ドリーム小説
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「・・・・・・・・・・何してんだ、ティエラ」
ここに来るまでに心底疲れたけれど、まだ疲れる事の出来た自分に泣きたくなった。
確かに黒でコーディネートされたメイド服はとても彼女に似合っているが、ここはいつからメイド喫茶に?
俺はレディの屋敷に帰って来たはずだったんだが、場所を間違えたんではないだろうか・・・?
いや、隣でチクワ笛を演奏しているメガネっ子がここであっていると激しく主張している。
「あらお帰り、。どうだった、センチメンタルジャーニーは?」
ニマニマと悪戯っぽく笑って俺を見たレディにようやく帰ってきたと実感出来た。
よりによってセンチメンタルジャーニーかよ。
小さく笑って返した俺の耳に伊代姉さんの曲が切なく響いた。
あぁ、そんなのも吹けるのかチクワ笛・・・。
***
場所を移してソファに座り込んだ俺にティエラが給仕をしてくれる。
ボンゴレとヴァリアーを追い出された彼女を俺が拾った。
と言っても、俺もずっとヴァリアーから出れなかったから結局レディに頼んだのだけど。
そしてこの1年半で彼女は完璧にちくわ執事に毒されてしまっていた。
やっぱ俺、判断間違ったよな・・・。
全く、俺は後悔してばかりだ。
イタリアに来てからと言うものの、俺はずっと一人で空回りを続けている。
一体、俺は何がしたかったのだろう?
「結局、俺は何も出来なかった。目の前で起きているのにただ見ていただけだ」
誰に言った訳でもなかったけど、気が付けばそう口にしていた。
ソーサーからカップを離したレディはただのんびりと紅茶を口に運び、ティエラも黙ってケーキを目の前に置いた。
背後で執事が紅茶を落とす音を聞きながら、俺はまた一つ呟いた。
「俺は無力だ」
「そんな事ありません!」
パタリと倒れたケーキと頭上で聞こえた否定の声に思わず視線を向けるとハッとしたティエラが頭を下げた。
いや、悪いとかでなくてビックリしたって言うか。
面白そうにしたレディがティエラに続けろと言い、俺も彼女を見た。
「結局、私は様の制止を振り切り罪を犯したけれど、それは私が選んだからです。
憎しみで何も見えなかったあの時は選択肢なんてなかった。たとえ結果は同じでも、私は兄の残したヴァリアーを
潰させないように戦えたし、私はそれを後悔していません。全て様が居てくれたからです」
「、何もしなくてもただ傍にいるだけで救われる事だってあるのよ」
「間違いなくザンザス様もそうだったはずです!」
女性二人が結託してあんまり強く言うもんだから、俺はだんだん自分が恥ずかしくなってきた。
何か俺の方が女々しいじゃん・・・。
そうなのかな?
俺ただそこに居ただけだけど、無駄じゃなかったのかな、ザンザス。
何だかニコニコして俺の顔を見てくるティエラに無性にムズ痒くなって誤魔化すように言った。
「その変な敬語、何とかならないか?」
「様が是非にと仰るなら」
「是非」
ゲッソリとそう言った俺を可笑しそうにレディが笑い、執事に紅茶のおかわりを頼んだ。
執事とティエラもテーブルに着き、並んだ6つのティーカップを見ながら俺は今まであった話をレディに聞かせた。
骸達を拾った事を話した辺りでとんでもない誤解が発覚して俺は泣きたくなった。
「え、だって隊長がは嫁でも恋人でもない奴を孕ませて子供三人も生ませた最低男だから近付くなって」
何じゃそりゃー?!
ティエラの困惑した声に俺は思いっきり否定し、レディは腹を抱えて笑った。
あのカス鮫!覚えてろよ!
道理でヴァリアーの女性陣が俺見て涙浮かべるし、近付いてこないと思った。
俺、どんだけ酷い男だよ!
まだプンスカしながら話していると、レディが急に口を重くして言った。
「そうだ。の実の両親のことなんだけど、」
「聞いた。お袋が病気で先立ち、親父が撃たれて死んだって」
「ごめんなさい、!私、あの時は知らなくて」
「いや。ずっと気になっていたから会いたかったが、こればかりは仕方ないだろ」
「ずっと父さんに会いたかったのか?」
「まぁな。最後は演技のためとはいえ、蹴り飛ばしたし」
「ママンにも?」
「産んでくれた人だ。とうぜ、ん・・・ん?」
俺は耳に残る違和感に眉根を寄せて周りをよく見て、あんぐりと口を開いた。
俺の向かいにレディと執事、隣にティエラさらにその隣に二人誰かがいた。
「お袋、親父!」
「わー!!会いたかったよ!!」
「ずるいわあなた!私も私も!!」
抱き付いて来た実の両親に何が何だか分からない。
被害を受けたティエラが苦笑して席を譲ってくれて、レディは疲れたように溜め息を吐いていた。
な、何?何で生きてんの、アナタ方?!
「うふふ。実は私旅行に行きたくてレディに頼んで病気で亡くなった事にしてもらったの!」
「は?」
「ついでに父さんもお願いしたんだよ」
「はぁ?」
馬鹿じゃないか、この夫婦ー?!
突拍子もなさ過ぎて頭が痛くなった。
レディがどことなく疲れてるのは間違いなくこれらと生活を共にしていたからだと確信した。
本当は違うのよ、と俺の耳元で囁いたティエラに親父は苦笑した。
「嘘ではないけどな。でも俺がいるとディーノは育たなかった。それに病気で足をやられて、もう殆んど立てない」
「それでリボーンにディーノを預けて家督を譲ったのか。よくそれで刺青が移ったな」
「何だそんなの。ディーノがその器だった、ただそれだけだ」
自慢の息子だからな、と笑う親父がカッコよく見えたのは息子の贔屓目だろうか。
その後、6年間の空白を埋めるように3人でたくさん話しまくって、
深夜恥ずかしげもなく息子のベッドに潜り込んできた両親と狭いと言い合いながら眠りについた。
翌日すぐにイタリアを発つと言いながら、両親は俺に豪快な突撃をかまして念願の旅行へあっさり旅立って行った。
好きな人と好きな場所で好きなように生きてくれるならそれでいいや。
元気でな、父さん、母さん。
* ひとやすみ *
・ちょっと反則技だった気がしますが、そんな話。
父の死を利用してディーノを跳ね馬にさせた両親の根性。どちらも辛かったに違いない。
口にはしてないけれど、もう二度と両親とは会えないと主人公は何となく察しています。
ディーノは知らないのに主人公だけ何度も会えるなんてズルいですしね。
さてさて、かの伊代姉さんの名曲を知ってる世代が何人いる事やら。笑
父の急逝話やティーカップの数に気付いた方、お見事です! (09/11/21)