ドリーム小説
ここに来て三日経つが、秋も終わりに近付き、奥州ではもう雪がちらほら見えるようになった。
仲良くなった寺のお坊さん達と話したり、虎珀さんを手伝って寺内の掃除をしたりして時間を過ごした。
地球温暖化とか騒がれていた向こうの冬はホントに危機的に温かいらしい。
奥州の冬は半端なく寒いだろうと今から不安になる。
白い息を吐きながら何気なく門の外に出ると、眼下に見える町も何だか寒さのせいか寂しく見えた。
声がしたので振り返ると、お坊さん二人が話しながら後ろを通り過ぎたがこっちには気付いていないようだ。
「事件のあった分寺に虎珀法師が向かわれるそうだ。その間、寺はどうするのだろうか・・」
「心配せずとも、洛兎和尚が何とかしてくれるだろう」
「それはそうだろうが・・・」
何だか会話が気になって首を傾げていると、肩を叩かれて身体が跳ねた。
振り返ってみると虎珀さんがいつもの法衣に寒さを凌ぐための羽織をかけて、風呂敷包みを抱えて立っていた。
「虎珀さん!あれ?お出掛けですか?」
「えぇ。少し所用で遠出をしなければなりませんので。明日の朝までには帰りたいものです」
虎珀さんは苦々しい顔をして少し長い前髪をはらい、うっすらと笑って寺を後にした。
***
午後になっては寺に続く階段に座って、どこか心に引っかかる違和感に悩まされていた。
( 何かが変なのだ。何かが足りない)
すると急に下の段から声が掛けられて目線を向けると、年は四十代くらいの渋い感じの男の人が立っていた。
「すまぬが、貴殿はここの者か?」
見た目通りの渋い声に正気になり慌てて立ち上がると、男より数段上に立っているのに目線がそう変わらない。
寺に案内しようとが歩き出すと男も並ぶようにゆっくり歩き出した。
「数日、お世話になっていると言います。今は洛兎和尚も虎珀法師も出掛けているんですが」
「そうであったか。少々急ぎの件なのだが、虎珀も居ないとなると致し方あるまいか・・」
男が帰ろうと立ち止まり、に手間を取らせたと一礼した時に門前に庵樹が出て来た。
それに気付いて階段上を見上げると庵樹の顔が綻んだ。
「鬼庭殿じゃねーかぁ!珍しいな」
「!何だ帰っていたのか」
「、この人は鬼庭綱元殿だ。少し用事があるみたいだな。仕方ねえ、この庵樹が相手してくるか」
「庵樹・・」
「鬼庭殿、奥の部屋にて話を伺おう」
二人の顔を交互に見比べていたは綱元の表情が一瞬曇ったのに気が付かなかった。
綱元は一つ頷いてチラリとを見ると庵樹と二人で奥へと消えていった。
そこに入れ替わりのように現れた僧侶をは思わず引き止めた。
「あの、庵樹さんってここの僧侶さんなんですか?」
「え、と。本人は今は僧ではなく、ただの居候と申していたような・・」
はっきりしない僧の物言いには益々首を傾げた。
考え込むを怪訝そうに見ていた僧はペコリと頭を下げて立ち去った。
( 庵樹さんは何者なのだろうか・・?
帰ろうとしていた鬼庭さんを引き止める程の何か・・・。
あの人は一体・・・・)
日も落ちて肌寒さが増した頃、ふと外を見ると綱元が階段を下りていた。
は何も考えずに走り出して声を掛けていた。
振り返った綱元は慌てて近付いてくるに驚いている様だった。
「あの!用事は済んだのですか?」
「あぁ。洛兎にも確認出来たので用は済んだ」
その言葉には驚いた。
( 一体いつ和尚と連絡が取れたのだろうか?)
目の前で目を丸くさせているに綱元は苦笑し、肩に手を置いた。
その様子はまるでが何を考えているかが分かっているようだった。
「あやつの悪戯は少々過ぎるが、悪い奴ではないので許してやってくれ」
困ったように笑う綱元に何の事だとは首を傾げた。
声をあげようとした時、の声は別の声にかき消された。
「綱元ぉー!そろそろ帰って来ないと梵に怒られるぞー!」
階段の下の方で手を口元に当てて叫んでる男の人が居た。
それに気をとられていると綱元はに一礼すると踵を返して降りていった。
何だかよく分からないままではあるが、パズルのピースが全て揃った気がした。
「ツナ、梵の雷は覚悟しとけよー。アイツ短気だからな」
「少々話し込んでしまった。逃げる手立てはないだろうか・・」
「ないね!・・それより、ここにあんな童子いたか?」
「いや、武家から預かっているようだ」
ふーん、と階段にまだいるを目だけでみると綱元と共に繋ぎとめていた馬に跨った。
そして先を急ぐ綱元を追う様に馬の腹を蹴って寺を後にした。
二頭の馬が離れていくのを寒空の下、はただ眺めていた。
* ひとやすみ *
・変な違和感。簡単なからくり。夜明は綱元好きv
お気付きだと思いますが、もう少しお付き合い下さいv(違? (08/12/2)