ドリーム小説

銃声と雄叫びが前田の陣まで聞こえてきていた。

最初は何事だと誰もが驚いていたが、しばらくしてそれが斡祇の陣の方角から聞こえていることに気付いた。

慶次はそれが先程逃した濃姫だとすぐに気付き、舌を打って靭太の顔を盗み見た。

・・・やっぱり強張った顔をしている。

あの陣の隊形からして濃姫が向かった方角はもっとも手薄な場所だった。

仕方がなかったとはいえ、行かせてはならない方角に濃姫を逃がしたことを慶次は心底後悔していた。

何だか嫌な予感がして助けに行こうと飛び出そうとしたが、それを止めたのは他でもない靭太だった。




「馬鹿者。何がどうなっているのか分からん状態で動くのは愚者がすることだ。あちらにはがいる。問題ない」




暗に罠の危険性を仄めかせた靭太に慶次は言いたかった言葉を呑み込んで足を止めた。

本当は一番気になっているだろう靭太が落ち着いているのだから自分が飛び出すわけにはいかない。

慶次はざわめく心を鎮めるように息を吐いた。




「そうだな。がいるなら大丈夫だ。それに万が一、が怪我をしていても俺が娶るから心配ないぞ」

「貴様、何の心配をしている?!」

「落ち着けよ。俺とは将来を誓い合った仲なんだからな」

「嘘吐け。冗談も度を過ぎると笑えん」

「嘘じゃねーもん」

「もんとか言うな、変人が!」




確かに慶次は嘘は言っていない。

嘘は言っていないが、それが真実でもない。

慶次とはこの戦の勝利を誓い合った仲ではあるが、それを勝手に将来と言い換えたのである。

もちろん慶次の願望も多聞に含まれている。

しょうもない話ではあるが、おかげで張り詰めていた空気が緩み、靭太は入りすぎていた肩の力が抜けたのを感じた。

感謝はしているが、話の内容が内容なのでけして言いはしないが。

いい感じに緊張感が抜けた靭太と慶次の元に、息を切らした部下が飛び込んできて再び衝撃が走る。




「て、敵襲!明智光秀です!」




不意打ちの事態にさすがの慶次と靭太も目を剥いた。

次から次へところころ変わる事態に落ち着く間もなく、またこの襲撃である。

しかも今度はあの明智光秀と来た。

予測不能な事態に再びその場の空気が緊張を孕んだが、伝令はなぜか縋るように戸惑いを溢した。




「そ、それが・・・」




心底困ったように視線を泳がせる伝令に靭太と慶次は揃って首を傾げた。

何を言い淀んでいるのか探るように見つめていると、遠くからざわめく声がここまで届いた。

もう直接見た方が早いと言わんばかりに、伝令は道案内を始め二人はその後を付いて行く。

その道すがら伝令は重い口を開いたのだった。










***










放った銃弾の威力で巻き上がった砂煙を見つめながら、濃は妖艶に微笑んだ。

手応えはあった。

能力者相手に不覚を取ったが、あの距離からの連射では逃げ切れはしないだろう。

濃は名も知らぬ女の最後の表情を思い出して、クスクスと笑いを溢しながら晴れていく煙を見つめた。

だが、半分以上砂煙が消えた所で濃の表情が激変する。

地に伏せる穴だらけのそれは濃が想像していた物とは違っていた。

あれは忍が使う丸太・・・!!

一気に神経を尖らせて濃は周囲を睨むように見渡した。




「はぁー・・・。さすがの俺様も鉛の雨に飛び込むなんて肝が冷えたよ」




頭上から音もなく降り立った迷彩色の忍に濃は心当たりがあった。

細かいことを嫌う信長のために実質手足となって動くのは濃と光秀で、そんな濃達に情報が集まらないはずがなく、

口の軽い迷彩柄の目立つ忍の話も聞き及んでいる。




「武田の忍頭か!」




濃の憎しみを込めた視線をさらりと流し、佐助は腕の中のに怪我がないことを素早く確かめて息を吐いた。

膝裏と背に腕を回されて佐助に軽々抱きかかえられているは、未だに一連の流れが理解出来ずにいた。




「一足先に見に来て正解だったよ。旦那にあの弾幕の中、突撃させるわけにいかなかったしね」

「なぜ武田のお前がここにいる?!」

「・・・せっかちな人だねぇ。との再会の余韻に浸らせてくれてもいいじゃないかー」




そうおどけながらも佐助は動揺を隠しきれていない濃を見て、仲間の手腕を褒めた。

今の言葉からして濃は織田分断線が加賀尾張間に布かれていたのを知らなかったのだ。


佐助は政宗と幸村の実働隊の方にいたが、それとは別に蘭とかすがと成実達は防衛部隊として加賀付近にいた。

実質の分断線はこの防衛部隊のことであったが、ほぼ忍で構成された部隊なため、機動力と隠密性は抜群だった。

そして彼らが徹底していたことは、情報伝達の阻止である。

織田本体を叩くのだから、濃と明智に戻って来られては困るのだ。

だが情報なんてものはどこからともなく洩れるもの。

だからこそ実働隊は急いでいたのだが、どうやら防衛部隊も相当頑張ったらしい。


川中島の戦以降、同盟軍が発足したまでは知っていたが、斡祇という目の前の人参に釣られて

それ以外が疎かになっていたことを濃は悔やんだ。

・・・自分の知らない所で何かが起こっている。

冷や汗を流しながらジッと佐助を見つめていると、忍の冷たい目が濃を射抜いた。




「三日前の晩、旦那達が魔王の首を獲ったよ」




ヒュッと咽喉を鳴らしたのは濃かか。

その現実味のない非情な宣告に濃はフラフラと後退り、絞り出すように嗤った。




「ふふ・・・っ、そんな嘘を誰が信じるものですか!あの上総介様が負けるはずないわ!」




即座に否定しながらもその表情には不安が滲み出ており、濃はやる気を失くして無防備にも背を向けて去って行った。

その瞬間、殺気立った佐助の服をは軽く引いた。




「・・・今の話本当なの?」

「あぁ。今、旦那達が首級と共にこっちに向かってる」




それよりもと濃へ殺気を向ける佐助には首を振ってしがみ付いた。

禍根を全て断とうとしているのは分かる。

だが、あの人はもう戦う理由を亡くしたただの女だ。

胸に縋り付いて懇願するに佐助は構えていた武器を下した。

今は見逃そう。だが、の目のない所で必ず・・・。

そう決意した佐助の判断が、後に命運を分ける事件への発端になろうとは、まだ誰も知る由もなかった。


* ひとやすみ *
・「キター!」と心弾ませて、読了後に「えぇ?!」と驚いていただきたい111話です。
 いかがだったでしょうか?予告通りの急展開、楽しんでもらえたでしょうか?
 今回は美味しい所を彼にあげましたよ!佐助ファンの方、褒めて褒めてー!笑
 たまに、もしこれがかすがだったらとか考えて楽しんだりしてます。きっともっとラブラブ!笑
 さてさて展開の早さはまだまだ落ちない予定ですので、皆さん付いて来てねー!!              (11/12/10)