ドリーム小説

兄さんは強い。

それは昔から分かっていた事だけど、イタリアから帰って来た兄さんは前とは比べ物にならないほど力を付けていた。

イタリアで何があったのか僕は知らない。

両親は何か知っているのだろうけど、あの人達に聞く事は絶対にないだろう。

・・・馬鹿にされるに決まっている。

とにかく、兄さんは帰国して風紀委員は伝説の委員長の帰還に喜んでいた。

だけど兄さんはすぐに委員長職を僕に譲った。




「僕でいいの?」

「嫌か?」

「・・・兄さんの方が適任だと思うけど」




副委員長の視線が何としてでも兄さんを引き止めろと言っていた。

僕は元々代理だっただけだし、どう考えても兄さんの方が委員を統率するのに向いている。

引き止めようと遠回しにそう言えば、兄さんは小さく溜め息を吐いて納得するように呟いた。




「そうか。コイツら纏められるのは恭弥しかいないと思ったんだが、やっぱりお前には無理か」




・・・何だかムッとした。

まるで僕が怯えてる小動物みたいに思われている様でムカついた。

気が付けば委員長をやると答えていて、僕の言葉に兄さんは意地の悪い顔で任せたと笑った。

・・・嵌められた気がする。

だけどあんまり嬉しそうに兄さんが笑うから、僕は騙されたフリをして素直に頷いた。

草壁兄副委員長も兄さんに丸め込まれて、高校を卒業するまで彼は僕の副委員長を務めた。

彼は弱いくせに僕に散々文句を言うし、煩いので咬み殺せば僕が兄さんに怒られ、酷く迷惑な副委員長だった。

今は何の因果か、その弟が並中の副委員長を務めている。

僕は溜め息を吐いて草壁元副委員長が置いていった兄さんの肖像画を見上げた。

すると、突然無許可で草食動物の群が応接室に侵入してきた。

わお、僕の前で群れるなんていい根性してるね?






***






家へ帰ると相変わらず騒がしい夫婦の声が聞こえ、どこか殺気が漂っている。

何事だと声のする方へ向かえば、視線が合うより先に兄さんの声が聞こえた。




「おかえり、恭弥」




殺伐とした雰囲気を兄さんは全く気にした様子もなく、僕を見て金色の瞳を細めて微笑んだ。

その神々しいまでに優しい表情を向けられると僕はいつも面食らってしまう。

いつまで経っても慣れなくて、身体の奥が何だかムズ痒い。




「ただいま」




ホッと吐き出すようにそう言ってみたものの、何だか兄さんを凝視出来なくて荷物を置きに部屋へと逃げ込んだ。

戻ってみると両親は相変わらずくだらない話をしていて、兄さんはジッと煮物を見ていた。

ふと視線を上げた兄さんは少し困った顔で僕を見上げ、それからすぐに食事に手を合わせた。

・・・何?

兄さんが見ていた煮物を食べると思ってた以上に美味しくて、箸が進む。

今日はなかなか面白い一日だった。

応接室に侵入してきた草食動物は最近学校を騒がしている三人組で、しかも面白い赤ん坊が付いてきた。




「恭弥、何かいい事でもあったか?」




まるで心を読まれたようなタイミングで声を掛けられ、思わず兄さんの顔を見た。

何で分かったの?

心を読むっていうのは強ち間違いじゃないかもしれない。

兄さんなら有り得ない事はないなと思っていると、兄さんは何でもないように煮物に箸を伸ばしていた。




「今日、面白い子と会ったんだ」




僕の言葉に兄さんは相槌を打って、良かったなと言わんばかりに笑っていた。

こういう時、兄さんはやっぱり特別だと思う。

何が特別なのかなんてさっぱり分からないけど、誰も兄さんの代わりは出来ないし、けして真似も出来ないだろうね。

たとえ誰かが何かをしようとしたとしても、

強くて優しくて怖くて綺麗な雲雀には絶対誰も勝てないよ。

あの赤ん坊でさえもね。







***







遅くなった。

見回りの途中でおかしな群が僕の行く手を阻むから、全て咬み殺して来た。

兄さんは普段何をしてるのかよく分からないけど、人助けをしてよく街にいるのを見掛ける。

兄さんの言う人助けや施しが何なのかは僕には理解出来ないけど、

理解しようと最近は咬み殺した後に救急車を呼ぶ事にしてみた。

これも立派な人助けだよね?

足早に学校へ戻り、正門が見えてきた所で、門から兄さんが出てきた。

学校に兄さんが来るなんて珍しい。

声を掛けようとした所で携帯が着信を知らせる。

相手は目の前の兄さんだった。

僕は電話に出て、背を向けてどんどん離れていく兄さんの後を追った。




『恭弥、今外だよな?』

「そうだけど」

『悪い。今日は帰れない』

「ちょ、兄さん?!」




そこで通話は一方的に切られ、足早に家ではない方角へ進んでいく兄さんを僕はそのまま追いかけた。

帰国してから出掛ける時は必ず連絡を入れると約束してくれたけど、今の説明は酷すぎるよ。

不信感いっぱいで後を追うと、並盛でも一、二を争う高級マンションに兄さんは迷い無く入って行った。

そしてとある部屋のチャイムを押して出てきたのは赤いスーツを着た女。

兄さんに似合わない派手な女は兄さんを部屋へと誘い、そして兄さんは女に満面の笑みで応えて部屋へと消えていった。

扉が閉まる瞬間、女と目が合ったけど僕はしばらく動けなかった。

あの禍々しいほど赤いのが兄さんの彼女・・・?

それからだんだん腹が立ってきた。

また兄さんに隠し事をされた。

秘密が多いのは知ってるけど、兄さんは僕に何も教えてくれない。

さっきのあの女に向けた兄さんの笑顔を思い出して、ムカムカしてきた僕はそのまま学校へ引き返した。


* ひとやすみ *
・どこに入れるか迷ったけど、とりあえずここに恭弥視点を入れてみた。
 相変わらず兄ちゃんが嘘くさい。笑
 どこまでいくんだろうね、この兄ちゃん信仰は・・・。
 そんな訳で、目撃者は我等が弟、恭弥くんでした。あ、後が怖いね!!            (10/02/10)