ドリーム小説

「姫様!!」

「己鉄は・・・己鉄はどこ?!」




汗だくで息も絶え絶えに現れた当主に斡祇兵は目を丸くしたが、問われた内容に眉根を寄せてソロソロと指を差した。

は差された方向に向かって駆け出した。

ある場所に組頭が立ち尽くす姿を見たは次第に足を緩めて、その荒野に息を呑んだ。

組頭はを見付けると一つ頭を下げて、その場を離れていく。

森の木々は圧し折られ、切り倒され、その場所に平地が出来ていた。

あちこちに柄杓で撒いたかのように赤い水が広がり、鉄くさい臭いが立ち込めている。

凄まじい戦いの跡を残すその中に、ぽつんと人が一人倒れていた。




「己、鉄・・・?」




恐る恐る踏み出した足が血を吸った土を蹴り上げる。

返答はなく、は表情を失くして自身の血の気が下がる音を聞いた。

一気に駆け出して、傷だらけで倒れる己鉄に縋り付いて叫ぶ。




「己鉄ッ!!」




が身体を揺すると、目を瞑る己鉄の目尻から一筋の滴が零れ落ちた。

その表情が死人には出来ない苦悩を表しているのにハッとしたは、上下する胸に視線を落として安堵した。

生きてた。

ただそのことに感謝したは、零れ落ちた暖かい涙を拭ってやった。




「己鉄、遅くなってゴメン」

「・・・遅いよ。早く来てって言ったのに」

「ゴメン」

「・・・僕はっ、戦いたくなかったのに、戦うしかできない」




慟哭のようなその言葉に己鉄が酷く傷付いていることを悟ったは唇を噛んで彼を抱き締めた。

嗚咽を漏らす強くて弱い彼をはただただ抱き締めた。








***









己鉄と光秀がぶつかっている間、前田と濃姫も開戦していた。

ふらりと消えた光秀が余計なことをしないか心配になった濃姫が探しに来てみたら、前田と鉢合わせてしまったのだ。

運が良いのか悪いのか、仕方なしで開戦したものの、濃姫は戦いの末に利家に手傷を負わせていた。

畳み掛けようとした所で慶次が乱入してきたので、濃姫は悔しい思いをしながらすぐに撤退し行方を晦ましたのだった。

深夜の小競り合いが終わってみると、陽がもう昇り始めていた。

濃姫はこの際だから隊を整えて予定通り斡祇制圧に向かおうと目論んだのだった。




「逃げられたか。やられたな。まさか利が撃たれるとは。その肩じゃ満足に槍も振るえねーし、大人しくしとけよ、利」

「あぁ、おいたわしや犬千代さま!まつめが、必ず仇を取って参りまする!あの蛇女め!」

「まつぅー、行かないでくれー」




前田の陣深くで手負いの利家を囲むようにまつ、慶次、靭太が話し合っていた。

なぜかやっぱりラブコメになる前田夫婦に靭太は呆れながらも、斡祇の陣のある方角を見て目を細めた。

静かに歩み寄ってきた慶次は靭太の視線の意味に気付き、その思考に割り込むように呟いた。




が心配か?あいつ、能力使って男共をバンバン転がしてたぜ?」

「・・・そうか、泡沫が扱えたか」

「おー。互いに自陣が心配だからって途中で別れたが、なら絶対大丈夫だ」

「・・・あぁ」




靭太にはあえてが何かに焦っていたことは言わなかった。

だが、相変わらず物憂げな様子の靭太に慶次は首を傾げた。

のことじゃなかったのか?

表情の晴れない靭太にひたすら視線を向けていると、靭太は小さく息を吐いて語り出した。




「斡祇の兵は前田や他軍とは比べものにならぬほど強い」

「弱くて悪かったな。つーか、お前ホントにイイ性格してんな・・・」

「黙って聞け。だか、その斡祇の中でもひときわ異彩を放つ者がいる。正直初めて鬼神のような強さを目の当たりにした時、

 俺はあまりの[おぞ]ましさに震えが止まらなかった。おそらくあいつはこの国の誰より強い。・・・それこそあの魔王よりも」




慶次は靭太がさらりと言った言葉に目を丸くした。

誰もが敵対して敗れてきたあの魔王よりも強いと言い切ったのだ。

いくつもの戦場を駆け、戦の難しさ、厳しさ、醜さを慶次は知っている。

知っているからこそ、将を率いて破竹の勢いで天下へ向かう信長の強さを恐ろしいと感じているのだ。

そんな信長以上に強い人間がこの世にいるのか?

いていいのか?

慶次がブルリと肩を震わしたのを見て靭太は寂しげに微笑んだ。




「恐怖や憎悪からけして好意は生まれない。人の悪意に晒されて心に闇を抱え、強さを得る代わりにあいつは心が弱った。

 嫌われるのを恐れ、力を揮うことを厭った不安定なあいつでは純粋に力で勝っていてもあの魔王には勝てない」

「・・・兵に向いてないな」

「あぁ、向いてない。向いてないのに離れたがらないから困ってるんだ」




圧倒的な強さを持つゆえにその力にしか縋り付けない弱い己鉄。

その弱さに気付いていたからこそ、今までも靭太も表立って己鉄を使って来なかった。

今の不安定な状態で己鉄を放り出したらむしろ心配すぎてこっちが落ち着かない。

それなのに何を勘違いしてか、戦わなければ捨てられると勝手に思い込んでいるのだ。

見事なまでの悪循環である。

靭太は深く溜め息を吐いて、もう一度陣のある方角を見た。

あいつは今どうしているだろう。

また可笑しな思考に嵌まり込んでなければいいが。

靭太は手の掛かる幼馴染を思って目を細めたが、すぐさま自分のやるべきことに思考を切り替え踵を返した。


* ひとやすみ *
・少しカットしましたが、他から見た己鉄像を投下。
 ぶっちゃけ己鉄は化け物級に強いんですが、今はぐるぐるしてて戦力外通告発令中。
 それを幼馴染組はヤキモキしながら見守っているんです。ちなみに靭太は路傍の小石に躓いて
 すっ転んだ矢先に人に蹴られて田んぼにハマるのがデフォルトなくらい運動音痴です。笑
 何やかんやいいつつバランスの取れたオリキャラ二人の側面を描いたつもりでしたが、いかがだったでしょうか。(11/10/30)