ドリーム小説

・・・眠れない。

あの指輪どうしよう。

返すに返せない状況だし、箪笥の奥にしまっておくか、それとも指にはめておくか、どうしたらいいんだ?

指輪の対処に悶々としている俺は夜の並盛をただ徘徊していた。

こんな時間に平和な並盛をウロウロしてる奴なんて、不良か酔っ払いくらいなもんだ。

今、一体、何時だ?

時計を探してコンビニを見付けるが、店の前にたむろってる不良がいっぱい・・・。

怖いから目を合わさないようにしないと!

遠くから立ち止まって目を細めて店内を覗き込む。

コンビニ店内の壁に掛けられた時計は10時48分を刻んでいた。

家を出てから随分経ってるな。




「今すぐ帰らないとどうなるか・・・」




絶対恭弥に殺される・・・!!

黙って出てきたから見付かってないかもだけど、あいつのことだ。

げ、玄関で待ってるかもしれない・・・。

無理ムリ無理むり!

早く帰ろう!

足早に歩き出すと目を見開いてこっちを見てるコンビニ前の不良達が悲鳴を上げた。

え、な、何かあったの?!

とりあえず俺の後ろを見てみるが何もない。

一体何がと振り返ると、不良達は「今すぐ帰りますからー!」と泣きながら走って逃げていった。

何だ、アレは・・・。

気味が悪いが、とにかく俺は家を目指すことにした。








***








住宅街に入ると町の喧騒は遠のき、虫の鳴く声が力強く聞こえる。

地面を踏み締める自分の足音を聞きながら歩いていると、外灯で一際明るい場所に誰かが立っていた。

公園の入り口にある柵に凭れ掛かり、煙を吹かすその姿は最近よく見る姿で。

ズボンに突っ込まれた腕にはコンビニの袋とゴテゴテしいブレスレットをぶら下げている。

指輪と言えば、コイツあんなにたくさん付けてて邪魔じゃねーのかな?

素通りするのもアレなんで、俺は近付いていって声を掛けた。




「こんな時間に何してるんだ、隼人」

「げ、うわッ!!テメェ、一体どこから湧いて出やがった!!音も気配もしなかったぞ!」




え、それって影薄いってことですか・・・?

ゴーンと地味に傷付きながら、訝しげな隼人に引き攣った笑みで返した。

ジリっと一歩俺から離れた隼人にさらにダメージを受ける。

・・・俺、そろそろ立ち直れなくなりそうなんだけど。




「いいか!10代目が認めても俺はテメェを認めねぇ!さっきの事といい、リボーンさんや姉貴と知り合いな事といい、

 一般人だなんて信じられるか!一体、テメェ何者だ?!」




ここまで敵意剥き出しで吠えられるとやっぱ悲しいな・・・。

というか、俺、一般人だなんて言ったっけ?

いや、まぁ、一般人でいられたらどんなにいいか。

俺が何者かなんて、そんなの俺が知りたいくらいだ!




「お前が納得する答えを俺が持ってるとは思えないが、俺は一般人でもないし、マフィアでもない。

 ただ、確実に言えるのは俺がと呼ばれ、俺もまた闇世界の住人だってことだ」

ってどこかで・・・」

「知らなきゃそれでいい」




俺が知ってる俺自身なんてこんなもんだ。

しかも、チキンでビビリな異世界人というオマケまで付いてくる。

警戒の色を強めた隼人に俺は溜め息を一つ吐いて奴の名前を呼んだ。




「例え、俺が誰であろうと綱吉にはお前が付いてるんだから問題ないだろう?」

「・・・あ、当たり前だ!」




俺の言葉に、一瞬キョトンとした隼人だったが、すぐに持ち直すとどこか誇らしげにそう叫んだ。

案外可愛らしい所があるじゃないかと笑いそうになったが、ここで笑うとまた噛み付かれそうなので堪える。

これで少しは警戒を解いてくれるといいんだけど。

眉間の皺の数が少しばかり減った気がしたので、俺は隼人の指を見て口を開いた。




「そんなに指輪付けて邪魔じゃないか?」

「あ?別に。慣れれば気になんねーよ。何だよ、やんねーぞ」

「いや、少し指輪を・・・貰ってな。付けるか迷ってたから聞いてみただけだ」

「あー、そういやお前、装飾品全然付けてねーもんな」




おぉ、普通に会話してる!

進歩じゃね、これ?

何だか懐かない猫を手懐けてるような気がした。

そういやこの前、ディーノが嬉しそうに隼人の話してたな。




「昇進の話、断ったんだってな」

「何でお前が知ってんだよ?!跳ね馬がその話持ってきたんだが、俺は10代目のお傍に付いてなきゃなんねーからな!」

「・・・ディーノもそんな嫌な役、よく引き受けたな」

「あぁ?!」

「断って正解だ。受けてたらおそらく今頃海の底だ」




唖然とする隼人を見て、俺はもう一度溜め息を吐いた。

九代目はホント何考えてんだ・・・。

ディーノに隼人殺させようとするなんて相変わらず鬼だぜ、全く。

綱吉達やビアンキ悲しませて、ディーノに皆に恨まれろっていうのかよ。

チクショー、あの時、もう一発くらい殴っとけばよかった!

どうしてマフィアってのはこう両極端なんだよ!

・・・あ、やべー。落ち込ませたか?!




「まぁ、これで自他共に綱吉の右腕と認めてもらったようなものだろ」

「右腕・・・」

「綱吉を頼むな、隼人」

「当然だ!テメェに言われるまでもねー!」




右腕の一言で復活した隼人に俺は今度こそ噴き出した。

案の定、怒られたが、最初のような刺々しい感じじゃなかったのが何だか嬉しかった。

時間も時間だったのでその場で隼人と別れ、俺は足早に自宅を目指す。

角を曲がった所で、横たわる黒い何かに俺は目を見開いた。

人が倒れてる!!!

思わず駆け寄ってみると、見慣れたリーゼントと風紀の腕章に息を呑む。

コイツ、風紀委員の下っ端!




「おい!何があった!」




ボロボロの男は小さく呻いて僅かに俺を見ると目に涙を浮かべた。

コイツら柄悪いけど、まだ中学生だもんな。

俺がもう一度何があったと声を掛けると、何かを呟いた。

何だか物凄く聞き取り辛い。

顔を近付けてみた時にそれに気付いてハッとした。




「こ、くようしぇ、に、やあれた」




―――黒曜生にやられた。

・・・・・コイツ、歯を全部持って行かれてる。


* ひとやすみ *
・隼人と戯れてみた。笑
 懐かないとはいえ、主人公に手玉に取られてる時点で単純すぎる。
 昇進云々の9代目の所は私自身の感想で、どう考えても9代目は穏健派ではないと思う。
 まぁ過激派のマフィアに比べれば穏健なんだろうけどさ。
 最後のコマはすいか編ならではの「始まった!」て感じの緊迫感が出てればいいなぁ。      (10/07/09)