ドリーム小説

「なぁ、。風魔を行かせて本当に良かったのか?」

「・・・よくないよ。全然よくない」




険しい表情のに慶次は「だよなー」と頭を掻いた。

どこもかしこも戦力が足りないのだ。

そんな中、主戦力と言っても過言ではない小太郎を動かしたのはかなり痛い。

だが、それしか方法はなかった。

い組を動かすには時間が掛かりすぎるし、何より人手をこれ以上減らす訳にはいかなかった。

が離れる訳にもいかないし、隠れ村に前田の人間を送り込むなんて以っての外だ。




「でも、何とかするしかないよね」

「そうだけどよー、風魔の奴、絶対心配してるだろーなぁ」

「だろうね。でも、慶ちゃんが私を守ってくれるんでしょ?」

「当たり前だろ!か弱い女を守るのがイイ男ってもんだ!」

「じゃあ私の背中、守ってね」

「任せとけって!ほんじゃ、ま、全ー然招いてねぇが、お客さんの相手でもしてやるかね」




慶次は朱槍を振り回し、は差していた泡沫を抜いて背中合わせで敵を見据えた。

斡祇本陣へ戻る途中、偶然にも敵兵と遭遇してしまったのだ。

足軽兵が一小隊ほどこの場にいるが、相手もこの遭遇は不測の事態だったようで驚いていた。

これがどういうことなのかにも慶次にも分からなかったが、互いに目の前の相手は敵だということだけは理解していた。

ジリジリとした緊迫感の中、先に動いたのは敵の方だった。

張り詰めた空気に耐えられず飛び出した兵達にはとっさに黒刀飛沫を構えた。

柄を握る手が汗で滑る。

今まで洛兎にもらった懐刀一本で戦ってきたが戦場で泡沫を抜くのはこれが初めてだった。

これは、命を刈る武器だ。

今までいくつも命を奪ってきたが、今更武器一つで尻込みする資格なんてないのは分かっているが、

握った飛沫が酷く重く感じられる。

それでも、当主として責任を背負っているのだから、私はやらなければならない。

気迫と共に迷いを断ち切るよう飛沫を振り下ろせば、暗く澱んだ気持ちは霞に消えた。

残像も残さぬ速さで振り抜かれる刃に押される敵兵を見ていた慶次は安堵の息を吐き、口元に笑みを浮かべた。

以前は自衛のために包丁で戦っているようだったが脇差を抜いたことに慶次は不安を覚えていたのだが、

どうやら取り越し苦労だったようだ。

むしろ今までよりも速さは増しており、振り上げられる黒い刃はまるでの体の一部のように自然な軌道を描いている。

慶次はの背を狙う敵兵を朱槍で吹き飛ばすと楽しげに声を上げた。




「おっと!姫君の背中を守るって約束してるんでね。邪魔はさせねぇよ」




朱槍の風来坊は笑顔の奥に獰猛な光を宿らせて微笑んだ。

一方、は飛沫が手に吸い付くように馴染み、全く重さを感じさせないことに驚いていた。

そしてどこかざわざわと落ち着かないのはなぜなのだろう。

戦況はかなり一方的になっているにもかかわらず、は何か嫌な予感がしてならない。

また一人、飛沫で敵を斬り伏せたは白染んできた空を見上げた。

その直後、たった今斬り伏せた兵がの足を掴み、ハッとして慌てて振り払った。

距離を取ったはさらに周囲を見渡して目を見開く。

が倒したはずの敵兵達が次々と立ち上がっていくではないか。




「何で?!・・・って!傷がない?!」




確かに武具や服は斬れているのに、兵達の身体には傷が残っていなかった。

斬られた本人も不思議そうに自分の身体を見下ろしている。

まさかと思い飛沫を見ると、やはりその刀身にも血は一滴も付いていなかった。

は頬を引き攣らせて最悪の結論を叩き出した。




「き・・・斬れない刀とか、本気で使えない!」




木刀時代も使えない、仕込み刀と分かっても使えないとは、何て傍迷惑な刀だとは憤慨した。

家宝になるほどの仕込み刀なのだから、凄い物なのだと期待してた私が馬鹿だった。

は現状に酷く腹を立てており、何だかその残念すぎる事実に急に根こそぎ力を持っていかれた気がしていた。

敵と戦いながらもの声に耳を傾けていた慶次は、黒刀を握り締め肩を怒りで震わせるを見てギョッとした。

・・・な、何かから黒いもの出てねぇ?!

見るからに怒り心頭のの黒い気配に敵も慶次も思わず一歩後退する。




「こうなったら・・・・・、押し通るッ!」




ギンッと鋭い視線を上げたにその場にいた人間は皆寒気を感じた。

怒髪天を突くと怒りは目に見えるようになるのかと誰もが感じていたが、慶次は真っ先にそれが違うことに気が付いた。

あれは幻覚なんかではなく、本当にから何か黒いものが出ている。

斬れない刃に黒い煙を纏わせて、鬼神の如く敵兵を薙ぎ倒していくを見ていた慶次は、

倒された兵を観察して目を見開いた。

やはり傷はないが、兵はすでに瀕死の状態だった。

薄っすらと黒い煙を身体に纏わせた兵は生きているというよりも、ただ死んでいないだけである。

に斬り伏せられてパタパタと倒れていく敵の様子に慶次はまさかと呟く。




「まさか能力者なのか・・・?!」




黒い煙はおそらく闇属性だからなのだろうが、まさかの力が闇属性だとは思いもしなかった。

傍目にはポクポクと刀で殴り倒しているだけなのに、一撃で精気を吸われ倒れる男達を見るとゾッとした。

何て恐ろしい力だ・・・!

慶次と同じように状況を察した敵兵は慌ててから距離を取った。




「くそっ!こんな時に能力者に遭うとは!一体明智様はどこへ行ったのだ!」

「明智・・・?」




敵のぼやきを耳にしたは正気に戻って首を傾げた。

何の話だと詰め寄ろうとした瞬間、ドゴォォンンと森の木々を揺らして凄い地響きが達を襲った。

土煙が上がるその方角は斡祇の陣がある方角であった。


* ひとやすみ *
・いえーい!ここでヒロインの能力開花です!まさかの闇属性!
 慶ちゃんと背中合わせで無双って夢だったんですー!楽しくなってきたところで
 シリアス突入しちゃうのが、私の腕のないところ・・・。がっくし。
 さてさてもう少し織田戦にお付き合いくださいませ。              (11/08/02)