ドリーム小説

達斡祇兵が前田から解放されて戦場へ飛び出したのは明け方に近い頃であった。

明智・濃姫の両軍と前田夫婦がぶつかったのは昨日の夕方の事だったが、

夜目の利かない深夜は互いに退いて牽制しあっていたはずだ。

斡祇の精鋭兵に慶次を加えた一行は陽が昇るまでに前田の援軍として態勢を整えるべくすぐさま城を飛び出したのだ。


途中、鷹文部隊と靭太と別れ、達は本来の目的のため前田本隊と合流せずに別行動を取った。

此度の戦でが狙っているのは明智・濃姫の両軍の足止めである。

双野木で交戦中の蘭丸への加勢を防ぐ事と、織田本隊への合流さえ防げればかなり優勢になる。

あわよくばそのまま織田軍の壊滅に持ち込んで斡祇の危機を回避したい所であるが、あまりに多勢に無勢、

物量で上回る織田軍とてそう簡単にやられてはくれないだろう。


今回、斡祇は前田の援軍という事で出兵したが、正直この戦、前田など当てにしていない。

圧倒的に数で劣る前田に任せておけば双野木がやられてしまうから、

兵を出すために援軍という形を取って自分達で何とかしに来たというのが本音である。

前田なんか知ったこっちゃない。そこにいるから利用するだけだ、という訳だ。

斡祇の見解をそういう方へ運んだのはではあるが、の心情としては「慶ちゃん達も斡祇も助けたい。

ついでに同盟軍の役にも立ちたい」という一石三鳥死ねば諸共の大きな賭けであった。


そんな訳で達は前田本隊と合流せずにまず先に双野木への直線経路に当たる場所に陣を敷いたのだった。

落ち着きさえすれば利家らの元に挨拶しに行くつもりだけどと思いながらは隣にいる羽男にチラリと視線をやった。

そう、なぜか慶次がここにいるのだ。

前田本隊へ向かうと思っていただけにここにいる事が不思議でならない。

の視線に気付いたのか振り向いた慶次はヘラリと表情を崩した。




「しっかし、あの政宗と幸村がよく許したなぁ。を手放してこんな事させるとは」

「えっ・・・?」




は慶次の言葉に顔を引き攣らせて視線を逸らした。

後ろめたい事は何もないが、決心が鈍ると思って誰にも告げず出て来たのは事実である。

目を合わせようとしない様子に慶次は何かを察し眉間に皺を寄せた。

慶次の心を読み取ったは慌てて暇乞いはきちんとして来たと述べた。




「何でが斡祇にいるのか知らないが、アイツらきっと怒ってるぞ?」




なぜかおかしそうに言った慶次には目を細めて視線を外した。

おそらく慶次の言う通りだろう・・・けれど、




「二人が怒ってようと私は意志を曲げるつもりはないよ」




守られるだけのお姫様になりたかった訳じゃないのだ。

自分の意思で何かを成し遂げられるような強さがずっと欲しかった。

そのために勘助の手を取り、書を紐解き、身体を動かしてきた。

にだって守りたいものがある。

そのためにここまで来た自分を誰にも否定させはしない。


ふと顔を上げたは微笑んでる慶次と視線がぶつかった。

そういえばなぜかさっきからずっと慶次は笑っている気がする。




「ねぇ、何で慶ちゃんずっと笑ってるの?」

「ん?嬉しい時は笑うもんだろ」

「何が嬉しいの?」

「んー・・・そうだな、またに会えた事かな」




キョトンとしたの頭を撫で回して慶次は笑う。

泣いたり笑ったり怒ったり傷付いたり、人生を謳歌しているが慶次にはとても人間臭く見えて好ましかった。

政宗や幸村のように自分の身を盾にしてでもを守るつもりなら、単独で斡祇を率いて戦場に来た

責めなければいけないのかもしれない。

だけど慶次は嬉しかったのだ。

己の志を曲げることなく、凛と輝く瞳で戦場を見据えるが変わらず自分の近くにいる事が。

――心に素直に生きるの傍にずっといたい。これだけは誰にも譲りたくない。




「なぁ、脆いお前も強いお前も俺には眩しくて愛おしいよ。俺はただお前を守るだけじゃなくて、

 と同じ場所に立って同じ物が見たいんだ。この先、が誰とどんな危険な道を行こうとも俺は止めやしない。

 だけど、最後は俺を選んで欲しい。に見合うほどのイイ男になってやるからさ、最後はこの腕に帰って来いよ」




腕を広げて満面の笑みを見せた慶次には胸を締め付けられた。

慶次はいつだっての心が追い着くまでこうして待っていてくれるのだ。

その言葉は酷く優しく温かく、時に厳しく荒々しい。

選択肢を与えてくれる慶次の言葉はを想う優しさで溢れていて、出会った頃からずっと心に降り積もっている。




「俺はが好きだよ。あー・・・、あれから何度も考えたけど、やっぱ俺にはこれしか言葉が思い付かなかった」




苦笑しながら頭を掻く慶次は今度は伝わったかなと首を傾げた。

場違いな告白だとは思った。

ここは戦場でもう少し陽が昇れば戦いが始まるというのに。

だけど、こんなに心に染み渡る言葉はないとは泣きそうな顔を上げた。




「慶ちゃ・・・っ!」




一瞬の出来事だった。

が慶次の名前を呼び終わる前に突然黒い風が吹き、目の前にいた慶次が吹っ飛んだ。

悲鳴を上げそうになったの前には殺気立った小太郎が立っており、呻く慶次と見比べてようやく理解した。

小太郎が慶次を蹴り飛ばしたのだ。




「いってぇ!おい風魔、膝はねぇだろ、膝は!」

「慶ちゃん、大丈夫?!」




近付こうとするを小太郎が抑え、恐ろしい威圧感を滲ませて慶次を見下ろしていた。

気配は雄弁に語る。

曰く、こっちは命懸けで戦ってたというのに、何、主、口説いてんだよ、テメェ!ってことらしい。

威嚇しまくる小太郎の怪我を見付けたは一気に思考が吹っ飛んだ。




「小太郎、血が出てる!戦ったの?!」




自分を心配してくれるに怒りをコロリと忘れた小太郎は、素直にコクリと頷いて治療されるがままであった。

仲良さ気な主従に慶次は何とも言えない気持ちを抱え、深く溜め息を吐いた。


* ひとやすみ *
・お邪魔虫、小太郎。させねーよ!とばかりに乱入するタイミングはさすが伝説級!笑
 情熱的じゃないけどいつでも傍にいてくれる安心感はピカイチです!!慶ちゃん素敵!
 さてさて引っ張りましたが、ここからが本番!
 気合入れて頑張るんで、どうぞ引き続き付き合っていただけると光栄であります!!        (11/05/14)