ドリーム小説
「・・・なぁ、姫様。俺達って援軍に来たはずだよなぁ」
「そのはず、なんだけど」
「じゃあ何で俺達、前田軍に囲まれてんだよ!」
部下達の叫び声には米神をひくつかせた。
そんなの私が聞きたい。
全力で敵視してくる前田兵達には思わず溜め息を吐いた。
夜の内に北上し、前田利家がいる末森城へ辿り着いた途端にこれだ。
書状を送った際、夜陰に紛れて合流し共に出陣するという話で纏まったのに、これはどういうことなのか。
くれぐれも内密にというから旗も掲げず暗い夜道をひた進んできたというに、
到着の先触れに出した兵は取り押さえられ、達はこうして囲まれている。
もうコイツらやっちゃおうぜ的な部下達の視線にも靭太も頷いてしまいたかったが、
ここで前田の戦力を削ぐのは後々自分達にも不利になる。
抗議してやりたい気持ちを抑え、達は大人しく捕えられた。
武器を奪われ拘束されたは不審者集団の頭として連れて来られたのだが、下っ端相手に全く話にならない。
「だから!前田利家殿に援軍の書状は出してあると言っているでしょう!彼からの文もここに・・・」
「喧しい!殿はすでに出陣されてここにはおらぬ!」
「出陣した?!」
話が違いすぎるでしょ、利家さん!
敵軍の様子を見てくると途中で別れた小太郎が急に心配になり、は眉根を寄せた。
背後で誰でもいいから偉い奴を出せと騒いでいる己鉄の声を聞きながらは落ち着かない城内に視線を巡らせた。
すると、向こうから頭に羽根の生えたおかしな男がやって来るではないか。
が知ってる限り、あんな奇天烈な格好してるのは一人しかいない。
「慶ちゃんッ!!」
慶次は聞き覚えのある声に思わず辺りを見渡して、取り押さえられてるを発見した。
ギョッとした慶次は思わず走り寄り、奥村も慌てて走り来る。
「お前、か?!何で捕まってるんだ?!」
「全部利家さんのせい!助けに来たのに扱い悪すぎるよ!」
「慶次、この方は一体・・・」
「あ、コイツは。甲斐の姫軍師って言や分かるか?」
「はいぃ?!何で甲斐の方が?!信玄公が不可侵の盟約を破るなんて!!」
「あ、そういやそうだな」
「話は後!とりあえずこの文を読んで、私の部下達解放して!」
は利家から届いた文を奥村に手渡し、ようやく縄を解かれ安堵した。
慶次と奥村は食い入るように文を見つめて、そこに書かれていた斡祇の文字に目を剥いた。
が彼らに許しを貰い、今にも怒りで暴発しそうな部下達を助け出すと解放された靭太と己鉄がの傍に控え、
い組達も没収された武器を抱えて整列し直す。
「彼らは斡祇の選りすぐりの兵で、利家さんと共同戦線張るために来たの」
「た、確かに殿の字です。まさか斡祇が動くなんて」
「加賀を荒らされると困るのよ」
「それで、何でがそいつらと一緒にいるんだ?」
「口を慎めよ、風来坊。この方は我等斡祇の現当主だ」
物凄く機嫌の悪い靭太がそう言い放てば、慶次と奥村はあんぐりと口を開いて固まった。
言葉もない二人には苦笑したが、全部説明してる暇はない。
戻ってきた泡沫といろは包丁を身に着けて、は二人を見上げた。
「私達も出陣します。始まってしまったのなら、必ず両軍をこの地で足止めしなければ」
「足止め?」
「はい。おそらく今頃尾張でも始まってるでしょうから」
何が何だか分からない内に出陣して行った一行をポカンと見送った慶次はすぐに正気に戻った。
面倒なことを全部奥村に押し付けると慶次は慌ててを追った。
***
が甲斐を出る前から同盟軍は前田を囮に本隊を叩くと決まっていた。
なら当然すでに織田軍を分断するよう軍が配置されていて、加賀開戦の報せを待っているに違いない。
予定は少し狂ったが利家の奇襲で戦が始まった以上、敵が織田本隊へ合流することだけは阻止せねばならないのだ。
「しかし、どうしてお前は厄介な人間にばかり好かれるんだ?」
並走していた靭太が呆れたように呟き、は脈絡のない言葉に首を捻った。
そんなに己鉄が苦笑しながら後ろを指差す。
キョトンと目を瞬き、振り返ると物凄い勢いで慶次が向かって来ていた。
「真田の犬っころや伊達の蛇男に飽き足らず、前田の変人までとは恐れ入る」
「何で俺が変人なんだよ!」
追い着いた慶次はなぜか自分が変人扱いされており、憐れむように言う靭太に噛み付いた。
ギャンギャンと言い合う二人の緊張感のなさには苦笑する。
「いいか変人。俺と鷹文部隊は前田と陣を構えるためここから別行動をとる。死んでもを守れ」
「あんたに言われなくても分かってるよ。・・・・けどなぁ!その変人は止めろ!」
「まぁまぁ!靭太さん戦闘は役立たずだからアナタを頼りにしてるんですよ!靭太さんに頼られる変人なんて凄いです!」
「「
人を馬鹿にしてるのか、お前は?! 」」
「えぇ?!」
戦を前に大騒ぎする三人には溜め息混じりに閏を撫でた。
この戦いが今後の日ノ本の命運を分かつ。
互いに同じ思いを心に秘め、己の戦場へと前を見据えた。
* ひとやすみ *
・久しぶりの更新です!前田夫婦に振り回される人達。笑
今回の話はほぼオリキャラで構成されてたんですが、いろいろ書けて楽しかったです!
実はこの辺り、相当苦戦してたんですが、靭太の犬、蛇、変人の台詞だけ決まってました。笑
まぁ、慶ちゃん、人間なだけマシなのかもよ?笑 (11/01/24)