ドリーム小説

雲雀恭弥様と書かれたプレートを確かめ、俺は扉を叩いて返事の無い部屋に入った。

あー、遅かったかー・・・。

俺はすでに空っぽのベッドを見て心中で綱吉に謝り、部屋を独占している弟に視線を向けた。

恭弥は何も言わず、窓の外を見ている。




「恭弥」

「何しに来たの?」




視線を窓に向けたまま、恭弥はそう言った。

何しにって見舞い・・・ではないから、何だろう?

答えに詰まっていると恭弥がふと振り向いた。




「帰ってよ」




酷く冷たい物言いに恭弥の不機嫌の理由が俺にあると確信する。

両親の勘の良さに驚きながら、こんな事は初めてで俺は戸惑った。

これが反抗期って奴か?

俺の時は周りが怖すぎて反抗する気にもなれなかったけど、弟の変化に気付かないなんて兄失格だ。

俺は情けない自分に溜め息を吐いて、謝って出来る限りの事をしてあげようとオズオズと怒りの理由を聞いた。




「何が、気に食わないんだ、恭弥?」

「・・・兄さんはいつも澄ました顔で僕には何も教えてくれない」

「何の話だ?」

「そうやってはぐらかす。僕に言えないことを彼女には笑って言うんでしょッ」




ジャキッと金属特有の音を聴いた瞬間、俺は反射的に恭弥の腕を掴んだが、

ベッドの上から飛び掛るように襲い掛かられ俺達は床に転倒した。

背中いってぇ!!




「あー、大変兄弟仲睦まじい所、申し訳ないのですが失礼しますね」




床に転がってた俺達は入り口の方で立ち尽くす真っ赤なスーツの執事を見上げた。

どこが睦まじいんだよ!空気読め!

そして意外な所から反応が返って来て俺がビックリした。




「あなた、兄さんの・・・!」

「恭弥?」

「あぁ。主人の弟さんですから私にとっても弟のようなものですか。初めまして恭弥君」

「主人?」




何で恭弥が執事知ってんの?!

てか主人って言うなって言っただろー?!

お前の主人はレディだろと目で訴えれば彼女は軽く肩を竦めて黙った。

恭弥が尋常じゃないくらい目を見開いて、俺と執事を見比べている。

これは間違いなく俺が執事に給仕プレイか何かをさせてるとか思ってるよな?!

兄さん変態!とか言われたらどうしよう?!




兄さん・・・、僕に隠れてそんな事まで・・・?」

「ち、違うこれは、」

「そんな事はどうでもいいんです。それより緊急事態です」

「邪魔をするなら咬み殺すッ」

「恭弥止めろっ」




ギャー!何でお前らいきなり戦闘態勢なの?!

俺の手を振り切り、恭弥はトンファーを構えて執事に突っ込んで行った。

あーもー、俺、知らねー!

執事からの好戦的な視線を受け、俺は思わずビビッて視線を逸らす。

次の瞬間、懐から出てきた長いちくわを三本繋ぐと執事はそれで恭弥のトンファーをがっちり受け止めた。

ちくわ棍棒かよ・・・!

中に何か固い物が入っているようで、物凄く衝撃吸収率のいいそれで恭弥の膝裏を突いたり、攻撃をいなしている。

恭弥といい勝負とは、さすがレディの育てた執事だ。




「緊急事態だと言ったでしょう?病人なら大人しく寝てなさい、坊や」

「血の色なんて趣味が悪いね、おばさん」

「止めろ二人ともッ」




な、何て悪どいセリフだ・・・!

俺の言葉に顔を歪めながらも武器をしまった恭弥とケロリとした顔で離れた執事を見て溜め息を吐く。

睨み付けてる恭弥を余所に執事は真面目な顔をして俺に囁いた。




「実は数日前からイタリアにいるティーと連絡がつかなくなっていたのですが、先程連絡が入り彼女は今、」

『あぁ!!!無事だったのね!早くここから逃げて!彼等があなたを追ってるわ!』

「ティエラ?!」




バーンと扉を押し開け、飛び付いて来たティエラは安堵したように俺の頬にキスしてイタリア語で捲くし立てた。

疲れたように溜め息を吐いた執事が「彼女は今、日本に来ています」と力なく続けた。

何がどうなってるの?!

え、てか、恭弥お前なんて顔してんだよ?!




「・・・どっちが兄さんの嫁なの?」

「何の話だ?!」

「いい、恭弥君。結婚なんてものはね、戸籍上の形式であってあんな紙切れ意味なんかないわ。世の中には事実婚という・・・」

ややこしくなるからお前は黙ってろ!




一体どうしてこんな話に?!

あぁ、頭が痛い・・・!!




「そんなことどうでもいいのよ!跳ね馬がここに来てるの!を探してる!」




ディーノが?!

あ、でも、俺、逃げるの止めたから別にいいんだけど。

むしろあの時はリボーンが怖くて逃げちゃったから今度こそ話がしたい。

俺がディーノに会いたいと言う前に、執事が険しい顔をして呟いた。




「マズイですね」

「は?」

「ティー、トップレベルの緊急事態です。跳ね馬がここに居合わせれば病院崩壊どころじゃ済みません」




えー?!何その恐ろしい緊急事態って?!

何でディーノがここに来たら病院崩壊するの?!

お前、何する気だよ?!

俺の弟達に怪我させるのだけは勘弁してくれ!

同じく不思議そうな顔をしていたティエラだったが、ふと俺と恭弥を見て納得したように頷いた。




「あぁ、ブラコンなのね」

「はい。鉢合わせればとんでもない被害が出ます」




う、うるさい!

弟大事にして何が悪い?!

というか、俺がブラコンで何でそんな被害が出るわけ?

ティエラは俺の腕を引いて退室を促した。

残った執事が恭弥に何か言っていたけど、結局俺は恭弥が何で怒っていたのかも分からないまま病院を立ち去る羽目になった。

後日、なぜか前以上に冷めた視線を送ってくる恭弥に事情を聞いて悲鳴を上げることになるのだが、

その前に俺はとんでもないものに遭遇することになる。


* ひとやすみ *
・弟君の反抗期ですよ、お嬢様方!!笑
 そして何とも言い難いくらい相性の悪そうな執事と弟ですねー・・・笑
 病院崩壊・・・。物凄くデンジャラスな言葉ですが、有り得ない事はない弟達が
 一番恐ろしいです。次は恭弥視点になるかな?                             (10/02/25)