ドリーム小説

帰国してから数年が経ち、俺の身体年齢は元の年齢を軽く追い越してしまった。

気が付けば恭弥は並中生だし、俺は社会人だし、時間というのはビックリするぐらい早い。

この数年でいろいろと変わった事はあったけど、俺は雲雀としてこの並盛に馴染んでいた。

母さんが食事の準備をしているのを眺めながら俺は隣の父さんに声を掛けた。




「父さん、また竹寿司に行ったのか?」

「あれ?何で知ってるんだい?昼食を食べに行ったよ」

「生簀の造り用の魚を勝手に焼いて食べたって剛さん怒ってた」

「はは、彼、照れ屋だから」




この男、どうしてくれよう・・・。

もう何からツッ込んでいいやら分かんねーよ!

勝手に寿司屋で調理してる事か、造り用の魚を焼いて食べた事か、ブチ切れてる剛さんを照れ屋で済ませちゃう事か。

とりあえず、何でもいいから俺に迷惑を掛けてくれるな。

父さんのせいで竹寿司に顔出し辛いんだからな!

そんなこんなで父さんは剛さんに物凄く嫌われている。

それはもう尋常じゃないくらいの拒否反応で、初めて竹寿司に父さんと行った時、俺は地獄を見た。

父さんは剛さんを先輩だと言ったけど、剛さんは父さんをゾウリムシだと言ったんだぞ?

・・・ホント、過去に何したんだよ、父さん。

溜め息を吐いた俺に母さんは苦笑して、夕食をテーブルに並べた。

あ、煮物、美味しそう。




、本屋でお手伝いしてあげたんですって?」




一瞬、何で知ってんだ?と思ったが、商店街は母さんの庭だから気にしたら負けだと思い直した。

何故かその手の情報を母さんは網羅している。

コクリと頷けば、母さんはニッコリして花屋の婆さんにいい息子を持ったと誉められたと言った。




がいい子に育ってくれて嬉しいわ!私に似たのね!」

「僕に似たんだよ」

・・・私よ?

はは、僕だよ?




ま、待て!落ち着け両親よ!!

何を言い争ってんだか知らないけど、二人とも箸がミシミシ言ってるって!!

殺伐とした空気に焦っていた俺を助けてくれたのは弟だった。

玄関から歩いてくる気配に俺は嬉々として視線を向けた。




「おかえり、恭弥」




何とかしてくれ、と視線を向けると恭弥は数回瞬きをして、ふわっと笑ってただいまと返してくれた。

我が弟ながら、その笑顔は反則だ・・・!

一瞬にしてこの火花飛び交う部屋に花が舞った気がするのは兄ちゃんだけか?!

いくら小学生の頃から並盛の秩序として大暴れしてて恐ろしかろうと、こうしてれば可愛い弟なのだ。

大体、そうなったのも俺のせいかもしれないし。

帰国後、何でか俺の代わりに委員長代理を務めてた恭弥がすごく優秀だと草壁から聞き、

俺はあっさり恭弥に委員長職を譲った。

いや、だって、有能な委員長の方がいいだろ?

そしたら何でか恭弥の奴、「僕でいいの?」って聞くからやりたいんだと思って

「恭弥しかいない」って勧めたら目を輝かせて速攻で頷いたんだよなー。

でもいくらやりたそうだったからって、小さい恭弥に負担を掛け過ぎた気がする。

俺だってあの荒くれ者束ねるの怖いし、しんどかったんだ。

恭弥の苦労はもっとだったに違いない。

俺ってホントに馬鹿!


いつの間にか荷物を置いて隣に座っていた恭弥に内心で謝り倒して、俺は目の前の食事に手を合わせた。

黙々と箸を進めていると、ふと恭弥の食事のペースが速い事に気付いた。

よっぽど腹が減っていたのか、それとも・・・。




「恭弥、何かいい事でもあったか?」




箸を止めた恭弥はキョトンと俺を見上げている。

当たりか。

表情の変化に乏しい恭弥だけど、俺、お兄ちゃん。

分からない訳がない。

煮物に箸を伸ばせば呟くような声が聞こえた。




「今日、面白い子と会ったんだ」

「へぇ」

「・・・また会いたいな」




これはまた、スゴイ子が居たもんだ。

恭弥にそう言わせる奴なんてそうそう居ない。

よっぽど気に入ったんだなぁと少しばかり微笑ましい気持ちで弟を見守った。

それが何の予兆か、全く気付かなかった俺は真性の馬鹿だ。







***







君?」




どれだけ本に集中していたのか名前を呼ばれて顔を上げると「やっぱり」と柔らかい笑顔が向けられた。

お気に入りのコーヒーショップのテラスで本を読んでいると声を掛けられ、俺はすぐに栞を挿んで閉じた。

この人の笑顔の前ではどんな本も頭に入る訳がない。

何せこの人は俺の初恋の人だ。




「奈々さん、買い物?」

「えぇ、そうなの」




腕に掛けられた重そうなスーパーの袋を揺らす奈々さんに小さく笑って荷物を持ってあげる。

俺ってば紳士・・・って重っ!

申し訳なさそうな顔をした奈々さんに少し考えて、代わりに俺の本を持ってもらう事にした。

必然的にテラスを出る事になったけど、冷めたコーヒーに未練はない。

沢田家に向かって案内してもらいながら、ふと思う。

出会いとは不思議なものだ。

一目で恋に落ち、次の瞬間には失恋という器用な俺の初恋の人だが、今はこうやって話せる年上の人。

奈々さんとはこんな風によく町中で出会うけど、綱吉とは小さい頃に一度会ったきりだ。




「随分買い込んだな」

「あら、こんなの1日で全部無くなっちゃうわよ」

「・・・綱吉が?」




こんな量を消費するのかと驚くと、奈々さんはクスクスと笑って首を振った。

じゃあ誰がと眉を顰めれば何てことない返事が返って来たが、その言葉は俺に強力な爆弾を落とした。




「ふふふ。今、うちには小さな家庭教師とおチビちゃんと美人なお姉さんがいるからね」




何ですとぉ?!

立ち止まった俺に奈々さんはここが家だと指を差し、見上げると二階の部屋が派手に爆発した。

それこそまさに俺の心境を表していたが二階の窓から降って来た仔牛を見た瞬間、その場から逃げ去った俺は悪くない。

一体いつの間に?!

何ていうか、これって、すでに、原作突入ー?!


* ひとやすみ *
・ようやく時間軸が原作に!
 む、難しいよ!原作沿いとか書いちゃってるお方を心底尊敬します!!!
 何というか、設定上の都合で原作捻じ曲げちゃう所が出るやもしれません。
 それは出来る限り避けたいんですが、そうなった場合は黙ってウィンドウを閉じるか
 ドーンと来い!と両手を広げて待ち構えて下さると嬉しいです。
 実は奈々さんが初恋の人。一瞬だけだから初恋とも呼べるか怪しいが、そう思いたいお年頃。笑      (10/01/23)