ドリーム小説

「ちょっとちょっと、いつまで落ち込んでんの旦那達!織田攻めの先鋒なんだからしっかりしてよ!」

「ふん!たかが女軍師一人で腑抜けるとは情けないぞ、お三方」

「なぜ俺を見て言う、直江?まさか若造二人とこの俺を一緒にしてる訳ではあるまいな?」

「何だ分かってるではないか、山本殿!慰めて差し上げようか?」

「ちょ、本気で黙って下さいよ直江様!山本様もその恐い顔止めて!うぅ、何で俺様がこんな目に・・・」




織田との戦のため尾張に向かったのだが、状況は佐助に可哀想なことになっていた。

政宗と幸村を主軸に、佐助、勘助、兼続、かすが、蘭、成実がここ尾張との境に集結し、

後詰に信玄と謙信を残し、加賀と尾張の境に織田分断線が布かれた。

戦力はともかく、尾張に集められた武将達の人間性に佐助は心底弱りきっていた。

かすが、蘭、成実の三人は兵を率いて散らばっており、佐助の味方はここにはいない。

が消えた混乱が落ち着くのを待たずに出陣したため、まだ彼らの中で整理が出来ていないのだ。

それを悪気があるのかないのか兼続が掻き回すので、佐助は涙を堪えるのに必死である。

年長者である勘助がその場の空気を読んで深く息を吐いた。




「確かに佐助の言う通りだな。若造二人がそんな暗い顔では落とせる物も落とせん」

「そうだぞ!大体軍師と呼ばれるほどの女なら、この時期に抜けた意味もあるだろうに」

「・・・直江に同意するのは不本意だが、あの馬鹿は恐らく前田にいるはずだ。慶次と仲が良かった故、

 囮が許せなかったのだろう。気になるのならさっさと織田を倒して援軍に向かってやれ」

「「 援軍? 」」




勘助の言葉に首を捻った幸村と政宗に佐助が一枚の書状を見せた。

前田への援軍は斡祇との不可侵の盟約により出来ないため、二人は首を傾げたのだが書状に目を通して息を呑んだ。

鼻を鳴らした勘助は不服そうに呟く。




「馬鹿者共が今更、加賀への援軍要請を出してきやがった」

「これは斡祇からの書状か!」

「なんと!これで堂々と加賀に援軍に行けるのですな!」




政宗と幸村の声に佐助はやれやれと苦笑した。

もっと早くこの書状が届いていれば、織田を倒した後に加賀へ援軍など回りくどいことをせずに済んだであろうし、

更に言うなれば、が武田から離れずに済んだかもしれなかった。

だが、こうして戦力を分配して尾張に来てしまった今、そんなことを言ってもどうにもならない。

とにかくこれで前田にいるだろうに援軍を名乗って会いに行ける口実が出来たのだ。

一気に織田征伐にやる気を出した二人に安堵しながら、先鋒隊は始まりの時を待つ。









***








「もうこんな所にずっといるのも飽きたわね」

「おやおや、アナタが選んだ策ではないですか、帰蝶」




ムスっとしていた濃姫は明智光秀の言葉にさらに機嫌を悪くした。

全ては愛する夫、織田信長のためとはいえ、こんな戦狂乱と一緒に居なければならないとは。

こうなったのも自分の責任なのだから仕方ないと濃姫は溜め息を吐いた。

九州征伐へ向かった信長と別れ、濃は紀伊の斡祇の隠れ村を急襲した。

それなりに手強い相手ではあったが、銃を扱う濃の前に一族は倒れ、簡単な任務だと高をくくっていたのだ。

だが、突然村人が自害し始めたと思うと、匠が竈を壊し、鉄を折り、村は燃えた。

気付いた時には全てが灰と帰し、特殊な鉄と技術を手に入れるという任務は呆気なく失敗に終わった。

斡祇に関する情報は残りは加賀だけであり、そこに向かっていたのはあの光秀。

任務よりも先に間違いなく全部を滅ぼしそうな光秀に焦った濃は慌てて加賀へ向かったのだ。




「前田との睨み合いも蘭丸君の奇襲さえ始まればおしまいよ。前田は貴方に任せるわ。好きにして頂戴」

「んふふ、次は斡祇から奪えるといいですね」

「これ以上、上総介様にみっともない所は見せられないわ」




悔しげに呟く濃を見て光秀は酷く楽しそうに笑った。

正面から前田と斡祇を攻めようとしていた光秀を濃は止めて、蘭丸を奇襲に使うことを提案した。

慎重に行かねばまた逃げられる。

奇襲の混乱に乗じて濃が斡祇を抑える筋書きであるが、どうなることか。

ふと真っ暗な上空に視線をやった濃は蘭丸の奇襲の刻限になったことを覚った。

濃が兵を動かそうとした直後。

大きな音が地を揺らし、耳を揺らし、思わず濃と光秀は空を見上げた。




「あぁ、いい音です。血が騒ぎますね」

「な、に・・・?何があったの?!」

「そ、それが!どうやら前田が攻め込んできたようで!」

「何ですって?!」

「それはそれは。私が迎えに行きましょう。久しぶりの食事ですからね」

「ひっ」




武器を構えた光秀はペロリと唇を舐めて、楽しそうに近くにいた男を斬り殺した。

斬られたというより、ブチまけられた男は逃げる暇もなく一瞬で事切れていた。

その場にいた者は全員青くなり、濃も顔を顰めると「嫌な男」と呟いた。

纏わり付く血臭を振り払うように濃はそれに背を向けて歩き出した。




「向こうも奇襲とはやってくれたわ。こうなったら前田を突破して斡祇を叩く!あのおかしな夫婦は光秀に任せなさい」

「「「 はっ 」」」




織田軍も奇襲の準備をしていたため前田の奇襲は失敗に終わり、戦場は泥沼化していった。

前田夫婦は光秀に任せておけば一点突破出来ると濃は踏んでいたのだが、現実はそうは行かなかった。

突如、黒い風が戦場を駆け抜け、双野木村へ向かう濃を小太郎が止めたのだ。

時間を稼ぎたい前田軍+小太郎が勝つか、策と兵力で押し切りたい明智+濃軍が勝つか、

かくして深夜の戦が幕を開けたのだった


* ひとやすみ *
・うわ!めちゃくちゃお待たせしました!2月に出来てたのに上げ忘れとかない。涙
 ちょっと時間を遡って、状況を纏めてみました!
 やばいね!兼続面白い!どんどん話が逸れて大変なことになるね!笑
 でも智将!それでも智将!悲しいかな智将!笑
 光秀を書くのがちょっと楽しかった。逆に帰蝶は難しかった!
 帰蝶とは濃姫の実名らしいです。さて次は多分慶ちゃんかな?            (11/04/22)