込んで驚いてるだけだろう」

「テメェ、それが使者に対する態度か?!」

「使者?それはこっちの言葉だ。使者として斡祇と話がしたいなら、の尻追っかけてきたの丸出しの態度を改めろ」

「うぐぐ・・・!」

「うわー・・・、靭太ちょっと言い過ぎじゃね?」

「喧しい、変人が。俺はを泣かせた野郎共に優しくするつもりはない」




を傍で見てきた男達が揃いも揃って言い返せずに黙り込んだ。

普段落ち着いた大人な対応をする靭太が慶次達にきつく当たる理由がようやく分かった。

自分のためだと知ったは何だか心がむず痒く感じたが、それでは話が進まない。

靭太に礼を言って微笑むと、まだ何か言い足りなさそうな顔をしていたが、靭太は渋々後ろに下がった。




「使者殿、うちの者が失礼しました。この度の勝利誠におめでとうございます。

 そして援軍の要請にお応え下さり感謝しております。私が斡祇家当主、斡祇でございます」




当主としての姿を貫くに同盟軍側は困惑しつつも、何かしっくりときていた。

まだと名乗っていた時に吐いた嘘である記憶喪失が、ここにきて数奇な効果を発していた。

元はと言えば、記憶喪失は未来人であることを誤魔化すための嘘であった。

しかし、伊達、武田、斡祇と転々として、今更訂正など必要としておらず放置してきたのだが、

何の因果か、記憶を失う前のは斡祇当主だったのだと政宗、幸村、佐助の三人に認識されてしまっていた。


ここに来るまでが勝手にいなくなったことに一言物申したいとそれぞれ腹を立てていたのだが、

消える直前の様子のおかしいは、思い出した記憶と現状の板挟みに苦しんでいたからなのだと見当違いな結論に至り、

三人は完全に怒りを収め、それどころか妙な感動の視線をに送っていた。

そんなとんでもない勘違いをされているとは露知らず、は向けられる生温い視線に首を傾げたのだった。


* ひとやすみ *
・もう一つの鞘である主人公が飽和状態で倒れました。おかげで靭太がぷりぷりしてます。笑
 再会してから何だか慌ただしいですが、一番最初の嘘の辻褄がここにきて完全なものになりました。
 あちこちで吐いた嘘が話を合わせるまでもなく統一されました。どこにも真実はないんですけどね。
 斡祇や武田、伊達で吐いた嘘はどれもグラグラと不安定な話でしたが「記憶喪失以前は斡祇当主」で
 皆の理解が固まったため信憑性がとんでもなく跳ね上がりました。笑 (12/02/19)