ドリーム小説
「まさか、ディーノと恭弥が来るとは、な」
頭上でジャラリと鎖が音を立て、天井高く吊り上げられたが苦笑していた。
顔は見るも無残に怪我だらけであちこち腫れている。
(な、に・・・これ・・)
もはやどこから出てるのか分からない血が滴り落ちて、微動だにしない恭弥の頬をいくつも汚した。
(こんなことって・・・)
遅れて二人を追いかけてきたロマーリオが、唖然として見上げるディーノに声を掛けるが反応もなく。
五体満足なのが不思議なくらいの損傷で二人は言葉が出てこない。
「さっきの電話、テメェらか!」
男の叫び声にようやく我に返った弟達は、男に視線を向けて初めて思考が動き出した。
脳内の思考回路が焼け切れたかと思った。
怒りでシナプス全てが熱を持ち、まともに言葉が出そうにない。
こんなに激流のような感情に押し流されそうになったことは初めてだった。
普通に戦えばこんな奴等、兄にかかれば瞬殺なのだと分かっているからやりきれない。
優しくて誰よりも強い兄さんのこんな姿見たくなかった。
それはきっと兄さんも同じことで、弟の自分には見せたくなかったはずだ。
屈辱を飲み込んで自分達に笑ったを思うと、悔しくて鼻の奥がツンと痛む。
そんな弟二人のやり場のない気持ちが全て怒りと憎しみになって、目の前の男に向けられた。
「
その汚い口、二度と開かないようにしてやる」
「
生まれたこと後悔するまで咬み殺す」
鬼か般若のような表情をしたディーノと恭弥にティエラは息を呑んだ。
これから何がどうなるのか彼等の実力を知るティエラには容易に想像できる。
それでも同情はしない。
彼女もまた、怒りと憎しみで前が見えない狂者なのだから。
酷く暴力的な音がして男の醜い悲鳴が上がるも弟二人は一切容赦はなかった。
自分を痛め付け、ティエラに怪我を負わせた男がボロボロになっていく様を見て満足していただが、
手加減も歯止めも利かない弟達にだんだん頬が引き攣ってくる。
なんて恐ろしい子達・・・。
ロマーリオに鎖を解かれて久しぶりに地に立つも、足が痺れて立てそうにない。
はロマーリオに支えられ、遠くでまだ怒りをぶつけているディーノと恭弥を見て口を開いた。
「もう、意識はないぞ」
ピタリと動きを止めた二人は振り返ってを見た。
場違いなほど穏やかな表情でどうすると聞くように呟いたに二人は泣きそうな顔をした。
もう止めろと暗に促す兄にやり場のない感情を持て余す二人は顔を歪めて拳をきつく握り締めた。
これくらいで許せるはずがない。
があんなに血を流し、怪我をしたのだ。
許せるわけがない。
こんなになる前に助けに行けなかった、自分自身が。
ギリギリと武器を握り締め、俯く二人の心を知ってか知らずか、はフッと息を吐いて笑った。
「来てくれてありがとな、ディーノ、恭弥」
ハッとした二人は思わず顔を上げてクシャリと表情を崩し、武器は音を立てて地面に落ちた。
鞭とトンファーが二人の手から離れ、ようやくロマーリオは安堵の息を吐いた。
私怨で揮い続ける力はいつか自らを滅ぼす。
ディーノと恭弥が普段は見せないような顔での元に走り来るのを見てロマーリオは薄く笑った。
「こら、抱き着くな」
「何で逃げないんだよ!」
「鎖くらい壊せたでしょ!」
「俺は、弱いからな」
「「 嘘吐き 」」
立ち上がろうとふらついたは、両側から支えながら睨む恭弥とディーノに思わず口を噤む。
ロマーリオがティエラの縄を解くのを見て、身体の感覚を確かめてみる。
「肋骨と内臓、他もいくつかいってるが、目と足は無事か」
「、ここは一端引きましょう?」
「引く・・・?お前をこんなにされたのに?」
実は相当は頭にきていた。
弟二人にやられた男は不運だと思うが、可哀想とまでは思わない。
自分を痛め付けたこともあるが、何より自分を捕まえるために卑怯にもティエラや正一に手を出したことに腹が立つ。
ティエラはの金の瞳の放つ剣呑な色に声を失った。
の武勇伝は知っていた。
だが、ティエラが出会った時、はすでにただのだった。
牙は失われたのだとずっとそう思っていたのに、今のはまるで・・・。
「ディーノ、恭弥、お前達はティエラを連れて戻れ」
「「 嫌だ 」」
「私も嫌よ!まだアイツらブチのめしてないもの!」
勇ましい姿の三人には一瞬呆けたが、すでに思考能力はミジンコ以下だ。
ようするに考えるのが面倒で。
やる気満々の三人に口の端を上げたは感覚の戻った足でしっかりと立つと、わらわらと倉庫に入って来た敵を見据えた。
さぁ、感謝祭のはじまりだ。
* ひとやすみ *
・他人視点で見ると相変わらず兄ちゃんが別人・・・。
最後の場面、全員がギラギラしい顔をしてるのが想像できて恐ろしい・・・!
珍しく主人公が積極的に動いてることからもキレちゃってるのが分かります。
むしろボコられて頭逝っちゃってるのかもしれない。笑 (10/06/03)