ドリーム小説
あれから随分と時間が経っていたようで、片倉殿と庵樹の様子を伺いに行けば、
別れた時のままと鬼庭殿が一緒に廊下に居るのを見て思わず二人に怒鳴り込んでしまいました。
この寒空の下、二人して身体を冷やして、風邪でも引いたらどうするつもりですか、全く。
鬼庭殿にまで怒鳴るとは少々畏れ多かったですが、なぜか二人して笑っていて
反省もしていないようなのでよしとします。
しかし、鬼庭殿はと出会って間もないはずなのに、短い間で誰よりも仲良くなっているような気が・・。
それもという少女の気性を考えれば納得出来ますが。
寺に来てから四日も経てばがどういう娘なのかぐらい分かります。
初めはとんでもない事を言ってのけ、信用ならないと思っていましたが、
本当に見たとおり活発で礼儀正しい子のようです。
賃仕事から帰って私の手伝いまでしてくれますし、何より人を惹き付ける力があるようです。
悔しいですが、庵樹の人を見る目は確かです。
腹が立つので本人には
絶対に言ってやりませんが。
***
先程のとのやり取りを思い返すと笑いが込み上げてくる。
それは私の満足のゆく答えをが答えたからであろうか、それともあの者の未来を考えてか。
の問いかけに私が何も答えないと、は自分の考えを話し出した。
「ずっと不思議だったんです。洛兎和尚が居ないのに、和尚しか判断出来ない仕事が片付いていく事が」
手を組み合わせてポツリと落とすように話すを見つめながら、何となく私も目を下に向ける。
すでに夕闇に包まれた縁側で、このようによく知らない少年と話している自分が可笑しいと他人事のように思った。
「それは和尚と連絡が取れる状況になった事を意味してると思ったんです。
最初は手紙でやり取りしているのかと思ったんですが、今日突然やってきた綱元さん達の仕事が
今、話し合われている。それは洛兎和尚が帰ってきたと言う事じゃないですか」
は顔を上げて笑ったがその疑問は元より私に聞いたものではないらしく、
私が何も言わないのを予測していたように話を続けた。
「だけど見知らぬ人が寺に居る形跡はない。ならば初めからここに居たと言うことになる。
名代を差し置いて仕事が出来るのは和尚だけだから」
すっかり顔から笑みが消え、本人も気付いてはいないだろうが、
自分に言い聞かせるように一人の世界を作り出していた。
それを見て思わず、口元が緩む。
( おっと、まだこの綱元から答えを引き出させてはやらんぞ)
すると答えが纏まったのか、スッと顔を上げて私を見上げてきた。
の真直ぐなその目には力が宿っていた。
「名代の虎珀さんが庵樹さんに仕事を全て任せたのが答えだと思います。
庵樹さんは洛兎和尚と同一人物なのではないですか?」
私をジッと見て動かないに苦笑を隠しながら、頭を撫でてやるとその意味が分かったのか、
途端に表情が明るくなった。
全く、この少年には驚かされる。
コロコロと変わる表情からは図り知れないその洞察力は素晴らしいとしか言えない。
洛兎の事だ。どうせつまらぬ事で名を偽ったに違いない。
「は本当に賢いな」
「そんな事ないです。こじつけた様なこの考えも庵樹さんが
『名を偽るのが色々隠すには一番効果的で、確実』と、言っていたのに裏付けされてるだけですから」
これには思わず目を見開いた。
なんと、この少年はあの洛兎までも手玉に取るか。面白い・・!
それは洛兎の完全なる失言だったであろうが、おそらく本人も気付いていないだろう。
それを拾い出し、結び付けたは、本気で庵樹と呼ぶか、洛兎と呼ぶか悩んでいる。
苦笑して、本名は洛兎だと告げてやると、少し考え込んでにやりと笑った。
「理由があったのだとは思うけど、何だかやられっ放しは悔しいので気付かない振りを続けます」
それで洛兎さんが知らない振りにいつ気付くか今度は私が騙してやります、などと意気込んで言うものだから
私は可笑しくて腹を抱えて笑った。
こんなに愉快な気分になったのはこの前の勝ち戦以来だった。
* ひとやすみ *
・綱元さんとほのぼの。
そろそろお城編に移れるといいなぁ。 (08/12/2)