ドリーム小説

「おはようございます、10代目!」

「はよっ、ツナ」




聞き慣れた声に振り返るとやっぱりそこには獄寺くんと山本がいた。

何だかいつもの光景にホッとして溜め息を吐くと、山本が俺の顔を覗き込んでいた。




「何かあったのか?」




何かあったも何も普段のあの五月蝿さが何でもない事のように思えるくらい昨日は何だかすごい1日だった。

いろいろ思い出して思わず獄寺くんの顔を見れば、何だか急に土下座して謝り出したから訂正を入れなきゃならなかった。

もー、何で獄寺くんはいつもこうなんだろ・・・。

ブンブンと首を振れば二人して不思議そうな顔をするから、俺は重い口を開いた。




「実は昨日、ビアンキが初恋の人と再会して何かすごいことになって・・・」

「姉貴が?!・・・ま、まさかあの超人?!」

「超人ってなんだ?」

「姉貴が言うには物凄くカッコよくて物凄く優しくて物凄く強くてって、とにかく何でも出来るスゲー奴らしいんだが、

 そんな奴、普通に考えているはずねぇだろーが!」

「でも、その通りの人だったよ」

「えぇー?!」




心底驚いたような顔をした獄寺くんの隣で山本は何か考えるような素振りをしている。

きっと、山本も知ってる人だから心当たりがあるんだ。

目が合った山本は考えを搾り出すように、そんな人を一人知っていると口にした。




「うん。さんなんだ」







***







昨日、補講を受けに学校へ行った帰りに偶然さんを見付けたんだ。

綺麗で怖くて静かで、近付きたいのに近寄り難い人だと初めて会った時にそう思ったんだよね。

あ、いや、まぁ、会うのはあれが2回目だったらしいんだけど。

帰って母さんに聞いてみたからそれは本当みたい。

もっと話してみたい、でも何だか怖い。

そんなことをグルグル考えていたら、さんがどんどん離れて行って気が付いたら声を掛けていた。

振り返ったさんの目に俺が映っている。

何で呼び止めたのかも次の言葉も全然思い浮かばなくて、俺は困った挙句「ウチに来ませんか」と言っていた。

意味不明すぎる自分の行動に頭を抱えたくなったその時、さんは薄く笑って頷いてくれた。

多分、俺の考えなんかお見通しで、さんは大人だから付き合ってくれたんだと思う。

家まで案内したら母さんが物凄く嬉しそうにさんに声を掛け、俺は自分の部屋に着替えを理由に逃げた。

正直、ここまで来たはいいけど、何をどうすればいいのか全然分からなかったから。




「ん?普通に野球のこととか学校のこととか話せばいいんじゃね?」

「この野球馬鹿!相手はあの男だぞ?!そんな話聞くような奴じゃねーだろ」

さんは聞いてくれると思うけど?」




うん。山本の言う通りさんは何でも聞いてくれる人だけど、まだその時の俺はさんが怖かったんだ。

何ていうか、あの雰囲気が凄すぎてさ。

俺はとりあえず咄嗟に理由にしたさんの本を掴んでリビングに向かった。

何だか入りづらくて扉の前で立ち往生してたら、話し声が聞こえて俺の話をしていたから耳を澄ました。



『綱吉は大物になる。俺が言うんだから間違いない』



何でそんな話をしていたのかは全然分からないけど、その言葉がすごく嬉しかった。

面と向かって言われたら嘘だと思ってしまうけど、俺のいない所でそんな言葉を言ってくれたのが嬉しかった。

何より「俺が言うんだから間違いない」という言葉はさんだからこそ重みがあった。

自分への絶対の自信が物凄くカッコいい。




「だよなー!」

「ふん!分かってるじゃねーか、アイツ。てか10代目の方がカッコいいッスよ!」




いやいや、そんなフォローはいらないよ、獄寺くん。

とにかく、そのカッコよさに怖さとかいろいろ吹っ飛んじゃったんだよね。

その後、一緒にお昼ご飯を食べてたらリボーン達が帰って来て、さん見た途端にビアンキが抱き付いてさ。

何て言うか、ビアンキってリボーンの愛人だって言ってるから何だか凄い雰囲気になっちゃって。




「うわー。昼ドラみたいなー」

「呑気なこと言ってんじゃねぇ!リボーンさんだぞ?!消されても不思議じゃねぇよ!」

「ははは!それでどうなったんだ?」




あー・・・。

何かビアンキが会いたかったとかさんのために料理を覚えたんだとか言い出して一触即発かと思ったんだけど、

リボーンがさすが俺の愛人だとかを選ぶとは見る目があるだとか言い出して・・・。

俺もよく分かんないんだけど、リボーンとさんは知り合いだったらしくてそのまま意気投合みたいな?




「ははは!小僧面白いな!」

「はぁ?!つまり姉貴のポイズンクッキングは奴のために出来たってことッスか?!」




そ、そう、なるかな・・・。

それでその後が何だか大変で「料理は愛情。それを教えてくれた貴方に私の料理を食べてほしいの」って

ビアンキが料理を出してきて空気が固まった。

どう見てもポイズンクッキングだし、逃げ場はなかったし。

冷や汗掻いて状況を見てたら母さんが楽しそうにテーブルの上を指差して「これ君が作ったのよ」と言ったら

ビアンキは料理を摘んで食べて絶望したように自分の料理を投げ捨てた。

「私より美味しい料理を作る人にこんな料理食べさせられないわ」とか何とか・・・。

しかも落ち込んでるビアンキにさんは何て言ったと思う?



『その気持ちだけで充分だ。それにお前の愛情が今リボーンに向いてるならそれを俺が貰う訳にはいかない』



その場にいた全員が雷に撃たれたようだったよ。

母さんとビアンキは愛に生きる女の宿命とか何とか言ってたけど、要するにさんはリボーンに押し付けたわけで。

自分の愛人だと豪語してるリボーンもさすがに反論できなかったみたい。

さんがあのリボーンを黙らせたんだよ?!




さん、すげーな!」

「あのリボーンさんが・・・・」




凄いのはそれだけじゃなくて、帰り際にさんが思い出したように振り返って

「綺麗になったな、ビアンキ」って言い残して帰って行ったんだよね・・・。




「「すげー・・・」」




だよねー・・・。

ポカンとした表情をしている獄寺くんと山本に深く同意しながら、俺はパンにかじりついた。

貴重な昼休みに俺なんかの話をしてよかったのか分からないけど、聞いてもらえてスッキリした。

さんは綺麗で怖くて静かで、近付きたいのに近寄り難い人だけど、ほんの少しだけ近付けた気がする。


* ひとやすみ *
・ツナの回想のターンでした!
 細かい所は妄想で補ってもらうとして、何だか勝手に凄い人にされてる主人公。笑
 おそらく泣きそうになりながら必死でポイズンの餌食から逃れようとしてたに違いない。
 何より一番可哀想なのは主人公のせいで味見役にさせられた獄寺くんだな。南無。笑          (10/04/27)