最弱ヒーロー

91.危ないことはしないで！

「なぁ、俺の銃剣知らないか？」

「し、しらねぇ！」

「おやすみ」




また一人俺のコンバットブーツの餌食になり、眠りについた奴を見下ろしながら俺は淡々と思う。

怒りと痛みは最強の麻薬だと。

腕一本使えないし、内臓死んでんじゃねーのってくらい腹痛いのに、何だか気分がいい。

自分で言うのも何だけど、ヘタレはキレさせると何するか分かんないぜ？

いいか、お前らー・・・。

人間、大人になるとなー・・・、

抜けた歯はもう生えてこねーんだよ、コノヤロー！！

また一人、二人と沈めながら、俺は俺の元を去った永久歯の恨みを晴らしていた。

俺のキチガイみたいな暴れっぷりに弟二人は呆然としている。

転がってたトンファーを足で跳ね上げて右手で掴む。

トンファーって使ったことないんだよな、俺ー。

右しか腕が使えないので一本で充分だが、何となく使い方はの剣と似てる気がした。

えーと、受け止めて、殴って、それから・・・？

え？！他に使い道ない訳これ？！

よくこんなの使ってんな、恭弥。

どうするよ・・・。

あ、そうだ。

俺は思いついたままにトンファーをブーメランのように投げ付けた。




「返って来ないな」

「当たり前でしょ」




恭弥のツッコミに何だかばつが悪くて近くにあったディーノの鞭を拾って振るうと懐かしい感じがした。

おーこれこれ！この意味分かんない軌道を描く感じ！

鞭の性能がいいのか、スパンと音を立てて切り裂いていく感覚が何だか好きだ。

何かに巻き付けるように振るえば、なぜかさっき投げたトンファーに巻き付いて飛んで戻ってきた。

げぇ！！

咄嗟にしゃがんでよければ、気が付けばトンファーが遠心力でハンマーのように敵の頭を殴り倒していた。

け、結果オーライ・・・？

恭弥とディーノに武器を返せば、ジトリとした目で見られた。

何だよー？！

その直後、高笑いが聞こえ振り返ると、物凄い勢いで敵を斬りつけているティエラが目に入った。




「美形は世界の宝なのよ！それも！の顔に傷を付けるなんて死んで償いなさい！！」




すっげー持論・・・。

だけど前以上に剣の腕が上がっているティエラに感心した。

キャバッローネの動きに制限されてなければ、彼女があんなに簡単に捕まるはずがなかったのに。

全ての根源を正せば、やっぱり俺が負担を掛けさせていたんだよな。

くっそー！！もっと強くなりたい！！

俺はその辺に転がっていた剣で撫でるように敵を斬り付けたが、重すぎて剣が手からすっぽ抜けた。

あ。

背後で悲鳴が上がり、振り返れば剣が敵を串刺しにしていた。

えーと、結果オーライ・・・？

うん。やっぱ俺の武器はしかいないな。




「返してもらうぞ、俺の相棒」








***







ようやくを取り戻した時には日が沈みかけていた。

搬入用の倉庫は青空倉庫に変貌し、瓦礫が通路を塞いでいた。

知ってはいたが、やっぱコイツら強いなぁ・・・。

ん？あれ？




「そう言えば、お前らいつ仲良くなったんだ？まぁ俺としては弟二人が仲良いのは嬉しいが」

「ん？」

「二人？」




眉根を寄せて首を傾げたディーノと恭弥に俺も首を傾げる。

ティエラが何か言いたげに首を振っているが、意味が分からない。

ちょうどいい機会だから紹介しとこうっと。




「ディーノ、コイツが雲雀恭弥、俺の弟だ」

「・・・・！！」

「恭弥、コイツがディーノ、俺の実の弟だ」

「・・・・！！」




日が落ちて涼しげな風が吹き抜け、俺はおかしな沈黙に二人を交互に見る。

何だぁ？

酷く落ち込んだように溜め息を吐いたティエラが「やっちゃった」と呟き、さらに困惑する。

何をやっちゃったんだ？

―――バシィィィ！

次の瞬間、ディーノと恭弥が憎い仇でも見るような目で武器を交じり合せた。

ドーンと派手に弟達の本日二度目の大爆発にさすがの俺も開いた口が塞がらない。

えぇ？！何で戦ってんのー？！




「お前かぁ！兄さんがイタリアに帰って来なかった理由は！」

「あなたが兄さんに手間掛けさせる出来の悪い弟？」

「道理で一般人なのに強いと思ったぜ！兄さんに稽古つけてもらうとかズルイぞ！」

「煩いよ。あなたが弱すぎるから兄さんがちょっとで２年も足止めされたんでしょ？」

「仕置きが必要みたいだな！」

「咬み殺す！」




まるで嵐のような戦闘に呆然としていると、ティエラが俺の背を押して歩き始めた。

え、ちょっとちょっと？！




「帰りましょう。あんなの放って置くのが一番よ。それにここなら誰にも迷惑かからないわ」

「だが、」

「だがも何も、今のの怪我じゃ、あの二人の攻撃止めただけで瀕死よ」




・・・確かに。

アナタ死にたいのとティエラの翡翠の目が問うている。

いや、でも、このままじゃダメだろ。

何で喧嘩してんのかさっぱり分からんが、危ないことはしないで欲しいし・・・。

また一つ隣の倉庫が倒壊したのを見て思わず息を呑む。

ドーン、バーンと派手な音を背後に聞きながら、俺がまだ迷っているとティエラは眉尻を下げて俺の服を掴んだ。




「・・・お願いよ。早く手当てしてちょうだい」




あ、無理だ。

すまん。弟達よ。

美人の上目遣いで涙声のお願い事に俺は勝てそうにない。

俺は素直に歩みを進め、ティエラと二人、早々に帰途に着いた。

何かよく分からんが、弟達よ・・・・。

晩御飯までには帰って来いよー。