ドリーム小説
そうこうしてる内に約束の五日目の朝はやってきた。
庵樹さんのおかげで住む家も仕事もあっさり決まって、これから先の生活は何とかなりそうだ。
「お世話になりました」
私は感謝の気持ちを込めて目の前の庵樹さんと虎珀さんに深々と頭を下げた。
素性を知る虎珀さんは心底心配そうな目をしており、私よりも泣きそうになっていて思わず笑いが漏れる。
初めて会った時の訝しげな瞳とは大違いだ。
「何にも出来ずに申し訳ありませんでした。道中気を付けて下さいね、」
虎珀さんは何故だか恨みがましく庵樹さんを睨んでいた。
無視を決め込んだのか庵樹さんは慌てたように私に別れの声を掛けた。
「じゃーな、お嬢。最後まで洛兎に会えず残念だったな、楽しみにしてたのになぁ」
その言葉に思わずキョトンとしてしまった。
相変わらず目付きの鋭い虎珀さんと庵樹さんを交互に見た私は苦笑した。
少ない荷物を確認して二人に正面から向き直った。
「事情があるのでしょうけど、謎解きみたいで私は楽しかったですよ」
私の言葉に今度は二人がキョトンとして、互いに顔を見合わせた。
私はもう一度頭を下げてニヤリと笑うと、最後に一言残して寺を去るために階段を下った。
「今までありがとうございました、洛兎さん、虎珀さん」
二人の目にが映らなくなると虎珀は据わった目を隣の男に向けた。
未だ何が起きたか分かっていないような庵樹に虎珀の鋭い指摘が入る。
「洛兎、だから言ったでしょう?は賢いと。全く、庵樹などと名乗って」
庵樹、もとい洛兎は、虎珀の静かなる怒りに冷や汗をかきながら頭をガシガシかいた。
遠山覚範寺の和尚である洛兎は幼名だった庵樹と名乗っていたのだが、どこでバレたのかに見破られた。
洛兎は顎に手をやり、ニヤけた口のまま踵を返した。
それを思わず見てしまった虎珀はやれやれと溜め息をついて寺に戻った。
***
あの時の二人の呆けた顔を思い出すと未だに笑いが込み上げてくる。
事情は分からないが、騙されていた分、二人に一矢報いることが出来た。
してやったり、だ。
「あー。笑った笑った」
空を見上げると空はどこまでも青く、どこまでも高く、元の世界となんら変わりのない様に見える。
だけどここは違う世界・・。
遠くて命のやり取りが身近な世界。
これから頑張ろう、なんて私、いつの間にこんなにポジティブになったんだろう。
非現実的すぎて笑っちゃう。
泣き笑いのように上を向いたままの顔を隠すように腕を乗せると、溜め息が漏れた。
泣いても何も変わらない事は分かりきっているので深呼吸をして一つ頷いた。
( うん。まだ頑張れる)
勢いよく前を見たら至近距離に見知った顔があった。
「うわぁ!洛兎さん!!」
「はは!百面相してっから面白くてな!」
突如目の前に現れた洛兎さんに驚いた。
自分の方が寺を先に出たはずなのに。
何でここに居るの?!
「、合格だ」
「え、」
そう言われて、初めて名前を呼ばれた事に気が付いた。
洛兎さんは薄く笑って、目を白黒させていた私の腕を引き、降りてきた階段を再び上り始めた。
「騙してた礼だ。寺に住め、」
「え?でも家も決まったし、仕事も・・」
「ここから通えばいいだろうが」
確かにその通りである。
しかも寺に住めば家賃も浮く。
だがやはり申し訳のなさが先立つ。
そう思った私の心を読んだのか洛兎さんはもう一度言う。
「お前、一人くらい養えないほど貧しくはねーぜ。これは俺が勝手にしているだけだ。礼ぐらい潔く受け取れ」
潔くって・・・。
有り難いのだが何だか強引とも言える礼に、苦笑を心の中に押し留めて代わりに違う言葉を発する事にした。
私にはまだまだやらなければならない事があるのだ。
「あの、受け取る代わりに私に・・・知識を、生きる術を教えてください」
まさか交換条件を出されるとは思ってもいなかっただろう洛兎さんは目を瞬いて私を見ていた。
洛兎は真剣な顔をして見てくる目の前の少女を鑑みた。
( 生きるために、帰るために必死な少女には知識が足りない。
それを身につけた時、こいつはどう化けるだろうか)
「面白い!俺に教えを請うか。だが礼に条件を付けられても割に合わねえからこっちからも条件を付けるぜ」
こいつは必ず俺が言う条件呑むと言うだろう。
目に光を宿しては臨むところだ、と言わんばかりに大きく頷いた。
この未来から来たという少女が寺にやってきたのは数日前だが、
こんなに面白そうな事、乗らぬが損ってもんだろう!
寺に再び戻ったに、虎珀は微笑んで、お帰りなさいと言った。
机の上には熱いお茶が当然のように三つ煎れられていた。
* ひとやすみ *
・新たな居場所が出来ました!
次からはお勉強です!! (08/12/2)