ドリーム小説

「ちょっと、君。さっさと歩きなよ」

「む、むちゃなこと言わないで下さいよ!」




正一は涙ながらに執事に貰ったちくわを振り回して叫んだ。

万能なはずのちくわはすでに握り潰され、役に立ちそうにない。

現在、正一は囮という名の犬状態である。

護衛のはずの執事は情報を集めるため、部屋に引きこもってしまった。

餌の正一が一緒に部屋にいては話が進まない。

そこで執事は責任持って守れと恭弥とディーノに正一を託したのだ。

風紀委員は付近の捜索に借り出され、正一と恭弥、ディーノの三人はひたすらに並盛を歩いていた。




「おいおい恭弥!それじゃ正一が可哀想だろ?」

「何?傷付けなきゃいいんでしょ?口出ししないでくれる?」

「首に縄付けて放しゃいいってもんじゃねーだろ!」




ムスッとしている恭弥から縄を奪うとディーノは文句をいいながら正一の元へ走った。

囮捜査をするために恭弥は正一の首に縄を結びつけて、歩かせていた。

まるで犬の散歩だ。

それを哀れんだディーノが紐を解き、正一を慰める。

まともな人が居てよかったと正一は感動したのも束の間・・・。




「で、それが良い方法なの?」

「完璧だろ?」

誰か助けてー!!




恭弥は自信満々なディーノに呆れ返りながら、道路の真ん中で泣き叫んでいる正一を見た。

全身を縄で縛られて、いつ車が来るか分からない道に放り投げられているのだ。

自分より酷いのではと他人事のように感じながら、見つめていると怪しげな男達が正一を取り囲んだ。




「ほらな!」

「咬み殺す!」

「こら、待て!マフィアの相手は俺がやるッ!」




ディーノは鞭を取り出して恭弥を守ろうと腕を振るった。

だが、その無差別な鞭は恭弥へと向かい、軽やかにかわした恭弥は不機嫌そうに睨む。




あいたー!!




男達もあっさり避けて鞭の餌食になったのは動けない正一だけだった。

・・・どこまでも不運である。

手元が狂ったと不思議そうにしているディーノに恭弥は腹立たしげに口を開いた。




「その子に傷付けたことあなたが怒られなよ。ここは僕がヤる」

「ま・・・、」




正一に平謝りしていたディーノは静止の言葉を最後まで紡げなかった。

止める間もなくトンファーで殴りかかって行った恭弥のその鮮やかさに目を瞬いたのだ。

一般の子供がこんなに強くていいのか?

ディーノが気付いた時には立っている者はなく、恭弥はまだ意識のある男を見下ろして嗤った。




「道案内してもらうよ」

「おい、お前、喋った方が身のためだぜ?」

「もう帰らせてー!!」




三者三様の声に正一を襲った男は今すぐに気を失いたいと全力で思った。






***






『そうですか。そこに主人がいると・・・。これで情報が揃いました。後はこちらで洗います』

「あぁ。こっちは任せろ」

『いいですか。何を知っても恭弥君と殺し合いだけはしないで下さいよ』

「はは!何で俺が子供とやり合うんだ?そんなことするかよ」

『・・・真実は時に恐ろしいですから』

「?」




突っ走る恭弥を追いながら執事に連絡を入れたディーノは不思議そうにしながら電話を切った。

泣き叫ぶ正一は合流した部下に預け、ディーノはロマーリオと共にが捕まっているという港へ走った。

兄さんにはたくさん言いたいことがある。

とにかく今は暴走気味の恭弥を追わないと!

道行く一般人を殴り倒して進む恭弥にディーノは走るスピードを上げた。



目的の港に入り、倉庫やコンテナを片っ端から捜索して回る。

しかし、一向には見付からない。

なのに次から次へと敵が湧いて出てきて三人の行く手を阻む。

けして手を組んで戦っている訳ではないが、恭弥とディーノの二人は最強だった。

目の前を通れば危うく攻撃されるので、常に二人は一触即発状態ではあるが。

けれども戦う目的は同じため、邪魔ではあるが利用しない手はないということだ。

いい加減うんざりしてきた所に銃声とガラスが割れる音がした。

ハッとして見渡すと打ち上げられたガラスが日の光に反射しているのが見えた。

その直後、ロマーリオが微かなバイブ音を恭弥のポケットから拾った。

それを指摘すると恭弥は情報を引き出した男から奪った携帯の存在を思い出した。

通話に出ると、電話の向こうで男が正一の様子を聞いてきた。

恭弥は銃声がした建物をしばらく見つめて、小さく呟いた。




「ようやく見付けた。今から行くよ」




返答も聞かず、携帯を投げ捨てたのを合図に二人は銃声の聞こえた建物へと走り出した。

重い扉をこじ開けて暗い倉庫に入るとまだ電話を耳に当てたままの男と縛られて床に転がるティエラがいた。




「おい、大丈夫か?!今、助けて、」

「私よりもを!」




駆け寄って来るディーノにティエラは懸命に首を伸ばして叫んだ。

部屋の中枢部に来た時、恭弥の頬を何かが濡らし、ディーノもティエラが首で何かを示す素振りに気付き、

二人は見上げて絶句した。

頭上には鎖で宙吊りにされた血塗れのがいた。


* ひとやすみ *
・突入してきたのは弟二人でした。
 しかも何だかんだ言いながらも仲良く兄救出に来てます。笑
 正ちゃん、なんて不憫な子!!何だか一番主人公に似てるのは彼のような気がします。笑
 今後が目に見えて恐ろしい・・・・。                                   (10/05/28)