ドリーム小説
は黒刀飛沫で立ち塞がる敵を斬り伏せながら木々の合間を走り抜ける。
刀に触れるだけで倒れていく敵兵をは感慨深く見下ろした。
まさか自分が能力者だとは思いもしなかった。
それも闇属性だとは。
よくよく考えれば泡沫が婆娑羅者のための武具なのは簡単に分かることだった。
斡祇は命を奪う武器は能力者のためにしか造らない。
「やれることは増えたけど、しかし、参ったなぁ・・・」
口端を上げて呟いたは米神から流れ落ちる汗を手の甲で拭った。
一太刀も受けていないはずなのにはすでに満身創痍であった。
汗は滝のように流れ、呼吸があがっている。
は属性技を使えるようにはなったが、まだ完全に制御出来ていなかったのだ。
闇属性は相手の精気を吸う。
普通ならば吸った精気で自身の減った体力を補うのだが、何せはぶっつけ本番。
制御の方法を知る暇もなく、吸収し飽和状態の精気を持て余して暴走寸前まできていた。
気を許せば一気に意識を闇に持っていかれて、破壊衝動が抑えられなくなりそうだ。
それでもが飛沫を振るっている理由は己鉄のためだった。
当主であるは己鉄が宕ノ鬼衆の頭であることを知っており、その能力を使うことを許された唯一人の人間である。
その力は歴代最高峰と呼ばれるほどであり、間違いなく斡祇で彼に勝る者はいない。
しかし、鬼も恐れる自身の強さに己鉄が怯えているのをは知っている。
己鉄は心優しい青年だ。
忍の親を持ち、忍びの村で忍になるべく育てられ、忍になる才能を誰よりも持っていた彼は最強の称号を得た。
けれど彼は容赦なく人を屠り、陥れ、殺められる己の力が恐ろしくて堪らなかった。
いつか自分は本当に鬼になり、大事な人も何もかも壊してしまうのではないか。
常にそう怯えていることをと靭太だけは気付いていた。
だからこそ暗闇に沈む己鉄にとって、と陣太は光への導であり、力を使ってでも守りたい存在なのだ。
だが、ただでさえこの三年、が行方不明で不安定だったのに、この大きな戦で二人が傍から離れているのだ。
爆発すればとんでもないことになる。
「己鉄、呑まれないで・・・!」
は唇を噛み締め、這い上がってくる不快感を振り払うように足を速めた。
***
地を浚うように風が吹き抜け、木の葉が舞う。
己鉄と光秀は常人には見えぬ速さで斬り付け合い、鈍い金属音が折り重なるように響いていた。
二人が動くたびに木々の枝が切り落とされ、地に穴が開き、血が飛んだ。
そしてまた一つ大きな接触音がしたと思えば、木を薙ぎ倒して光秀が弾き飛ばされた。
その場に静かに佇む己鉄は冷めた表情で手にしていた血塗れのクナイを投げ捨てた。
「・・・くっ、はは、私は一体何を引いたのでしょうね。まさかここまでとは」
まるで修羅か阿修羅かと言わんばかりの強さの己鉄に光秀は空を仰いで零した。
口内に広がる苦味にさっきの衝撃で切ったのだと思い至り、光秀は起き上がりながら血を吐き出した。
ちらりと視線をやるとボロボロの自分とは違い、己鉄は傷一つない。
全く、何ということでしょう。
音もなくそう呟いた光秀の口元は確かに笑っていた。
「貴方は強いですね。下手をすればあの魔王を凌ぐほどに。けれどどうやら貴方には枷があるようだ」
「何・・・?」
「ふふ、ふふふふふ」
反応を返した己鉄に光秀は楽しそうに背筋が凍りそうな不敵な笑みを零した。
光秀と対峙してからというもの、触れれば切れそうなほど苛烈で冷酷に振る舞う己鉄が
ようやく光秀の言葉に反応した。
武で敵わないのなら言で綻びを作るまで。
「枷があれば稀に力を引き出すこともあるようですが、貴方には不要でしょう?だって貴方は私と同じ強者で、化け物だ」
「・・・っ黙れ」
「あぁ。貴方を私なんかと一緒にしては失礼でしたね。けれど貴方のような強者の傍には同じ化け物しかいられません。
いくら守ろうとしたって強者の優しさは強者ゆえに弱者を傷付ける。貴方に枷は釣り合わない。
あぁ、それとも、枷に貴方が釣り合わないのでしょうかね?」
「黙れぇッ!!」
撒き餌に喰い付いた獲物に光秀は舌舐めずりをして喜んだ。
一方、呼吸も乱れ、思わず叫ばずにはいられなかった己鉄の心中は荒れに荒れていた。
光秀なんかに言われずとも自分が異質なのを己鉄はとっくに自覚していた。
けれど常に自分に問いかけていた疑問を傍から問われて心の泉が波紋を作り、波が荒れた。
僕じゃ釣り合わないのは分かっている。
離れた方がいいのも分かっている。
だけど、あの人達の傍から離れるなんて僕には出来ない。
すると光秀はまるで己鉄の心が見えているかのように、満足気に何度も頷いた。
「弱者の揺り籠の中は心地良いでしょう。けれど貴方はこちら側の人間だ。いい加減目を覚ましてもらいましょう」
「・・・待て、何をする気だ」
「ふふふ、楽しみですね。姫軍師という枷を失った貴方を見るの、がッ!」
「っ明智・・・!」
言い終わると同時に斬りかかってきた光秀の鎌は己鉄の右腕の肉を抉っていった。
先程まで一太刀も浴びせられなかったはずだが、どうやら光秀の思惑通り動揺を誘えたようだった。
思いの外深い傷となった右腕から血がダクダクと流れるのを目にした己鉄は、そのおかげで少し冷静になれた。
やはりこいつを放置する訳にはいかない。
己鉄は両腕を下げて、袖から滑り落ちてきた銀色の長い針を両手に構えた。
「お前はここで狩る」
「えぇ。狩るか狩られるかの勝負です」
己鉄と光秀が同時に凄まじい速さで動き出し、命を懸けた狩猟が始まった。
そしてその終結は強大な力同士ゆえに早々に迎えたのだった。
* ひとやすみ *
・何かパノラマ物凄く久しぶりな気が、する・・・?
しかもいい加減戦闘ばっか飽きてきたので話を先に進めたいんですが、あちこち戦闘予約中で
どうにもなりそうにないっていうジレンマ。何だかアレだから飛ばしちゃおっかなぁ。笑
そして先を考えて主人公は最終的に赤青黄の誰選ぶのかアンケートとか取った方がいいのかなぁ。
結末あるのに相手が未だへのへのもへじっていう悲惨さです。 ううーむ。 (11/10/04)