ドリーム小説

『ボンゴレのおかげで私の努力が水の泡よ』

「そうですか」

『もう限界だわ。のこと頼むわね、チクワ』

「えぇ」




受話器から耳を離した執事は小さな溜め息を吐いて、せっせと仕事に打ち込む主を見た。

本当にボンゴレは彼に碌なことをしない。

イタリアに戻っているティエラからの連絡はけして喜ばしい報告ではなかった。

不安はあれど、それでもの強さは揺るがない。

そう判断した執事は口を閉ざしたが、どこか胸中で燻ぶる物がある。




「どうした執事?何かあったのか?」

「いえ、特には」

「そうか」

「・・・・主人、」




いつもの執事らしくない歯切れの悪さには違和感を覚え、視線を上げた。

自分を呼ぶ声に戸惑いを感じる。

は目を瞬かせて執事の言葉を待つ。




「貴方はなのです。それをお忘れなく」

「・・・?分かってる」




分かりきってることを言われては怪訝に思いながらも頷いた。

これ以上は主を侮辱すると執事は瞑目し、言い知れぬ不安を飲み込んだ。

そしていつもの表情を貼り付けた執事は声のトーンを落として口を開いた。




「マナーがなっていませんね。不法侵入は犯罪ですよ、恭弥君」

「裏でこそこそやってる君に言われたくないね、執事チクワ」

「ちゃおッス、




不機嫌な恭弥とリボーンがなぜか部屋の入り口に立っていた。

ここを知らないはずの弟とアルコバレーノの登場には混乱に陥りながらも、険悪な雰囲気をヒシヒシと感じていた。

あまりに恐ろしい組合せに半泣き状態だったが、それが微塵も表情に出ない辺りは流石と言わざるを得ない。




「君が執事チクワとはね。随分好き勝手してくれたね」

「落ち着け、恭弥」

兄さんは黙ってて。君の飼い主が誰であろうと咬み殺す」




執事に宛てた言葉なのに、恭弥の鋭い眼光はに向いているように見えた。

息を呑んだのはで、今にも無差別格闘大会が始まりそうな空気に固まっている。

喧嘩を売られた当の本人はズレた眼鏡を押し上げて、フッと口元を緩めた。




「やれるものならどうぞ」




執事のその言葉に恭弥の目に炎が点った瞬間、戦いのゴングではなく電話が鳴った。

剣呑な雰囲気の中で響くコール音に救いを求めるように立ち上がったを邪魔するように、

激しくトンファーとちくわの攻防戦が繰り広げられる。

殺傷力を持ったちくわがの髪を散らして目の前を飛んでいき、は恐怖で微動だに出来ない。

けたたましく鳴り続ける電話をもろともせず、ヒートアップしていくデスマッチには噛み締めていた口を開いた。




「二人ともやめろ。でないと・・・」




俺、泣いちゃう・・・。

その一言を言葉に出来ず呑み込んだの様子に二人はピタリと動きを止めた。

金の瞳を細めて何かを堪えるように、口を開いたは無駄に迫力があったからだ。

剣呑な空気を裂くような何度目かのコール音に我に返ると、なぜかリボーンが受話器を取った。




「ちゃおッス。何だ、お前か。は弟と遊んでるぞ。あぁ、お前と違って強ぇからな」

「リボーン代わろう」




何だか好き勝手言っているリボーンに溜め息を吐きたい。

すんなりと電話を手放したリボーンから受話器を受け取ると、とんでもない叫び声が耳を突いた。




兄さん!弟なんて聞いてないぞ!』

「あー・・、いろいろあって、・・・・電話じゃ面倒だな」

『何だよそれ!俺には言えないってことなのか?!強いってまさか兄さんが、』

「?よく分からんが、アイツは強いぞ。俺よりもな」

『・・・・兄さんの馬鹿!じゃあ俺はなんッ』

「おい?もしもし?」

『ツーツーツー・・・』




ディーノとの会話の途中で切れた電話に首を傾げ、もう一度掛け直すが繋がらなかった。

その様子を見ていたリボーンと恭弥の雰囲気は最悪だった。

が親しそうに話す電話の相手を恭弥がリボーンに聞いたことが発端だ。

何の躊躇いもなく「実弟だ」と答えた赤ん坊に恭弥はムスーと不機嫌になり、

それだけならまだしもさらに爆弾が投下された。



『出来の悪い弟ほど可愛いという奴だ。へなちょこを助けるためにの奴、またイタリアに飛ぶかもな』



ピクリと動いた恭弥の眉毛が中央に寄り、釣り上がる。

恭弥にとって兄とイタリアの組合せは鬼門であった。

前回はちょっとで2年。

次はどうなる事かと電話の先の実弟に怒りを向けていた。


は声の聞こえなくなった受話器を置いて、室内の人達に視線を向けてギョッとした。

部屋に漂う暗黒オーラ。

恭弥はなぜかを、執事はリボーンを睨んでいるし、当の赤ん坊だけが涼しい顔をしている。

なぜこんなことに・・・。

は全て見なかったことにして、山積みの仕事を片付けることにした。








***








一方、イタリアでは、ディーノの携帯は無残にもバラバラに砕け散っていた。

車の陰から自分の携帯の欠片を見て、舌打ちする。

今はこんなことしてる場合じゃないのに!

キュインと金属特有の音をさせて、車のホイールを銃弾が掠めていく。

突然始まった銃撃戦に巻き込まれ携帯はご臨終、兄との会話は中断、挙句に見知らぬ弟の存在が発覚。

ディーノの機嫌は最高潮に悪かった。




「ヒュ〜!ボス、相変わらずモテモテだな」

「うるせぇよ。さっさと片付けて兄さんに電話するぞ!」

「了解」




ディーノは無造作に突っ込んであった銃を取り出して、弾が飛んでくる方角にぶっ放した。






ドサリと音がするのを聞きながら、ディーノは最後の一人を縛り上げた。

主犯格の男を見下ろしながら、可笑しな違和感に眉根を寄せる。

立場上マフィア同士のいざこざは絶えないが、下っ端にしては強いし、何よりまるで遊んでいるようだった。

捕獲されてるにも係わらず、相変わらず不敵な表情のままの男にディーノは嫌な予感が拭えない。




「さすがの弟、と言うべきかな」

「何だと・・・?」

「どうやら俺の仕事は終わったようだ。向こうも成功したようだし、長居は無用だな」




バシュッと音がしたと思えば、突然視界が煙に覆われ何も見えなくなった。

煙幕が晴れた頃には男は姿を消していた。




「ボス・・・」

「あぁ。アイツ俺をキャバッローネじゃなく、の弟と言いやがった」

「まさか」

「何か嫌な予感がするぜ。心配はしてないが聞きたいこともあるし、スケジュール調整して日本へ行く」




ディーノは酷く煙たい空を見上げて異国の兄を思った。


* ひとやすみ *
・さてさて。ようやっとここまできましたよ。
 うから編もあと少し。もうしばらくお付き合い下さいな。
 お互いの存在がバレました!波乱の予感がひしひしと伝わっているといいなぁ。
 さーて、どうなることやら。                                   (10/05/10)