ドリーム小説

斡祇を狙う濃姫と戦っていた小太郎と合流し、達は現状を話し合った。

その結果、小太郎も同じ意見で、陽が昇れば再び乱戦になるだろうとのことだった。

そうなる前に斡祇を束ねるとしては利家と顔を合わせておきたかった。

暗い内にと伝えると慶次と小太郎があっさりと頷き、い組をその場に残して達三人は前田の陣へ向かうことになった。

・・・・・・・・が。




「全然いいんだよ?僕一人を残して行ってくれて全然。さっきも慶次さん、どうやら僕の存在を忘れてちゃんを

 口説いてたみたいだし?靭太さんに変人がに何かしたらブッコロセって言われてたけど、小太郎さんも行くなら

 問題ないだろうし?さぁ僕を忘れてさっさと挨拶して来て下さい。僕、一人怯えてここで待ってますから」




ニッコリと笑顔でそうのたまった己鉄に一同は顔を引き攣らせた。

出て行きづらいことこの上ない。

忘れられて完全に不貞腐れている。

表情を沈ませてブツブツ言い出した己鉄には溜め息を吐いたが、覚えていた所で己鉄をここから動かすつもりはなかった。

の何か言いたげな表情を見て己鉄は困ったように笑った。




「分かってるよ。何があろうともちゃんが僕をここから動かさないだろうことは。いいから早く行っておいでよ」

「・・・何かあればすぐに伝えるように言っておくから」

「うん。怖いから早く帰って来てね」




何とも言えない表情の己鉄に見送られて達は暗がりの中へと姿を消した。










***









「ん?何でここに軍師殿がいるのだー?」

「まぁ、さま!まさか慶次を追って戦場まで?!愛のなせる業ですわね!」




緊張感の漂う陣に着いて利家とまつに出会った瞬間、は身体という身体の力が抜けた。

この緩さはなんだろう・・・?

会えば文句の一つくらい言おうと思っていたのに、二人にそんな気分を一気に削がれた。

評定の席で眉間に皺を寄せ、腕を組んでいた靭太はの姿を見ると弾けるように歩み寄って来た。




「何なのだ、あの夫婦は?!ここは戦場でこの圧倒的不利な戦局が読めておらんのか?!」

「え、あー、まぁ、何ていうか、ねぇ、慶ちゃん?」

「・・・すまねぇ」




小声で怒鳴るという器用なことをしていた靭太は素直に謝った慶次を見て溜飲が下がったのか、

鼻を鳴らして前田夫婦に向き直った。




「前田殿、我が主が加勢に来て下さいました」

「何?では、まさか」

「はい。斡祇家当主、斡祇と申します。ご無沙汰しております、利家さん、まつさん」

「ではやはり、あの包丁の銘は斡祇当主の証でしたのね」




驚くというより納得したような雰囲気の前田夫婦に逆にが驚いた。

以前は本人が知らなかった事とは言え、なぜ話さなかったのかとか現状に対する疑問とか詰め寄られると思っていたのだ。

そのことには一切触れず、二人はただ素直に斡祇の加勢に礼を述べた。

は何事にも動じない夫婦の器のデカさに感動していた。

それに気付いていた靭太は深く溜め息を吐いて内心呟く。

――あれは絶対何も考えていないだけだ、と。

それから今後のことをいくつか話し合っていた時だった。

突然まつの肩に大きな鷲が舞い降りて一鳴きすると、評定に割り込むように斡祇の鷹文兵が飛び込んで来た。




「失礼します!屋代からの文で森蘭丸に押され我が隊が不利とのこと!飛び道具に苦戦しているようです!」

「何だと?!まさか父上が読み間違えるなど・・・!」

「・・・殿、ここはよいから村に戻った方がよいのではないか?」

「そうですわ。さまも御家が心配でしょう」




一同の窺うような視線の中、はきつく目を閉じて頭の中で必死に計算していた。

あの時少ない戦力の中、屋代とがとった戦略に間違いはなかった。

数多くの穴を塞ぐには分散しか手がなかったのだ。

その分、戦力に難が出るのは元より承知。

それに此度の織田分断戦の要であるここを離れれば、前田がどうなるかなんて火を見るより明らかだ。




「いいえ。私がここを離れるわけにはいきません。小太郎、お願い、村を」

!忍一人向かわせた所で・・・!」

「靭太。私は小太郎の力も、屋代や皆の力も信じてる」




祈るようなの視線に僅かに口端を上げた小太郎はコクリと頷いて、すぐに村へと踵を返した。

の強い言葉に遮られ身体の熱が下がった靭太は、強く握り締められ白くなってるの手に気付いた。

そうだった。

は強い、けれどまだ二十にも満たない女なのだ。

不安でないはずがない。

怖くないはずがない。

靭太はあれしきのことで取り乱した自分を恥じた。




「・・・。さっさとあの精神異常者と蛾女を倒して、父上に紛らわしい文を送ってくるなと皆で叱り付けに帰ろう」

「うん!」




靭太の言葉に満面の笑みで頷いたは慶次と共に斡祇の陣へ戻ることにした。

空は白じみ、開戦の時はもうそこまで来ていた。


* ひとやすみ *
・毒舌靭太もここまでくると清々しいですね!笑
 光秀と濃姫が可哀想なことになっています。しかし、前田夫婦のこの独特な緩さは何だろう?
 こんなはずじゃなかったのにおかしいなぁ・・・。
 さて、ずるずる引っ張ってきましたが、始まりは突然です!お見逃しなく!        (11/06/28)